【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(17)

中国ムスリム(回族)鍼灸師姉妹(2)

坪野 和子


 節分が終わりました、バレンタインデーも終わりました。私は昨年の節分以降から、なぜかイスラムの人たちを深く理解するための1年でした。そして、日本における宗教に対する先入観を知った日々でした。

 宗教対立に関しては、日本では公平な歴史観とは何か深く考えることなく、社会科の教科書で知り得たことを基準にしているのだと考えさせられました。
 国教がイスラムである場合と信仰の自由でイスラムである場合と微妙な言い回しで信仰を許可している場合と基本信仰を持たない自由という場合と、それぞれの国によって異なるのだとも理解することができました。

 日本人やインド人・ネパール人のような多神教で神様がそこらへんにいる宗教と、天に神がいるイスラム教・ユダヤ教・キリスト教と、「共産主義」という名の宗教。
 イスラムと「共産主義」の狭間、中国で過ごし、多神教の日本で生活する友人。前回に続き、そんな彼女らについて。

◆日本の「資格」(2)

 文革前後に日本に留学した中国籍の人たちは、ほぼすべて国費留学生です。中国国内でそれなりの学歴があり、現地でそれなりの実績もあります。ですが、言葉の違う日本、習慣の違う日本、文化の違う日本…なによりも「制度」が違う日本。現地でそれなりの仕事に就いていたにもかかわらず、「日本の資格」を要求され、彼女たちが日本の医師資格を取得するには年数もお金もかかるため、鍼灸の資格を選びました。

◆日本は自腹

 お姉さんは、中国で卓球の選手でした。ただしプロ志向ではなく、アマチュアとして。選手でした。練習会場の費用もレッスンも遠征もすべて国がスポンサーでした。ですから、日本ですべて自費ということに驚いたそうです。私は昨今、台湾と関わった文化交流行事に参加して思ったのですが、中国におけるスポンサーのシステムは決して共産主義国家だからではなく、お金があるところから援助するのが当たり前という中国の伝統なんだと。結局、彼女は日本でスポーツイベントに選手で参加するということは自腹を切る必要がある…ちょっと無理かなって諦めてしまいました。今は、普通に卓球を楽しむグループと遊ぶことに徹しているそうです。

◆日本に来て良かったこと。礼節

 「日本って礼節の国だとずっと思っている。どんな場所でも相手でも礼節があって生活している。中国は他人を尊重しない。自分が勝てばいいと思っているから」

◆日本人は自分を抑圧

 彼女たちが患者さんに対してよく言う言葉は「大丈夫? 疲れているでしょ?」です。
 「大丈夫」は日本語がペラペラな外国人が多用する単語ですが、彼女たちが使っている場合は身体だけでなく心のわだかまりがあったのか、という意味で使っています。
 そして「日本人は自分を抑圧しているから大変よね。言いたいことを言わないし、誰かに言われたことを黙って受け止めているから(空気を読む)」
 彼女たちと話していると「日本人は自分を抑圧している」が連発です。

◆橋を架ける…ではなく橋を渡る

 中国人やたらと「橋を架ける」って言うなと思っていたのですが、彼女たちから別観点で。公式な場所で「日中友好の橋を架ける」という言葉を耳にしたり文章で読んだりすることがあります。しかし、中国人にとって「橋」というのは「渡る」が前提なのです。
 橋があったとして、私たち日本人は、その橋をまっすぐ列を作って歩けば、向こう岸に時間がかかっても渡れます。ですが、中国では人が多いので、列を作るより我先に。そして、橋を渡るっていうことは、人が多かった場合、どうするの?? かき分ける?? だぶん、日本人だったら列を作って並んでみんなで渡って行くだろうと思う。だけど、中国人だったら我先にかき分けるではなくって前の人を突き飛ばしたり、前の人を押しのけたり、とにかく自分が先に行きたがる。

◆外国人といると楽しい 旅行が好き

 彼女たちは日本が好きなのですが、それでも日本以外の外国人との交流は精神的にオープンなので楽しい、また日本を出る旅行も楽しい。彼女たち、私と同年代なんで、政治体制やその他の事情は関係なく実は同時代を共有していて、私たち日本人が「共産中国」の人民を勘違いしているのではないかと思います。

◆近所は親戚より大切

 彼女たちが日本に来て常に大切にしていること。「遠くの親族より近くの他人」という本来の日本的なコミュニティー。2011年の地震のとき、助け合いを感じ合ったそうです。

◆ご飯食べに行きましょう

 彼女たちとイスラム女子会をしようねって、ずっと。錦糸町のムスリム飯店と西川口のザムザムの泉。中華ハラール。
 (次回は「韓国アカスリ」)

 (高校時間講師)

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