中国人の日本観・日本人観(中編)

■北から南から

中国人の日本観・日本人観(中編)深せん  佐藤 美和子

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〔96~97年・北京〕

 96年春、ニ度目の留学のために訪中した私は、僅か5年で起こったあ
まりの変化にかなり戸惑いました。まず物質面が飛躍的に豊かになって
いて、日本で見慣れた外資系メーカー品が増えていること、さらに北京
など都市部の人々は、少しでも人よりいい生活を求めるのに忙しく、も
はや外国人などにさほど関心を抱かなくなっていたんです。5年前は外
国人が少なかったためか、ある意味見世物パンダ的な扱いだったのに…。 
 91年には私や私の持ち物に興味津々で、すぐ囲まれてしまった列車の
旅も、96年には何十時間と乗っていてもまったく誰にも声を掛けられず
仕舞ということも多々あり、声を掛けてくるのは何か下心がありそうな
人が多かったですね~。世知辛い世の中になったなぁ、なんて思ったも
のです。長い列車の旅、全く声を掛けられないと、これはこれで退屈な
んですよねぇ。車内で小さな子を見つけては折り紙や紙飛行機、あやと
りなどを教えて、もっぱら子供とばかり交流していました。
 それでもこの頃はまだ、反日感情は殆ど感じませんでした。逆に、そ
の頃急激に増えた韓国人留学生やビジネスマンの評判の悪さが、日本人
の評価を上げる格好となっていました。 
 92年に中国と韓国が国交樹立する前は、中国では韓国人を一人も見た
ことがなかったのですが、96年にはどこの大学でも韓国人留学生が半数
近くを占めるほどの勢いでした。一概には言えませんが、韓国人は韓国
人同士で固まって自民族の習慣をそのまま持ち込み、郷に入っては郷に
従わないタイプが多かったですね。そのためか、タクシーに乗ったとき、
運転手に
「あんた、外国人だな?韓国人か、日本人か?」
とよく尋ねられました。日本人だけど?と答えると、
「ならいいよ、韓国人には乗車拒否してるもんでね。韓国人は俺たち中
国が貧しいからって、見下した態度を取るので不愉快なんだ」
と言われたことも一度や二度ではありません。乗車拒否されて以来、タ
クシーに乗るときは日本人のフリをしている、という韓国人クラスメー
トもいました。

 そういった一部韓国人の横暴ぶりが目立ったお陰で、「日本人は韓国
人より礼儀正しい、韓国人よりは友好的、韓国人よりも真面目だ」とい
う対照評価を受け、日本人はずいぶん得していたと思います。
 その一年間で私が感じた明確な反日感情は、中国東北部を訪れたとき
の二度だけです。立ち席の切符しか取れずに困っていた列車の中で、あ
る列車員が言葉の不自由な外国人だからと優先的に座席を手配してく
れようとしていたのですが(この頃には私、多少話せるようになってい
たのですが、こういう時にはちょっとズルしてわざとたどたどしく発音
し、あまり話せないフリなんかしてました。えへへ、ゴメンナサイ)、
「何だって我々に酷いことをした日本人なんかに親切にしてやるん
だ?座席ナシの中国人乗客もたくさんいるのだから、我々同胞を優先に
し、それでも余っていたら日本人にもおこぼれをやればいい!」
と、わざとこちらに侮蔑の表情を見せ付けて憤っている彼の同僚列車員
がいました。中国語に不案内なフリをしていたので、何の反応も返せま
せんでしたが…。

 また、大連の街中を日本人の友達とおしゃべりしながら散歩していた
時、おまえたち日本人は昔日本がどんな酷いことをしたか知らないのか、
よくもこの東北に足を踏み入れられるもんだな!と、見知らぬ熟年男性
にすれ違いざま、訳もわからず罵られたこともあります。
 しかし同じ東北地方のハルピンでは、こんな事もありました。宿泊ホ
テルで3日間同じバスタオルのままだったので取替えを頼むと、半時も
の交渉の末(!)、
「もしかしてあなた日本人?なら仕方ないわね~、日本人の清潔好きは
知ってたけど、本当なのねぇ」
と妙に感心しながら交換してくれました。これを彼らの業務怠慢だと考
えれば腹が立ちます。でも結果的にこちらの民族的習慣?を知り、受け
入れてくれたと考えると、30分の交渉も無駄ではなかった、と思わせる
ものがありました。

 そうそう、その5年の間で、日本製家電への妄信的な感情は薄れつつ
あったと思います。お高い日本製輸入品を買っても、故障のときに対処
してくれるメーカー窓口が中国にない、かといって輸入品より割安の中
国工場生産の日本メーカー品を買えば、これはこれで日本製より品質が
劣り、しかも欧米メーカーよりアフターサービスがお粗末だ!と、苦情
を言ってくる人も…。ただの留学生の私にそんなこと言われたって困る
よ~。
 中国全土どこでも日本人ツアー客や修学旅行生を見かけるようにな
っていたこの頃、もう一つよく言われたのが、「日本人は大人しくて扱
いやすい」!
 約束と違う事をしたり、少々ごまかしたりしても、日本人は仕方ない
とあっさり引き下がるから、自己主張の激しい欧米人よりやり易い、な
ーんて人を馬鹿にしたような事を言う人にたくさん出会いました。まる
で、ゴネてはエンドレスにODAを引き出そうとしていた、どっかの政府
のような見解だな…。
 私は何か問題が発生すれば、面倒でも自分が納得するまで交渉し、絶
対に泣き寝入りはしないようにしています。これ、小さな事ですが、本
当に疲れる作業です。中国人はどうも理論的に話を進めるのが苦手な人
が多いみたいで、交渉事をしていてもすぐ感情論に持っていかれてしま
うからなんです。中年女性によく見られた面白い手口では、自分が不利
だと悟った途端、
「うっ、私は心臓が弱いのに、この日本人が私の事をいじめる~!」
 と胸をギュッとつかみ、脱力モノの下手くそな演技で被害者を装い、
周囲の人の同情をかって切り抜けようとする人がいるんです(笑)。中
国人って演技の下手な人、多いと思います。
 でも、もし私が簡単に引き下がれば、(日本人くみし易し)と相手に
思わせてしまい、結果ほかの日本人に迷惑をかけると思うので、おかし
いと思えば私はとことん食い下がります。すると、大抵の相手は
「あんた、ホントに日本人か?日本人ってのは大人しくて言う事をよく
聞く奴らだと思っていたが、あんたみたいな言う事聞かない日本人もい
るんだなぁ」

 と驚いて、とっても失礼な感想を述べるんですよね~(笑)。心の中
で思うだけにしておけばいいのに、わざわざ口にしちゃうストレートさ
が、中国人の面白いところです。でもこの事からも、いかに多くの日本
人が泣き寝入りしているかが分かるってもんでしょう?
 政府、一般人共に見られる日本人のこういう事なかれ主義や交渉下手
が、昨年の反日デモ騒ぎに見られるように、中国人の日本人観を助長さ
せたような気がします。日本には『判官贔屓』という言葉があるように、
弱い方を応援することもありますが、基本的に中国人は強いものが大好
きです。例えばサッカーだとブラジル贔屓が多いのですが、なぜブラジ
ルが好きなの?と尋ねると、たいてい「強いから」という答えが返って
くるほどです。強いものを好み、強いものには逆らわない中国。もし去
年の反日騒ぎの対象が日本ではなく、アメリカやロシアなどであれば、
あれほどの騒ぎにはならなかったのではないでしょうか。
 さて、前号で「二回に分けてご紹介する」と書いたのですが、色々書き
出していくと長くなってしまいました。『2001年以降編』も何だかんだ
とたくさんあるし、この次にまわそうと思います。という事で、3部作
(?)に変更させて頂きます。
(筆者は中国・深セン在住・日本語教師)
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