【コラム】
中国単信(67)

中国茶文化紀行(4)「喫茶」の原始型

趙 慶春
 
 今回はタイトルだけでは、すこしわかりづらいかもしれない。
 簡単に言えば、人間はどんなきっかけで「茶」という植物を発見し、最初は何の目的で、どんな形で、どのように利用したのか、を考えていきたい。言い換えれば、「茶の最初の利用法」についてである。

 まず、現代に至るまでの歴史上に出現した茶の利用方法について列挙しておきたい。
1.飲み物。この利用法が圧倒的に主流である。塊の固形茶(例えば、中国のプーアル茶)、散茶(例えば、中国の龍井茶、日本の玉露)、細かく裁断された砕茶(例えば、ティーパック)、粉状の末茶(例えば、日本の抹茶)など、形は多様だが、最終的にお湯を淹れて、あるいは煮て、その浸出液を飲む。

2.食べ物。いわゆる茶料理である。茶料理については稿をあらためて紹介するつもりだが、茶料理は台湾を含む中国や日本で注目され始めていて、まさに飛躍を遂げようとしている。茶料理と言っても、茶の浸出液を味付けして「調味料」として使うか、付属食材として使う場合が多い。ただ台湾では、茶の生葉の唐揚げが最近、登場し、より本格的茶料理への期待が膨らんできている。

3.半飲半食。茶の中に食べ物や飲み物を入れて喫する方法は中国の少数民族に数多く存在していて、多種多彩である。客家(はっか)族の「擂茶」(れいちゃ)は、お粥のような「飲み物」に近く、白(ぺい)族のそれはお茶漬けのような「食べ物」に近い。そしてモンゴル族の「ミルク茶」のように、自分の好みに合わせて入れるもの、その量を自由に調節する方法がむしろ多い。イギリス紅茶のようにミルクや砂糖、あるいは蜂蜜だけを入れる飲み方はこの部類ではなく、飲み物として考えられている。

4.調味料。中国では鶏などを燻製にする時、特性の味を引き出すために、木屑に茶を入れて煙で燻すことが珍しくない。この場合、茶及びその成分を直接は口に入れないのが特徴である。

5.噛み物。食べ物としてではなく、口で噛んで吐き出して捨てるという、ガムのような茶の利用方法は中国、タイ、日本にある。

6.薬。茶を薬用とする歴史は長く、利用幅も広い。中国だけでも処方箋は数千通りに及ぶ。内服薬として利用する場合が多いが、外科用に「塗る」や「洗う」場合もある。また茶葉のみならず、茶樹の根や茶油を利用する場合もある。保健食品としての利用法もこの部類に入る。

7.茶葉タバコ。プーアル茶の健康ブームに乗って開発されたものだが、売れ行きは芳ばしくないようだ。

8.消臭剤・芳香剤。茶殻をそのまま利用する場合もあれば、抽出エキスを利用する場合もある。

9.美容化粧品。茶の浸出液や茶殻をそのまま利用する場合もあれば、抽出エキスを利用する場合もある。

10. 工芸品。工芸プーアル茶はこの代表例である。固形茶の成形技術を使う。製品は飲み物ではなく、装飾工芸品。現在、中国の雲南省ではこのような茶工芸品が人気土産品として定着しつつある。

11. 縁起物。茶樹は移植できない特質があることから、「移植しない→移転しない=離婚しない」という発想になり、古くから茶の種あるいは茶が縁起物として、嫁入り道具の定番になっている。ただし、この習慣は最近、行われなくなりつつある。また、茶を祭祀に使う文献が数多く存在するが、祭祀の場合は「飲み物」の利用法に分類したい。

12. 魔除け。「鬼宿直日」に仏香、紙銭百貫を以て、よい茶を煎じて祀ると鬼はもう祟らずに済むという記録がある。

13. 包装材。高価な陶磁器を運搬する際に、その隙間に安い茶を入れて、緩衝材に使われていたが、包装材料が豊かになった現在、この方法が続いているのかは不明。

14. その他茶製品。例えば茶殻ソープ、茶殻枕など。

 それでは人類は上記のいずれを最初の茶利用法としたのだろうか。この問いは茶の歴史を語る時、どうしても明らかにしたいところだが、おそらく下記の二点から明確な回答を引き出せないと思われる。

 その1.中国で現存する最古の茶樹は、およそ3500年前のもので、しかも半栽培型である。つまり、その時代には人類はすでに茶という植物の利用価値を発見していたが、残念ながらまだ文字記録は残されていない。
 その2.それでも文字記録が出現してからでも、そこに残された記述に依拠することは可能なのだが、ここでまた「壁」に直面する。なぜなら、人類で最初に茶について記録を残した中国ではあったが、茶という植物を指す「茶」という文字がまだ発明されておらず、やむなく「荼」という文字を流用した。つまり、早期文献に見える「荼」が「茶」を指す可能性はあるものの、他の植物を指す可能性も否定できないからである。

 要するに「茶の最初の利用法」は、「薬用説」「飲用説」「食用説」など、いずれも仮説に過ぎない。そこで、ここでは「最初」ではなく「早期」について数点述べることにする。なお、ここでの「早期」とは、喫茶文化が確立された唐代以前の時期を指す。

(一) 飲用について——茶が飲み物になった時期。
 王褒の「僮約」にある「烹茶尽具」と「武陽買茶」の記録を見てみよう。原始文献のため、いずれも「茶」ではなく、「荼」という文字になっている。
 はっきり「茶」の意味を持つ以前の「荼」が表している植物は一応食用だが、その時代もその後も日常生活で常に食したという記録がない。このように日常生活に馴染みのなかった物に、「武陽」のような専用市場があり、専門道具があり、しかもわざわざ数十キロも歩いて買いに行くとはとうてい考えられない。前述したように「武陽」は有名な茶産地であったわけで、この文献の「荼」は「茶」を指すと考えるのが妥当だろう。
 王褒が使用人にわざわざ買いに行かせたのが「茶」であれば、その茶は「薬用」「飲用」「食用」のいずれだったのだろうか。薬ならば、定期的に買いに行くだろうか。中国の漢方薬は基本的に数種類の薬草を併用するため、一品だけ敢えて遠方へ買いに行くのは常識では考えにくい。また「食用」だったら、野菜のような使い方であろうから、わざわざ77キロも離れた遠方へ、その野菜だけを買いに行くのは不自然である。しかもこの「野菜」だけ他の調理道具と区別した道具で調理するのも奇異である。
 以上のことから「僮約」の茶は飲み物、しかも新興の飲み物という捉え方は合理的で、「僮約」が書かれた紀元前59年には茶はすでに飲み物として定着していたことになる。

 (二)薬用説について——「真」という文字の意味
 茶の「薬用」については、あまりにも専門的過ぎて、大多数の茶愛好家からはむしろ別分野と見なされている。実は筆者にも荷が重いのだが、茶文化の歴史を見てくると「薬用」について触れないわけにいかない。ここで一つのポイントだけ触れておく。
 早期茶資料の中に「薬用」としての茶に関する記述が複数ある。茶の効用を簡単に紹介するものだが、興味深い記述の資料が一点だけある。
 『桐君采薬録』に「巴東別有真茗荼、煎飲令人不眠。(巴東に別に真の茗荼があり、煎じて飲むと人を眠らせない)」とある。
 『桐君采薬録』は作者不詳で、およそ漢時代のものと推測される。「茗荼」は茶のことに違いないが、記録の中の「真」という字が実に興味深い。
 寡聞にしてこれまでの研究で、「真」の意味についてまともに取り組んだものは、まだ見当たらないようである。ただ普通に考えれば、「真」の対義語は「偽」である、喫茶文化がまだ普及していなかった時代に、茶の偽物が出たとは考えにくい。ここでは前述の「茶」と「荼」の文字の混用を思い出してもらいたい。つまり「茶」を意味する文字には「荼」という文字が使われていて、「荼」と記せば「茶」を指す可能性があったものの、別の植物を指す場合もあったわけである。
 例えば、同じ『桐君采薬録』には、次のような記述が続いている。「又南方有瓜芦木、亦似茗、至苦渋、取為屑荼飲、亦可通夜不眠」(また南方に瓜芦木という木があり、また茗に似ていて、極めて渋くて苦い、屑にして荼のように飲めば、また、徹夜不眠でいられる効果がある)。

 上記の最初に見える「亦」(また)という文字から、「茗」(「茶」)と似ている、あるいは混同しやすいものがほかにも複数あったことがわかる。また、「茶」に関しては「荼」のほかに異名もいくつかあり、採集時期の相違を表すもので、いずれもはっきり「茶」と特定できるものではない。つまり「茗・荼」だけで言うなら、瓜芦木のような別のものに勘違いされてしまう恐れがあるのだ。そのため『桐君采薬録』は、敢えて「茗・荼」の前に「真」の文字を加えて、「真」(本物)の「茶」であることを強調したのではないだろうか。
 この推測が間違っていなければ、以下の3点について断言できるだろう。
 1、茶に似ている別の植物は茶として出回って、利用されていた。
 2、茶だけ種々の薬用効果があったため、他の似た植物と区別するために「真」という文字を使った。「真」という文字は茶を宣伝する「売り文句」だった。
 3、薬用効果を「宣伝」、あるいは「強調」するために「真」が使われていたと考えるなら、当時は「薬用」は主流ではなく、「飲用」か「食用」が主流だったことを示唆している。

 (三)食用について
別稿で引用したように、晋の傅咸の『司隷校尉教』に「聞南市有蜀妪、作茶粥売之」(聞くところによると、南市に蜀出身の老婆が居て、茶粥を作って販売した)とある。
 茶粥とはどんなものか、はっきりわからないが、茶を使った「野菜スープ」か、穀物も入れた「お粥」のようなものだったのではないだろうか。いずれにしても「食用」範囲に属することになる。
 「薬用」「飲用」「食用」、いずれがいちばん最初だったのかは、断言できないが、茶利用の早期段階に、この三種類の利用方法がすでに存在していたようである。

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