低炭素社会への日本の道

■ 低炭素社会への日本の道          力石 定一

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  地球の気候変動をもたらすCO2の排出権を1990年のレベルに対して、
「日本は2020年に25%削減する」という鳩山首相の国連総会における宣言
は、日本国民と先進工業諸国民につよい共感を呼び起こした。

 物事を真剣に考える人達は、この共感の波動の中身をもっと明確なものにする
必要をひしひしと感じている。25%削減は、日本の国内の環境の範囲で「真水
」として実現しようということなのだろうか。排出権取引がひろがっている現状
を利用し、足りないところは海外からの排出権購入でカバーしようというのだろ
うか。

 また、日本が25%削減を叫んだことにより世界の関心が高まるという流
れが伴うことを条件としているのであって、そうでない場合は、別だと考えてる
のだろうか。さらに二度の石油危機時に日本の企業部門が取り組んだ先進工業国
のなかで際立った省エネ努力をバックに、「自分たちは手ぬぐいを絞り抜いた、
のだからこれ以上絞れと云われても」といった気分があるのではないか。
25%削減をどのような政策手段の組み合わせによって、形成したらよいか、様
々な情報をもれなく配慮しながら、検討すべきである。

◇(1)トラックによる中長距離輸送に伴う排気ガスを削減するには、現在建設
中の第二東名第二名神高速道路の中央分離帯などを利用して、挟軌、第三軌条方
式、電化の貨物専用鉄道を建設し、コンテナ専用列車を走らせ、これにトラック
の輸送をモーダルシフトするアイディアがある。
距離600km,平均時速90~100/h、動力分散駆動の5両編成コンテナ
車両を数編ずつ連結し、1日約20万トンを運ぶ計画である。道路勾配が急なと
ころではリニアモーター式(磁気浮上)の支援システムを使う。

 この「東海道物流新幹線構想」によって、現在トラック輸送に伴うCO2排出
量は228億t/年×153g/t÷100=349万tCO2/年である。こ
れを鉄道によるCO2排出量228億t/年×21g/t÷100≒49万tCO2
/年だけに引き下げることが可能となる。

 この構想は中村英夫東大名誉教授を代表とする専門家10人による委員会が
2008年6月に発表したものである。JR貨物の元会長が委員に入っておりJR
貨物の意向を反映するものであり、今日環境保全型公共投資の象徴的地位を占め
ている。

◇(2)乗用車を含む自動車利用の乱用からくる排気ガスを削減するには国の財
政のあり方
「道路特定財源」なるものを根本的に是正することである。
道路と自動車の果てしない悪循環を引き起こす特別会計の財政的メカニズムは国
税としての揮発油税、石油ガス税、自動車重量税、地方道路税、地方税としての
軽油取引税、自動車所得税といった沢山の目的税の体系が設定されて、国と政令
指定都市、市町村に配布されている。2000年に6兆円に達している。この目
的税を一般会計に入れ、特別会計からははずすべきだと財務省はかねてから主張
しているがこれでは「クルマ地獄」からの脱出を引き起こすことにはならない。

この目的税の目的そのものを変更し、総合交通体系整備特別会計とし、公共輸送
を中心とする交通体系を作り出してクルマ利用からモーダルシフトの流れを活発
化していくこである。
民主党のマニフェストは、この自動車文明からのモダルシフトという現代思想が
抜けており高速道路の無料化とか、ガソリン税の廃止とかの間の抜けた政策が国
民的な不評を買っている。

◇(3)太陽電池の利用拡大によって、化石燃料にるよ排気ガスからの離脱をす
すめるに際して、着目すべき諸点をみよう。
太陽電池は量産効果によるコスト低下が肝要である。
システム技術研究所の 屋治治紀氏の「学習曲線」によるとソーラーパネルは異
積生産量が2倍になるごとに設備コストは80%下がるという。

 量産効果を発揮できるように全国の災害避難所指定の学校4万校の屋根に大型
ソーラーパネルの設置義務を負わせるといった計画を実行することである。これ
によっていま在来電力の1kWあたり電灯料金は25円であるが、これを下回ると
20円のワット当り料金に達するであろう。ここへくれば市場競争を通じてソー
ラーパネル産業のスピンオフがおこるであろう。ドイツのように政府補助金をつ
けているやり方よりもオーソドックスであると思う。ドイツと違ってモンスーン
地帯に位置し、太陽光の強さも時間帯もはるかに大きい日本にふさわしいシナリ
オだと思う。

◇(4)燃料電池
  燃料電池は、天然ガスやバイオガスCH4からHだけを改質装置で分離して、(こ
の分離に必要な電力はソーラー電力を用いる)燃料電池に入れ、なかの触媒を介
してOと結合させて、H2O 水にする、このプロセスで、電気と200度位の熱を
とる熱併給の自家発電である。

家庭用の大型冷蔵庫と同じ位の大きさである。技術開発の実証試験段階にある
ことはたしかである。問題はこの件数があまりに少な過ぎることだ。
公的セクターに全面的に協力させて、もっと数多く設置し、実証テストの技術情
報をたくさん集めれば進歩が加速され、量産型段階に入りを繰り上げることがで
きる。このことは分っているのに、経済発展エンジンが、ここにあるというスピ
リットがないために、少ない件数だけで「いずれそのうちに」と日を送っている
状況である。

◇(5)天然ガス、パイプライン網
 
工業を操業したり、電車を運行したり、といった大容量の集中型の電力は火力
発電所によって供給される。それには、化石燃料のなかで、一番クリーンでCO
2排出も少ない天然ガスを用いる。継ぎ目なし鋼管の直径1mのパイプラインを
世界一の埋蔵量のあるロシアのヤクーツクからサハリンのオアフに引き、日本海
を海底パイプラインでこえて、日本列島を8の字型にパイプラインのネットワー
クで結ぶという平田賢東大名誉教授の構想に賛成である。

 これで運ばれる天然ガスは、マイナス162度に冷やして圧縮液化し専用船で
インドネシアや中近東のような遠方からもってくる液化天然ガスLNGに比べて、
近くて、何の加工もしないので、コストは半分になる。海岸に並んだLNGタ
ンクは競争で消滅する。
 
この天然ガスを用いた火力発電の電力は、つよい競争力をもつので石炭、石油
の火力発電や原子力発電、ダムによる水力発電も次々と競争に破れて消えゆくで
あろう。
都市ガスでプロパンガスを使っている地域が地方にはかなりあるが、これも、こ
のパイプラインからの天然ガスに切り替えられる。

 大容量の電力は天然ガス発電所からの系統電力に依存するが、個人住宅のよう
な分散型の電力は、雨天でなければ太陽電池をもちい、これに雨天の日も夜間も
終日利用できる燃料電池があれば、系統電力に全く依存しない自家発電になる。
乗用車も燃料電池車という形で、電気自動車化される。

◇(6)日本列島の仙台一酒田以南で標高500m~1000m以上といった高い
ところを除いた地域の潜在自然植生が常緑広葉樹林帯である。
しかしこの地帯の現存植生はどうかというと、環境自然保護局1999年の資料
によればシイ、タブ、カシなどの自然植生は僅か国土の15.45%である。
スギ、ヒノキのような針葉樹からなる人工林の面積は約25%と推定できる。

 森林は葉緑樹が太陽エネルギーを浴びてCO2を光合成する作用がある。炭素
固定力は1平方メートル当りの重量でみた容積密度で表される。林業試験場1982
によれば平均値と針葉樹は0.37t/立方メートル、落葉広葉樹は0.47t
/立方メートル、常緑広葉樹は0.61t/立方メートルといわれており、大き
な格差がある。
前述した植栽の占める比率を潜在自然植生の優位に変更することが、生態学的に
可能であれば排出CO2をより大きく吸収できるわけである。
それを考えてみよう。

 先ず、針葉樹林については、山の尾根部と急 斜面、水際といった地盤が弱い
ところの植林は激しい風雨におそわれると。その根が浅根性で抵抗力が弱いこと
もあって、倒木と土砂崩れがおこる。そこで土地の古老はこの3ヶ所を避けたと
ころに植林したものである。
私達は、この知恵を再評価し、この3ヶ所の人工林は間伐をしたときにその空間
に土留めをして有機物の盛り土をし、シイ、タブ、カシの常緑広葉樹のポット苗
を植え、葉や草をしっかりとつめこんでやる。苗は一年で活着する。

 陰樹の常緑広葉樹は針葉樹の間の日照の少ないのに耐えて1年1メートルのテ
ンポで成長して、追い抜き、針葉樹(陽樹)の上を覆うようになって、樹種の交替
がおこなわれる。
針葉樹林は、常緑広葉樹林を約30%含む混合林に変わる。この常緑広葉樹林は
25%×0.3=7.5%の国土面積を占める事になる。
  次に大きい面積を占める二次林については、クヌギ、コナラ林の薪炭林として
の輪作がおこなわれなくなっている。

 化石燃料に転換する前は、炭焼き用に20年毎に刈って燃料にし、残った根株
が株立ちして20年後にまた刈るというサイクルが行われて二次林は生きていた。
ところがこのサイクルが行われなくなると老木にまで成熟し、甲虫のカシノナガ
クイムシの寄生がおこるようになった。

 秋になって紅葉したのに今では夏の赤枯れが西日本から東方にひろがっている。
炭焼きでかっては焼き殺された虫は生き残って成木をからすのである。

 これに似ているのはマツクイムシのケースである。松枯れをひきおこしたのは
弱った松の枝は、かっては薪として焼かれていた化石燃料への転換のために薪利
用が減り焼け死をまぬがれてマツクイムシの被害がひろがった。最近マツクイム
シの害がみられなくなったのは、過剰な松が淘汰されてしまっことをあらわして
いる。
赤枯れした二次林は除伐してゴミ焼却炉で焼かれ常緑広葉樹のポット苗を代わり
に植栽する条件が生まれてきている。代償植生は国土面積の約16%であるがこ
こに国土面積の10%ちかくの常緑広葉樹林が生育することになる。

 常緑広葉樹林は1.6%+7.5+10%=19.1%で約20%の国土面積
比率に上昇し、森林の光合成機能は大幅に増加する事になろう。排出CO2の吸
収作用がつよまるだけでなく常緑広葉樹の根は針葉樹や落葉広葉樹の根が浅根性
なのに対し深根性の直根で、ひげ根を地下深く伸ばしていて岩盤をしっかりと把
握し、台風やゲリラ豪雨に対して、抵抗力をもつ。またその厚くかたい広葉は豪
雨もさえぎる傘の役割をもつ。土砂崩れを防止する強力な作用をもっているので、
異常気象時代の治山治水事業の中核となる。

 □(注)国土面積比率20%の常緑黄葉樹林増加によって排出CO2吸収量の
増加がもたらされるとすれば、各県毎に、企業や個人で排出せざるを得ないCO
2に応じて寄付を求め、吸収量増加作業のコストを相殺するように計らう県当局
の活動が承認されるようになるであろう。これは「排出権取引」ではなくてカー
ボンオフセット(相殺)制度の一種である。

◇(7)排出CO2は海を酸化させ海の生き物に被害を与える。しかし海には様々
の海草類一わかめ、てんぐさ、こんぶが存在し、太陽光線が届くところでは、
CO2を葉緑素が光合成することによって、中和させていることを忘れてはいけな
い。地上の人は土砂崩れなどで泥水が海水を濁らせないようにつとめなければな
らない。海水が濁れば太陽光線が海草に届かないために光合成機能を果たすこと
ができなくなるからである。
陸地と森林と海草との間の連携関係を忘れないようにすることである。

◇(8)CO2問題がグローバルば展開をみせてくるにつれて、化石燃料から原子
力エネルギーの利用を再評価すべきではないかという意見が拡大しつつある。
それについて最後に触れて置こう。
  チェルノブイリの事件は、原子炉の反応炉そのものが故障し放射能の拡散をお
こした事件であった。アメリカのスリースマイルの事件は、一次冷却水の故障に
よる放射能事故であった。(注)

 このことは、時間とともに「のどもと過ぎて熱さを忘れる」人々が増えてきて
いる。この二つへの警戒が厳重になり、その後の大事件が報じられなくなったこ
とも影響している。  
  しかし、問題は二次冷却水のなかにセシウム187やストロンチウム90とい
った発がん性物質物質が放出されてきていることについて正確な警戒論が確立さ
れていないことである。
  微量放射能が放出されているが人間は天然放射能を浴びておりこれに比べれば
100対5で微量であり許容量だということになっている。
  これは理論的に間違っている。

 天然放射能は、原子そのものは宇宙のかなた地殻の底にあって、そこから放射
線が放射されているのであるが原子そのものでないので生物によって濃縮される
ことはないから、原子そのものが人体に入るわけではない。それに対して二次冷
却水からでるセシウム187やストロンチウム90は原子そのものである。原子
炉では強烈な放射線や熱にさらされて丈夫な壁も腐敗したり、剥落したりして、
微量放射性物質が生じて二次冷却水のところに運ばれてくるのである。

これはプランクトンによって2000倍に濃縮され、プランクトンを食べる魚
で4万倍に濃縮され、魚を食べる人間に取り込まれる。セシウムはカリューム
の代わりにストロンチウムはカルシウムの代わりに生体に取り込まれ、細胞を
破壊してゆくことになる。
  この相違が各国背府によって認められ警告されるということはどこでも行われ
ていない。
「地球の友」のような団体によって主張され、学者間で広がっているだけである。
この認識の欠如が原子力エネルギーの再評価を発生させているのである。

□(注)チエルノブイリとスリーマイル以前にはスエーデン労働党やイタリア共産
党のような党も原子力発電賛成であった。
  この大事故以後、新規原発の建設反対し、既存の原発は耐用年限がくるまでは
利用するがそのあとは廃棄すると云っていた。
  それがまた元に戻って原発促進になるという工合で深い理論的考察を欠いた政
治グループである。

                      (筆者は法政大学名誉教授)

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