俳句9

■俳句; □ 富田 昌宏

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 躓づきて老いと向き合ふ今朝の秋

 秋出水農夫の背の震へをり

 秋の蝉落ちては五体投地めく

 穂芒に風なぎ重さありにけり

 かりんの木がむしやらに実をつけにけり

 天高し僧も蕎麦食ふ深大寺

 虫しぐれ手ぶらの客を囲みけり

 賞罰のなき履歴書や文化の日

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□ 太田 澪々子(博夫)

─────────────────────────────〔妻を偲ぶ句〕

 

  さくらさくまでのいのちやさくらさく

  病む妻の声のみ若し蝉しぐれ

  手を握るのみの看取りの霜夜かな

  秋霖や術なき妻の再入院
 

 もの云えず眼で「さようなら」冬ざるる

  凍て星にいのち召されて妻昇天

 骨になりし妻抱き帰る冷えし家

  木守柿妻逝きひとり暮らしかな

  妻小さくおさまる壷や梅白し

 骨納むわれもおぼろの浄土かな

  落椿散華の大地へ接吻す

 もう来ないひとを待ちつつ蓬摘む

 ひとり寝の寒の門燈あかあかと

  春の夜や遺影の妻よ眼を閉ざせ

  妻の忌くる地に曼荼羅の桜しべ

  ででむしやおとこやもめは米を研ぐ

  老ひとり暮らしになれて梅は実に

  手繰りても遠のく妻の凍宵花

  寄り添える妻の影消え流れ星

  わが米寿祝う妻なき無月かな