【日中・侃々諤々】

働く者の新たな交流を

山田 陽一


 本誌「オルタ」でも紹介いただいたが、私は昨年「日中労働組合交流史—60年の軌跡」を出版した。そこでは、これまで世間からほとんど忘れ去られていた、両国労働組合が戦後数十年にわたって続けてきた交流の記録を掘り起こす作業を行った。

 この本に目を通した友人の一人が、「かなり異質な両国の労働組合が、よくもこんなに長年にわたって交流してきたものだ」という感想を寄せた。たしかに、交流相手の中華全国総工会は、その綱領で自らは「中国共産党の指導下で・・・、党と労働者大衆を結ぶ紐帯であり、・・・国家政権の重要な社会的支柱である」と明言している。いうまでもなく、日本はじめ、多くの世界の労働組合が、経営者、政党、国家権力からの自立性を重んじるのとは対照的である。

 労働組合間の交流は、こうした組織の異質性にもかかわらず、相互に相手側の立場を理解しあって、働く者の同志意識、一衣帯水の隣人意識などを基盤に、「人民交流」の一翼を担ってきたのである。

 さて、今世紀に入ってグローバル化の急進展のもとで、日中関係は大いに変質し、安倍政権のもとでは、それが今や「氷点」にまで達したと言われている。この氷を溶かすには何が求められているのだろうか。

 まず、歴史の事実を確認し、隣人同士が理解し合うという、ごく当たり前のことが大前提になるのは言うまでもない。

 そのうえで、先に見たように、労働組合が長年の交流で営々と築いてきた信頼関係が力を発揮することだろう。また、これからの交流は、単なる友好交流でなく時代に即した新たな交流が求められる。ここでは、より具体的なテーマを持った、有効な交流方法が必要である。

 そこではまず、かたちは変わっても共通に国境を越えて進行する「格差社会」の克服への展望と対応策を探り合うことこそが、働くもの、労働組合の最重要の共通テーマであるといえよう。

 そして、このテーマへの取り組むにあたっては、氷点下にある日中2国間の交流に止まるのでなく、多国間、さらに言えば、これから世界史的にも重要さを増す、日・中・韓を軸とする東アジア圏に拡大した交流の枠組みを、労働組合を軸に恒常的な形でつくっていくことが効果的であろうというのが私の考えである。

 新年にあたって、中国の多くの友人から年賀の挨拶をもらった。その中には、仲間同士の日中友好の気持ちを、政治家たちに伝えようという言葉もあった。中国側にも、氷を溶かす気運のあることを感じたのである。

 (筆者は元連合国際政策局長)


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