八尾オンドルパンのハルモニと私の奮戦記(その4)

■【北から南から】
大阪から  高齢者だって喧嘩もすれば恋もする    除 正 寓 

―八尾オンドルパンのハルモニと私の奮戦記―(その4)

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1.ここまでやるか!?オンドルパンの生活相談


  私はオンドルパンでは代表とともに生活相談員という仕事をしています。生活
相談員とはデイサービス(通所介護事業所)や特養(特別養護老人ホーム)で。
利用者の介護計画を作成したり、ケアマネ(ケアマネージャー・介護支援専門員
)と連絡を取り合って情報交換を行うことにより、より適切な介護を実現する仕
事です。とはいっても、現実には利用者の送迎や介護の補助に入るなど、なんで
もありの仕事です。

 私の場合もやはり、なんでもありの仕事をしています。オンドルパンに通うハ
ルモニたちは以前も紹介したように、設立当初から毎日のようにデイサービスに
来ているため、家族のような関係にあることから、さまざまな相談が寄せられま
す。たくさんの相談が寄せられるということは、それだけ信頼関係が深いという
ことなので、私としてもやりがいがあります。ただ、相談の内容はほかの施設と
はかなり異なる側面があります。

一言で表現すれば、在日コリアン特有の生活の問題です。以下具体例を紹介し
ますが、これらの多くは介護保険制度に定められた生活相談の域を超えたもの
ばかりです。しかし、これらの相談に取り組まなければ、ハルモニたちの介護
にも支障をきたすので、文字通り、なんでもありの生活相談を日々行っていま
す。ケアマネさんからは「ここまでやるんですか?」と驚かれることもしばし
ばですが、そのことで信頼を寄せてくれる場合もあります。
いわば生活丸抱えの介護というわけです。


2.年金と生活保護


  オンドルパンのハルモニたちにとって、生活上最も深刻な問題は年金です。こ
れには少し説明が必要です。日本の年金制度は大きく二つあります。ひとつは被
用者年金。これは読んで字のごとく、被雇用者、つまり事業所に雇われている人
たちが加入する年金のことです。一般的には厚生年金と呼ばれています。この厚
生年金には、そもそも国籍条項(国籍による排除)がなく、在日コリアンも加入
は可能でした。しかし、オンドルパンのハルモニたちが元気に働いていたころの
時代は、厚生年金が完備された事業所に雇用されること自体が困難でした。いわ
ゆる就職差別の厳しかった時代です。

 1959年、政府は国民皆年金を実施するため、事業所に雇用されていない自
営業者、個人商店経営者、農家等を対象に国民年金法を成立させました。在日コ
リアンはここで救われなければならなかったはずなのですが、この肝心な国民年
金には加入に際して日本国民であることを条件とする国籍条項が付されました。

ここから在日コリアンの無年金問題が始まります。日本人でも無年金の人はいま
すが、年金に加入する資格があったのに、保険料を払わなかったために無年金に
なった場合が大半で、加入そのものが閉ざされていた在日コリアンとは場合が異
なります。このように制度から排除された在日コリアンの場合は一般的に「制度
上の無年金者」として日本人の場合とは区別されます。

 話を元に戻します。高齢で働けなくなった人たちは通常年金で生活をたてます
が、無年金の場合は生活保護しかありません。ここで問題が起きます。生活保護
は世帯全体の収入を合算し、その額が世帯全員の最低生活費(法律で定められた)
を下回った場合に対象とされます。すると子ども世帯と同居していた場合、収
入のない高齢者だけを対象に審査できないので、ほとんどの場合は生活保護の対
象になりません。収入のない高齢の親の生活を支えるのは相当な負担になります。

特に医療や介護にかかる費用はかなりの高額になるため、子どもに相当な収入
がない限り、共倒れの可能性もあります。そこまでいかないとしても、子ども世
帯との間に微妙な溝ができギクシャクした関係になることも少なくありません。
そのため、多くの場合、生活保護を受給するためにあえて子ども世帯と別居しま
す。世帯が分離されれば、子ども世帯の収入は関係がなくなりますので、高齢者
自身が無収入であれば容易に生活保護が認められることになるからです。

 今まで数多くの生活保護の相談にかかわりました。相談というよりも事実上の
代行です。なぜなら、ハルモニたちは読み書きができないため、生活保護の申請
方法をまったくといってよいほど知りません。そのため、相談を受けて市役所の
生活福祉課につなぐだけではなく、その間の書類の収集、事前の調整に取り組み
ます。

今では、市役所の担当者も私に信頼を置いてくれているようで、大体の手続き
関係は私が事実上の代行を行うことを認めてくれています。とはいっても、
担当者にすれば日本語が不自由で、読み書きのできないハルモニたちとの面接は
大変苦労するので、私のような中間アクセスの存在を重宝がっているようです。
私にしては、本来市役所の担当者がなすべき仕事を無報酬で担う必要などないの
ですが、申請に際して微妙な問題が生じたとき、ある程度は私の裁量に任せてく
れるので、ギブアンドテイクみたいなものです。そんなこんなで、今ではオンド
ルパンのハルモニたちの過半数は生活保護を受給するようになりました。


3.闇金、悪徳リフォーム業者、SF商法(宣伝)との対峙


  高齢者につきまとう悪徳商法はご他聞にもれずオンドルパンのハルモニたちに
も被害を与えています。4年前のことですが、いつも通っているハルモニが食事
代を払えないといいだしたので、なぜかとたずねると毎月の支払いがきついので、
手元にお金が残らないとのこと。このハルモニも生活保護を受給しています。

よく聞くと、借りた金を返しているとのことなので、良かったら借用証を見せて
ほしいと言ったところ、なんと借用書がないとのです。借りた金額とこれまで返
した金額を比較すると、とうの昔に返済は終了しているはずです。それでもなぜ
払うのかと聞くと、期限に遅れると電話で怒られるから仕方がないと言うのです。

そこで私は業者の電話番号を聞いて連絡し、今後は私が代理人として責任を持
つので、直接当事者には連絡しないよう要請するとともに、家の玄関前に私が代
理人である旨の書類を貼り付けておきました。一度だけ業者から私に電話があり、
凄んだ声で脅しをかけてきたので、私も負けずにそれ以上に凄んだところ、相
手は電話を切り、その後一切連絡をしてこなくなりました。悪徳リフォーム業者
の場合も同様でした。私たちの年代なら、なぜこんなことでお金を払うのかと理
解に苦しむようなケースでも、高齢者は必要以上に不安を感じてお金を払ってし
まうようです。

 SF商法、いわゆる催眠商法の類です。ハルモニたちの間では、通称「宣伝」
とよばれています。高齢者を会場に一定時間隔離し、最初は無料でさまざまな商
品をプレゼントし、催眠状況に陥らせた後に、高額な商品を買わせるという商法
です。オンドルパンのハルモニの中にも、15万円の健康食品を購入させられた
人がいました。このハルモニの場合は、この健康食品を食べてから下痢が止まら
なくなったことから、私に相談がありました。当初はなかなか言い出せず、罰が
悪そうにしていました。というのは私たちが常々宣伝には行かないようにと注意
していたからです。これは本人からの申し出で比較的容易に返品できました。

 中には、子どもが高齢者のお金を狙って実の親を虐待するといったケースもあ
りました。これは日本人の男性利用者のケースです。父親に年金があることを承
知した上で、ある日突然に父親のアパートに押しかけて無理やりに同居し、年金
が振り込まれる通帳を取り上げ、父親には満足な食事さえ与えなかったケースで
す。典型的な虐待事例です。困るのは、ケアマネや周辺の福祉関係者が、この息
子を怖がって有効な手をうてないことです。やむなく、オンドルパンのスタッフ
(といっても私の息子たち)が直接息子に会って談判し、ときには強い姿勢で迫
って、息子を追い出しました。

 これは日本人、在日コリアンに関係なく共通の問題ですが、親族内の虐待につ
いては、これといった直接効果のある手法がとれず、結局のところ人間と人間の
ぶつかり合いでしか解決できないケースが大半のような気がします。逆にぶつか
り合いができない高齢者はいつまでたっても救われないというのが現実です。私
たちが行っているぶつかり合いは、それなりに効果がありますが、それをすべて
の介護施設で行えるかというと、はなはだ疑問です。制度や法律ではやはり限界
があるということです。さりとて、役所や警察に強力な権限を持たせることには
賛成できません。大事なことは、地域で制度や法律の趣旨を具現化しうるような
自主的な中間組織(アクセス)が活動することではないでしょうか。


4.本当の生活相談とは


  生活相談という仕事をしていて常々疑問に思うことは、役所にある生活相談窓
口はいったい何をしているのだろうか、ということです。最近は人権相談という
案内がしきりに市政だよりに掲載されています。オンドルパンのある八尾市では
八尾市人権協会という市の外郭団体が市から委託を受けて相談事業を行っていま
す。オンドルパンはここの相談窓口を利用したことはありません。なぜなら、ハ
ルモニたちの相談というのは、往々にしてその背景に行政の無策、怠慢、とき
には差別が横たわっているからです。そんな相談を市の外郭団体にもちこんだ
ところで、逆に押さえ込まれるのは火を見るよりも明らかです。先に紹介した
生活保護にしても、根源は行政が在日コリアン高齢者を無年金状態に陥れた結
果です。本質的解決は生活保護ではなく、年金の支給のはずです。しかし、こ
んなことを市役所の相談窓口に持ち込んだところでどうにもなりません。
  オンドルパンの生活相談とは権力との闘いなのだと思うのです。

(筆者は八尾オンドルパン(通所介護・訪問介護事業所)代表・生活相談員)

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