分断のパレスチナから来日した保健師さん—

風と土のカルテ(9)

分断のパレスチナから来日した保健師さん

                                色平 哲郎


 先日、パレスチナから保健師さんと栄養士さんが研修目的で来日、女性お二人で佐久総合病院に立ち寄られたので、昼食をとりながらお話しする機会があった。

 ご存じのように、パレスチナ自治区のガザ・西岸両地区では、イスラエル政府による占領政策が続けられてきた。この夏もイスラエル軍(IDF)の空爆と侵攻によって多くの人命が失われた。私はかねてJICA(国際協力機構)が実施した「パレスチナ母子保健に焦点を当てた・リプロダクティブヘルス向上プロジェクト」(2005年8月〜2008年7月)の「その後」に関心を持っていたが、今回は当該プロジェクト終了後の状況について少し伺うことができた。

●お手本は日本の小学校「保健室」

 JICAプロジェクトの開始前、つまり2000年の第2次インティファーダ(民衆蜂起)後の数年間、ガザ・西岸両地区では軍事侵攻に伴う外出禁止令や経済活動停滞に由来する混乱と貧困化で、母子保健が危機的状況になっていた。特に西岸地区では地域が検問所や隔離壁で分断されたことによる交通事情の悪さ、移動の困難さが大問題だった。

 妊産婦死亡率や5歳未満乳幼児死亡率の統計数値は高かった。産前産後、出産、新生児、乳幼児ケアが標準化されておらず、地域によって、施設によってもサービスがばらばら。妊娠時検診内容と記録方法も不統一で、女性たちを含む地域住民全体の出産リスクや乳幼児の発育発達に対する意識・関心も低かった。

 そこで、JICAが世界初のアラビア語版「母子健康手帳」の普及をはじめ行政の保健サービス機能強化や女性宅への家庭訪問、男性や若者たちに対するワークショップなどの取り組みを組み合わせ、母子保健・リプロダクティブヘルス向上を目指す支援事業を開始した。

 当地・佐久を訪ねた保健師さんと栄養士さんのお二人は、諸支援で状況が多少とも改善された現在、パレスチナ各地の小学校に「保健室」を併設し、可能なら「学校給食」まで実現することを目指していた。夢を実現するため「学校保健室・先進国」「学校給食・先進国」の日本から少しでも学びとりたいものだと考え、今回の来日につながったのだという。

 パレスチナ自治区で出産した母親たちの母子健康手帳普及率は、直近の調査によると西岸地区で89%、ガザ地区でも63%まで高まり、母子保健サービスの全国的な標準化も進んできているという(JICAのウェブサイト参照)。

 (筆者は長野県・佐久総合病院・医師)
 
注)この原稿は色平哲郎ブログ「日経メデイカル Online」2014・09・29号から著者の加筆許諾を得て転載したものです。


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