【コラム】ザ・障害者(10)

労働包摂型社会的企業、すなわち社会的事業所

堀 利和


 社会的事業所を英語でどう表記するか、時々聞かれることがある。社会的事業所を、一般的にソーシャルエンタープライズ(社会的企業)、ソーシャルファーム(社会的企業)と表記しても必ずしも正確ではなく、また、社会的企業の一分野であるWISE(ワーク・インテグレーション・ソーシャルエンタープライズ)といってもなかなか的を得ない。

 それではそれをどう表記し、社会的事業所をその概念に即してより的確にどう表現すればよいのかということになる。ちなみに日本語でも、私は「共働・社会的事業所」と書く場合もある。そこで、先ず、『社会的企業への新しい見方』(ミネルヴァ書房 2017年5月)を参考にしたい。

 この本は、東大の大学院の修士論文でわっぱの会を調査研究した米澤旦さん(明治学院大学准教授)が、その後も共同連とのかかわりを持ちながら更に研究を進め、サードセクター論、社会的企業の概念整理をする中、WISEを「労働統合型社会的企業」としてそれを「支援型」と「連帯型」に定義づけ、社会的事業所を連帯型としたのである。
 支援型には「風の村」の「ユニバーサル就労」が定義づけられている。私は、きょうされんも支援型とみている。というのも、作業所の職員が、利用者である障害者(仲間たち)を制度通りに支援しているからである。

 これに対して、現行の制度はともかく、共同連がめざしている社会的事業所は、障害(社会的排除)ある人ない人が対等平等に自らの労働能力に応じて働き、賃金ではなく「分配金」としている。それはいうまでもなく、支援する・される関係をアウフヘーベン(止揚)した「共働」そのものである。これがまさに連帯型であり、就労を通したソーシャルインクルージョン、コミュニティインクルージョンの実現なのである。

 米澤さんがいうこの連帯型を私なりにもう少し短絡化し、英語の表記を簡潔にすると、「労働包摂型社会的企業」すなわち「ワーク・インクルージョン・ソーシャルエンタープライズ」ということになる。インテグレーションの「I」を、インクルージョンの「I」に書き改めた。労働統合型のWISEから労働包摂型のWISE、すなわち社会的事業所。

 1994年の「サラマンカ宣言」では、インテグレーション(統合)の限界を乗り越えてインクルージョン(包摂)とした。概念を発展させたのである。障害者権利条約でもインクルージョン(包摂)、ただし外務省では「包容」と訳している。

 ちなみに、私は、インテグレーション(統合)とインクルージョン(包摂)の関係を比喩として次のように説明する。化学反応でいえば、「統合」は砂糖と水をまぜた砂糖水(混合)、これに対して「包摂」はH₂+O=H₂O(化合)となり、質的変化、すなわち社会的変化である。健常者は健常者のままではいられない。健常者も変わらなければならない。ましてや、障害者の健常者化ではない。社会変革である。

※社会的事業所に関する社会原論
 社会的事業所に関連して三つの社会様式について提言すれば、社会参加、社
会統合、社会包摂の三段階論となる。それは一般就労としての社会参加、就労支援としての社会統合、そして社会連帯としての社会包摂である。なかでも、社会包摂は、社会参加と社会統合をアウフヘーベン(止揚)した社会様式である。
 アウフヘーベンとは、ヘーゲル哲学の弁証法論理学であって、「否定の否定」、すなわち参加と統合を止揚した概念である。つまり、社会包摂は普遍性を獲得し、社会総体が高次元のレベルにまで達することを意味する。したがって、現段階における現状分析としては、社会的包摂としての社会的事業所の存在は例外的、特殊的なものにならざるをえない。それを絶えざる社会変革により普遍性にまで高め、もって、普遍主義の地位を獲得するための運動であるとも言い換えることができる。
 それらを意味するのは、経済学において、労働の形式的等価交換・実質的不等価交換、労働の実質的等価交換・等労働量交換であり、そして労働の人間的不等価交換・不等労働量交換である。すなわち、それは、「否定の否定」の弁証法によって社会参加、社会統合、社会包摂という社会様式の発展的三段階論であることに他ならない。

(元参議院議員・共同連代表)

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