労働映画のスターたち・邦画編(6)

【「労働映画」のリアル】第6回 労働映画のスターたち・邦画編(6)

●労働映画のスターたち・邦画編(6) <小林 聡美>    

清水 浩之


 《置かれた場所で咲くオンナ 「均等法第一世代」のヒロイン像》

 今年は「男女雇用機会均等法」の施行から30年。職場での男女の差別を禁止し、採用・昇進・ 定年などの面でも平等に扱うことを定めた法律によって、日本の女性の働き方も大きく変わっていった。1986年以降、男女の区別なく「総合職」に採用されるようになった「均等法第一世代」も今では50歳前後。管理職に昇進した人もいれば、「寿退社」して家事や子育てに奮闘してきた人もいる。現在活躍中の女優さんでは薬師丸ひろ子、小泉今日子、江角マキコといった人々がこの世代にあたるが、彼女たちが演じる役柄にも、様々な「オンナの生き方」が反映されていて興味深い。

 その中でも特に注目したい存在が小林聡美だ。20代でのヒット作『やっぱり猫が好き』(1988)に 始まり、30代に入ってからの『すいか』(2003)、そして40代の『かもめ食堂』(2006)と、同世代の女性 たちが「いいよね、こんな生き方」と憧れる、等身大のヒロインを演じ続けてきた。世田谷の信用金庫からヘルシンキのカフェまで、どんな職場にいても決しておかしくない存在感。近年ベストセラーとなっている渡辺和子シスター(ノートルダム清心学園理事長)の著書「置かれた場所で咲きなさい」のタイトル通り、どんな環境にも根を張って生きる、「平凡な人生」の数々。キャリアウーマンもパートタイマーもサマになる彼女の出演作から、「均等法」以後の働く女性の姿を眺めていこう。

 1965年、東京都葛飾区出身。中学2年の時、TBSのドラマ『3年B組金八先生』のオーディションに合格し演技の世界へ。桜中学のクラスメート役には「たのきんトリオ」をはじめ、杉田かおる、三原じゅん子(現・参議院議員)、藤島ジュリー(現・ジャニーズ事務所副社長)らがいた。ショートカットでお調子者の女の子は、次に1982年公開の映画『転校生』(監督・大林宣彦)で主役に抜擢、その演技が高く評価される。中学生の男女の心と体が入れ替わる設定だが、彼女が恥じらいを捨て「女の子になった男の子」を体当りで演じた結果、80年代を代表する青春映画が生まれた(皇太子殿下もお気に入りの作品とのこと)。続く大林作品『廃市』(1984)では一転して“文芸映画の美少女”にみごと変身。さらに『さびしんぼう』(1985)で樹木希林とのそっくり母娘に扮するなど、ハタチの時点で既に「演技派」と呼ばれるようになっていた。

 続いて1988年、23歳の時にスタートした『やっぱり猫が好き』は、フジテレビの深夜番組黄金期を象徴するヒット作。東京のマンションでルームシェア生活を送る三姉妹を描いたシチュエーション・コメディで、しっかり者の長女=もたいまさこ、うっかり者の次女=室井滋と共に暮らすちゃっかり者の三女役。テレビ業界で働いているらしいが、それも3人の会話の流れから何となく決まった設定で、実は3人とも「何で食っているのか」わからない、職業不詳の都会生活者。要するに、バブル華やかなりし頃に親元を離れ、都会で「横文字」の仕事に関わっている若者たちが、プライベートな時間を気ままに過ごす姿をリアルに描いた「ホームドラマ」だったとも言える。

 『やっぱり猫が好き』で発揮した臨機応変な演技力が注目されたことから、その後は映画・テレビドラマのバイプレーヤーとして、様々な職業を演じていくようになる。『ゴジラvsモスラ』(1993/大河原孝夫)の環境学者、フジテレビ『ギフト』(1997)の占い師、『きらきらひかる』(1998)の監察医、日本テレビ『ナースマン』(2002)の看護主任など、その道のスペシャリストを飄々と演じる一方で、中国からの衣料品輸入に悪戦苦闘するOLを描いた映画『てなもんや商社』(1998/本木克英)や、信用金庫勤務の平凡な日常に疑問を持った30代独身女性の葛藤を描く日本テレビ『すいか』(2003)などの主演作では、職場でのトラブルや「女としての働き方」に真正面から対峙する女性の姿を、チャーミングに演じた。『てなもんや商社』での、中国側の工場との品質チェックを巡る激しい攻防の挙句、荒野に独り置き去りにされてしまった主人公が、しばし途方に暮れた後、やがて微笑とともに水前寺清子の唄「ありがとう」を口ずさみ始める場面は、いきなり企業社会の最前線に放り込まれた「均等法第一世代」の心象風景のようで秀逸だった。

 『すいか』は、高校卒の「一般職」OLが、同僚・小泉今日子が起こした横領事件をきっかけに、「ここ」で生き続ける自らの人生を見つめ直す物語。小林はその後の映画『紙の月』(2014/吉田大八)でも、同僚・宮沢りえの横領と逃亡を「見守る」ベテラン銀行員を演じている。平凡な人生を体現する彼女自身が、もしも「どこか」へ行ったとしたら…。このアイデアを形にしたと言えるのが、映画『かもめ食堂』(2006/荻上直子)。フィンランド・ヘルシンキの街角で日本食の店を開く女性が描かれるが、彼女の日々の「労働」はリアリティが希薄で、むしろ日本の女性たちの「憧れの生活」と捉えた方が納得もいく。この作品の大ヒットを受けて『めがね』(2007/荻上直子)、『マザーウォーター』(2010/松本佳奈)など、小林主演の通称「共感路線」の映画が立て続けに作られ、他の女優による同種の作品も生まれた現象は、ターゲットとしての30〜40代女性層を映画館に呼び込んだことも含め、非常に興味深い。

 そして50代に入った聡美さん。昨年公開の映画『犬に名前をつける日』(2015/山田あかね)では、日本の犬猫保護の現場取材に自ら赴くなど、新たな領域への模索を続けている。「東京100発ガール」「アロハ魂」などのエッセイで、その文才は広く知られていることもあり、女優&エッセイストの先輩・高峰秀子や沢村貞子のように、さらに味わい深い存在となっていくのではないか。「均等法第一世代」のトップランナーが、次はどこで「咲く」のか……今後も見守り続けたい。

 (しみず ひろゆき 映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎「労働映画アンケート・あなたの注目労働映画は?」/Webアンケートにご協力ください。http://hatarakubunka.net/ または、「労働映画事業」で検索

◎働く文化ネット第27回労働映画鑑賞会〜「おとめ争議団」、かく闘う〜/上映予定作品:『娘たちは風にむかって』(1972年/110分)、大阪・西淀川にある被服工場で実際に起こった労働争議を映画化。「おとめ争議団」を結成した娘たちの物語。/2016年4月14日(木)18:30〜(18:00開場)/神田駿河台・連合会館2階201会議室 <http://rengokaikan.jp/access/>/参加費無料・申込不要

◎働く文化ネットでは、日本映画百年の歴史が産んだ「労働映画」の中から100本を選び、日本の労働映画の豊かな世界を明らかにする作業を進めています。詳しくは働く文化ネット・労働映画スペシャルサイト <http://hatarakubunka.net/> 参照。

◎【上映情報】労働映画列島! 2016年3月〜4月 <http://goo.gl/cw1Jxv>
※【労働映画列島】で検索!

◇新作ロードショー

『風の波紋』《3月19日(土)から 東京 渋谷 ユーロスペースほかで公開》新潟・妻有(つまり)の里山に、都会から移り住んできた夫妻の5年間を記録したドキュメンタリー。茅葺き屋根の古民家を修復し、見よう見まねで米を作る日々を追う。(2015年 日本 監督:小林茂) http://kazenohamon.com/

『シュウカツ』《4月2日(土)から 東京 キネカ大森、大阪 九条 シネ・ヌーヴォで公開》就職活動に取り組む学生と企業の攻防を、面接、身辺調査などのキーワードとともにオムニバス・ドラマ形式で描く。(2015年日本 監督:千葉誠治) http://www.shukatsu-movie.com/

『ハロルドが笑う その日まで』《4月16日(土)から 東京 恵比寿ガーデンシネマほかで公開》世界的な家具チェーン店の進出により、廃業に追い込まれた家具店主・ハロルド。復讐のためチェーン店の創業者を誘拐したことから始まる珍道中。(2014年 ノルウェー 監督:グンナル・ヴィケネ) http://harold.jp/

◇名画座・特集上映

【東京 池袋 新文芸坐】3/16〜4/2「気になる日本映画達〈アイツラ〉2015」…きみはいい子/ビリギャル/新しき民/他
【東京 日比谷図書文化館】3/23〜25「第3回 グリーンイメージ国際環境映像祭」…最後のハンダハン/魚道/馬搬/他
【東京 神保町シアター】3/26〜4/22「生誕110年 女優 杉村春子」…めし/千羽鶴/晩菊/流れる/他
【東京 シネマヴェーラ渋谷】3/26〜4/22「映画作家・千葉泰樹」…へそくり社長/大番/狐と狸/がめつい奴/他
【東京 下北沢 ダーウィンルーム】3/27「短篇映画研究会 にっぽん山ライフ!」…刈干し切唄/奥会津の木地師/他
【横浜市大倉山記念館】3/26・27「第9回 大倉山ドキュメンタリー映画祭」…アラヤシキの住人たち/みんなの学校/他
【所沢市民文化センター】3/19〜21「ミューズ シネマ・セレクション」…あん/夢は牛のお医者さん/ジヌよさらば/他
【高崎市文化会館ほか】3/26〜4/10「第29回 高崎映画祭」…新しき民/ここに泉あり/階段通りの人々/他
【上越 高田世界館】3/11〜17「銀映の街 映画祭」…サムライフ/この空の花 長岡花火物語/ともに担げば/他
【広島市映像文化ライブラリー】3/16〜24「1970年代アメリカ映画特集」…ナッシュビル/天国の日々/他
【福岡市総合図書館映像ホール】4/1〜24「台湾映画特集」…海辺の女たち/あひるを飼う家/バナナ・パラダイス/他


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