北朝鮮の核実験と日本の対応

≪特集;北朝鮮の核実験と日本の対応を考える≫

■北朝鮮の核実験と日本の対応        石郷岡 建

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 ◇初めに

 北朝鮮の核実験を巡っての世界の反応は、その国の立場や安全保障観によって、
さまざまであり、日本が思うほど一致をしているわけではない。例えば、北朝鮮
の核についても、必ずしも、日本が思うほど「脅威」ととらえているわけではな
い。そもそも核兵器は必要であり、安全保障政策の根幹にあるべきだと考えてい
る国は少なくなく、6者協議参加国の中でも米中露は明らかに核兵器を軍事・安
全保障政策の中心に位置づけている。このような大国の安全保障観を逆手にとっ
たのが、北朝鮮であり、北朝鮮の行動を勝手だとせめても意味がない部分がある。
その一方で、今回の北朝鮮の核実験をきっかけに、周辺諸国の影響や核を持った
北朝鮮と今後どうつきあっていくのか、北東アジア情勢はどう変化していくのか
という東アジア広域安全保障・国家戦略の問題が新たに浮上しつつある。また、
北朝鮮が核兵器を持った場合、日本の防衛はどうあるべきか、という日本の安全
保障問題の論議も盛んになっている。そして、これら議論の背景にある問題は、
一体、核兵器とは何か? 通常兵器とどこが違うのかという根源的な疑問も横た
わっている。

 ◇北朝鮮の核実験の真相

 まず初めに、今回の北朝鮮の核実験は何だったのかを確認しておきたい。北朝
鮮の核実験発表後、明確な放射能性物質の検出は確認されていない。北朝鮮が本
当に核爆発実験を行ったのか日米政府が疑問を持った理由でもあり、失敗だった
との専門家の意見もある。ともあれ、結局、米国政府が確認発表をすると、日本
政府も後追うように、その根拠はいまひとつ明らかでないが、核実験の確認を追
従することになる。

 北朝鮮から届いた地震波の測定では、1キロトン以下(0,5キロトン程度と
いわれる)の人工的な爆発の可能性を示している。これまでの米ソ英仏中印パキ
スタンの核爆発実験国は、いずれも20キロトン程度の核爆発の実験をしており、
過去の記録と比べると、一桁小さいという印象である。北朝鮮政府は中国政府に
対し、4キロトンの核実験を行うと事前通告したという説もあり、そうなると実
験は失敗したか、何か異変が起きたということにもなる。

 また、北朝鮮は核爆弾の材料となるプルトニウム原料は蓄積していた。しかし、
(技術的に困難で、莫大な電力を必要とする)ウラン濃縮はあまり進んでいなか
ったというのが一般的な見方である。つまり、今回の実験が核爆発だったとする
と、爆縮型のプルトニウム爆弾だったという可能性が大きい(ロシアの専門家の
中には、プルトニウムとウランを混合させたと可能性を主張する人もいる)。い
ずれにせよ、プルトニウム主体の核爆発だとすると、プルトニウム原料を百万分
の一秒という極小の単位の時間で瞬間的に圧縮させ核連鎖反応を引き起こすと
いう技術が必要で、かなり精巧な起爆装置の製造がカギを握っている。そして、
実験結果は、その起爆装置はうまく稼動せず、一部の爆発もしくは不完全燃焼的
な爆発にとどまった可能性が強いというのが専門家の見方だ。

 つまり、北朝鮮の核実験は今年七月のテポドン・ミサイルの発射実験についで、
失敗もしくは完全な成功は収めなかったという可能性が強い。このことからいえ
るのは、北朝鮮はある種の核実験を実行したが、これを核兵器と呼べるかどうか、
かなり疑問点が多い。さらに、この核爆弾らしきものを、国外の対象国に攻撃兵
器として使えるとかというと、さらに疑問は大きくなる。

 北朝鮮は大型爆撃機や大型潜水艦を所有しておらず、核爆弾の運搬手段らしき
ものはいまのところノドン、テポドンのミサイル類だけだ。これらミサイルの爆
弾積載可能量は1トン以下で、しかも射程距離は2000-3000キロ以下。
ミサイルは日本にはかろうじて到達するが、ワシントンやモスクワには到達しな
い。ちなみに、米国の初期の原爆、広島や長崎に投下されたウラン型およびプル
トニウム型の原爆(20キロトン)は重量が5トンあったとされ、B29という大
型爆撃機を必要とした。

 現在の北朝鮮の核実験は広島型原爆の技術水準もしはそれ以下であり、爆弾に
なったとしても、重量は5トン以上のとてつもない大きなものになる可能性が強
い。つまり、北朝鮮は核兵器を完成したとしても、それを国外に運ぶ力は十分で
なく、なお爆弾の精密化と小型化が必要であり、さらに運搬手段のミサイルの根
本的な改変や技術開発が必要となる。

 結論的にいえるのは、いまのところ、北朝鮮の核は米国やロシアにとっての直
接的脅威ではない。米国に直接脅威を与えるためには、なおミサイルと核爆弾の
技術開発を続けざるを得ない。つまり、ミサイルと核実験は今後もなお続くとい
うことになる。

 つまり、北朝鮮の核開発は技術的に不十分で、核兵器所有国というのには時期
尚早というのが一般的解釈で、今回の北朝鮮の核実験に対する日本と米露の温度
差にもつながっていくことになる。

◇北朝鮮の核実験の意味

 では、今回の「核実験」の意味は何か? 

 まず北朝鮮の核開発中止と核兵器廃絶を目指していた6者協議の失敗であり、
協議そのものの行き詰まりである。北朝鮮はすでに自らを「核保有国」と位置づ
け、6者協議に代わる「核軍縮会議」を提唱している。参加国は勿論、核保有国
で、東アジアで該当するのは米中露の3国だけ。日本はその参加資格はないこと
になる。北朝鮮は「米国の1州である日本は協議に参加する資格はない」と声明
し、日本政府および日本社会の気持ちを逆立てる挑発声明さえ出している。

 そして、北朝鮮は「核軍縮会議」を開いたとしても、自らの核兵器の廃絶に応
ずることは、まずないだろう。ひたすら核兵器の精巧化・小型化を進める可能性
が強い。会議は時間稼ぎの場になる可能性が強い。

 北朝鮮にとっての最大の目標は金正日政権の体制の維持であり、そのための最
大の保証は米国政府からの北朝鮮の政権維持の確約である。核兵器を持った豪語
する北朝鮮は今後、米国との2カ国関交渉を執拗に要求し、体制維持保証を求め
ていく可能性が強い。6者協議を開いても、その目的は米国との直接交渉の橋渡
し役程度でしかない。イラク戦争の泥沼から抜け出られず、中間選挙では民主党
に大敗したブッシュ政権は、北朝鮮には従来の強硬姿勢を修正し、とどのつまり、
直接交渉へとしだいに傾斜していく可能性が強い。少なくとも、北朝鮮は風が自
らに向かって吹き始めたと思っている可能性が強い。その意味では、核実験の実
態がどうあれ、金正日政権にとっては、核実験は大きな成功に写りつつあるだろ
う。

 米国のブッシュ政権にとっては、北朝鮮への強硬政策、つまり「アメとムチ」
のうちのムチを最大限に掲げた政策は完全に裏目にでて、北朝鮮を従順に従わせ
るというよりも、北朝鮮の抵抗を最大限に導き出し、結果的に強い北朝鮮を引き
出してしまった。軍事力を前面に押し出して、世界を支配し、新しい世界秩序を
作るというブッシュ政権の軍事戦略ドクトリンがアフガニスタン、イラクに次い
で、またも失敗したことになる。国内批判を受ける結果になるとともに、イラン
やベネズエラといった反米感情の強い国々を勢いづかせる結果にもなっている。
多分、イランの核開発はもはや止められない状況へと動き、長期的に見れば、中
東地域の核開発が進み、核兵器による戦争の可能性は強まることになりかねない。

 もっとも、北朝鮮に「アメの政策」を行っていれば、北朝鮮の核開発は防げた
かというとそうでもない。韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は太陽政策と呼ばれ
る対北朝鮮融和政策をとってきたが、北朝鮮の金正日政権は南の善意を無視し、
核開発を進めながら、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権をもてあそんだ結果になった。
韓国内では太陽政策への批判が噴出し、同政策の撤回もしくは大幅変更は避けざ
るを得ない状況にある。

 もっとも、北朝鮮の金正日政権にとっての最大の脅威は米国の軍事力であり、
金正日政権を体制転換するというブッシュ政権の国家的な意思である。その意味
では、米朝関係が動かない限り、太陽政策がどうあれ、本当は何も動かないとい
う宿命にあったというべきかもしれない。

 では、中露にとって、北朝鮮の核実験はどう写ったのだろうか。核実験後の中
国政府の声明はかってない厳しいもので、日本に対しても使われなかったような
強硬な非難表現が使われており、それを読んだ中国人関係者は一応に驚きを示し
ているという。

 つまり、中国にとって、今回の北朝鮮の核実験は予想外のことで、大きな衝撃
を受け、さらに怒り心頭に達している可能性が強い。11月初め、日本で北朝鮮
情勢を説明した中国共産党学校の国際戦略研究所の専門家は、中国はなお北朝鮮
との話し合い・説得を続けるといいながらも、最終的に軍事行動の発令もありう
ると発言した。ただ、軍事行動の発動は多大な被害者をだすことになり、特に、
金正日政権の崩壊となると、大きな混乱を呼び、膨大な北朝鮮難民の中国流入に
なりかねない。いくら怒りが心頭に達しようとも、冷静に処理するしかないのが
実情である。

 ロシアは中国から比べると北朝鮮の脅威は遠く、核兵器開発だけを考えると、
近隣諸国に核保有国が多数あり、北朝鮮の核をそれほど重大視する意味はない。
ロシアは数千発の核弾頭を米国から向けられている。NATO諸国にも核ミサイ
ルや核搭載潜水艦、さらには欧州の米軍基地には核爆弾が多数保管されている。
また、東の中国には数百発の核弾頭が存在する。ロシアの柔らかい下腹部にあた
るユーラシア南部地域には、インド、パキスタンの核保有国があり、また、イス
ラエルやイランなど核保有もしくは核開発をしている国々がある。

 核兵器を持っているのは、何も北朝鮮に限らないのである。それでも、ロシア
極東地域のことを考えれば、北朝鮮の核開発にのほほんとしているわけにはいか
ない。今年7月には、ロシア太平洋艦隊の司令部の鼻先の日本海に7発のミサイ
ルを打ち込まれた。しかも、直前通告だったとされ、ロシア政府は怒りを抑える
のに必死だったといわれる。少なくとも、ロシア軍のメンツは丸つぶれだった。
今回の核実験はそれに追い討ちをかけた結果になり、ロシアとして深刻な戦略転
換を迫られている。

 つまり、中露双方とも、核兵器を持った北朝鮮を仮想敵国とした軍事ドクトリ
ンや国家戦略を練り直さねばならない状況に追い込まれている。北朝鮮の核実験
に関して、中露の温度差はあるものの、双方が現実に考えているのは、金正日政
権の除去である。正確には、金正日政権のこれ以上の横暴を許してはならないと
の方針であり、金正日政権にかわる新しい北朝鮮の構築である。新しい政権がど
のような形になるのか、南北統一につながるのか、いつ新しい体制へと動き出す
のか。設問は多く、回答は少ない。

 しかし、北朝鮮と関係の深かった中露両国は金正日政権抜きの新しい北朝鮮の
あり方を検討し始めたといってもよい。条件はできる限り北朝鮮および朝鮮半島
での混乱を避けることであり、その戦略は長期的なものであり、短期的な解決を
めざしてはいない。金正日的政権の除去に向けて、粘り強い政策が実行される可
能性が強い。

 そして、そのために6者協議は今後大きな役割を果たす可能性が強まる。つま
り、北朝鮮の核廃絶の場としての6者協議ではなく、朝鮮半島および北東アジア
の安全保障と将来を考える場としての6者協議である。

 この中露の考え方はたぶん、北朝鮮への軍事攻撃をあきらめたブッシュ政権と
相通ずるものがある。ブッシュ政権は政権成立直後、本気になって、北朝鮮への
軍事行動および体制転換(レジューム・チェンジ)を考えた可能性が強い。少な
くとも、ブッシュ大統領は金正日政権を毛嫌いしており、「吐き気がするようだ」
との発言もしている。金正日政権との話し合いなどもってのほかというのが本音
だったろう。

 しかし、イラク戦争がうまくいかなくなり、北朝鮮への軍事行動の可能性は現
実味を失い、今回の民主党躍進の中間選挙で、軍事行動の可能性はもはやまった
くなくなったといってよい状況となった。つまり、ブッシュ政権が華々しく打ち
出した「単独外交・先制攻撃・体制転換」の軍事戦略ドクトリンは全面的見直し
で、他の路線・戦略を探すしかない。北朝鮮問題をめぐっては、核実験によって、
反北朝鮮感情を強めている中露との協調・提携の可能性が以前よりはずっと強ま
っているといえる。

 米中露の3国は金正日政権の除去についてはほぼ考えが一致し始めている。問
題はその除去の仕方であり、また金正日政権亡き後の北朝鮮および朝鮮半島に対
する思惑・国家利害の対立・調整である。この米中露の立場が北朝鮮核実験に対
する国連決議への3国の歩み寄りによる完全一致につながった。米政府強硬派の
ボルトン国連大使を満足させ、満面の笑みをたたえさせる結果にもなった。

 朝鮮半島は世界に残った最後の冷戦構造であり、冷戦構造の残滓でもある南北
分裂体制は再編成もしくは崩壊への道に入ってきた。冷静構造がなくなった後に、
どのよう
な体制、秩序、構造を作るのか。激しい利害の対立や国家戦略の駆け引きが始ま
ると見てよい。日本はこの新しい変化もしくは再編にどう応じていくのか、国家
のあり方について、改めて問われる時代がすぐそこまでにやってきているといえ
る。

◇日本の核武装

 最後に日本の核武装論議に触れておきたい。日本の核武装論議の発端は北朝鮮
の核実験である。そして、それは北朝鮮の核実験実施に対して、何もできなかっ
た日本の姿について、ふがいなさや苛立ちの思いを多くの人が持っているという
現実がある。

 さらに、核実験や拉致事件に対する米中露など諸外国の見解と温度差の違いを
目撃して、日本の利害は一体何か、という問題を突きつけられたといってもよい。

 日本には核3原則があり、核武装論議はあわないとか、日本の核武装は核不拡
散体制を崩壊させるというような議論はすべきではないとの反論がでている。日
本の国民の大多数は核兵器をもつべきではないと考えており、核3原則は守るべ
きだと考えている。問題なのは核武装かどうかではなく、北朝鮮のような体制が
できた場合、どうすればいいのか。防ぐことはできるのかという疑問に対する回
答を人々が求めていることにある。

 まず、北朝鮮の金正日政権に幻想を抱いてはならない。金正日政権は体制生き
残りに必死であり、孤立無援で、自らを守るためには何でもすると考えている。
偏執狂的症状にあると考えてよい。ある意味では、国全体がマインド・コントロ
ールにあると考えてよい。日本も戦前に経験したある種異常な状況である。

 そのような国に対して、どのような態度をとるのか、まことに難しい問題であ
る。一番簡単かつ安易な考え方が、力による抑圧である。軍事力による圧力もし
くは軍事支配である。そして、この考え方に従うと、もっとも軍事的に脅威をも
たらす兵器と考えられている核兵器による脅しもしくは核兵器所持による抑止
力が一番効果的となる。

 個人的には、この主張はそれなりに有効性を持つと考えるが、絶対的ではない
と思っている。つまり、相手が同じような考え方をすれば、その考え方は成り立
つが、世の中同じような考え方をするとは限らない。特に偏執狂的な考えに取り
付かれている相手には何をいっても通じない可能性がある。

 米国の核兵器保有は北朝鮮の核兵器開発を阻止したのか? 米国の核による
脅しは北朝鮮の行動を変えたのか? というと、それははなはだ疑問な状況にあ
る。つまり、核兵器がそれほど万能かというとそうでもない。

 また核兵器に限らず、軍事力が問題解決に万能かというとそうでもない。その
現実をイラク戦争は見せ付けているし、軍事力万能主義は今回の米国の中間選挙
で、あれほど戦争好きの米国民でさえ、疑問の対象にさせたといえる。

 国際問題を議論する人たちは、理想主義(本当は理念主義というべきかもしれ
ない)を嫌い、現実主義を主張する人が多い。そして、軍事力の現実を強調する
人は多い。私はこれを全面否定するわけではないが、別の議論もあることも強調
したい。

 国際関係論では必ず出てくる「安全保障のジレンマ」という理論がある。つま
り、安全保障を確保するために、安全保障を高めると、それは相手国(もしくは
周辺国)にとっては安全保障が低まったことになり、彼らも安全保障を高めるた
めに動き出し、双方は際限のない安全保障獲得競争をする――というもので、安
全保障を軍事力という言葉に置き換えれば分かりやすい。

 つまり、自らの安全を守るために軍事力を強めると、相手も軍事力を強め、必
ずしも、安全保障は確保できないという現実である。核に関していえば、核武装
すれば、安全かというと、抑止力になるように見えても、それは相手もしくは周
辺諸国との際限のない核武装競争を招くことになりかねず、より危険な段階での
バランスへと進み、安全はゆらぎ、もろいものになるという現実である。ここに
日本の平和憲法の意味がある。

 金正日政権というような異常な体制が出現した時、すぐさま解決するような簡
単かつ短期的な方法はありえない。また核武装など軍事力の強化により、安全保
障が必ずしも確保されるわけではない。よりひどい結果を導くこともありうる。

 大学で講義している学生から「北朝鮮の核の脅威をどうするのですか」という
質問をよく受ける。私は「核兵器だかどうだかわからないような北朝鮮の核に脅
えながら、なぜ現実に配備されている中国やロシア、さらには数千発もある米国
の核兵器を恐れないのか」と尋ねることにしている。

 つまり、核兵器が脅威なのではなくて、核兵器を使う意志があるかどうかで、
それは核兵器を持っている国との関係にあり、関係が悪くなれば脅威は大きくな
る。

 世の中には憎まれっ子はいる。そして憎まれっ子が犯罪に手をかしているケー
スはありうる。その子を叩いたり、殴ったり、あるいは捕まえて閉じ込めるとい
う手もあるかもしれないが、うまくいくとは限らない。時には、その憎まれっ子
と共存し、我慢しなければならないこともありうるということは考えた方がいい。

 日本の核武装論の背景には、国際政治の複雑さや困難さを理解しない単純かつ
現代風にいえばキレ易い短気な性質がみてとれる。中露の行動は常に数百年の歴
史を相手にしている。問題は簡単に片付かないのならば、辛抱強く、粘り強く、
さらに、数歩先の状況を見ながら行動する。その態度に学ぶべき点は日本にはあ
ると思う。また、友人は変えられるが、国境は変えらないという言葉もある。

 最後にひとこと付け加えれば、私は核の論議はすべきだと思っている。「核の
論議」の背景には、現在の日本の安全保障もしくは国家のあり方への疑問や不信
があり、それには積極的に答えていくべきものであると思う。冷静に判断すれば、
核武装はありえないことは誰もがわかっている。にもかかわらず、その論議を
人々が求めるのは、核武装の代案は本当に平和憲法であり、戦争放棄の9条なの
か。非武装中立という概念がいまでも有効かという疑問がある。さらにいえば、
米国の核の傘に入りながら、「核の3原則」という概念は成り立つのか?

 また核の3原則のうちの「持ち込ませない」という原則は現実に守られておら
ず、米軍が日本の基地周辺に核を持ち込んでいるのは公然の秘密ではないかなど
の議論である。

 果たして、憲法9条を厳格に実現し、核の3原則を厳格に守った国の行き方は
ありうるのか。日本の現憲法の維持を主張する人々は、今こそ積極的に議論に参
加し、人々の疑問に答えるべきであると思う。

 さらに、米国の権威が落ち、中国の台頭が目覚しい東アジアにおいて日米だけ
を基軸とする日本の国家のあり方は正しいのか。小泉・安陪政権と続く政治の中
で、米国と距離を置いたいわば日本の「自主独立」路線を求める声が急速に膨ら
んでいる。それが核論議のもうひとつの背景になっている。核論議を求める声は、
北朝鮮の核実験をきっかけとしているが、核武装だけにとどまらない日本の国家
のあり方を問うている。奥深い背景があり、その分析と議論は必要であり、避け
たり、逃げるべきではないと私は考えている。
               (筆者は日本大学総合科学研究所教授)

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