北朝鮮の瀬戸際政策にどう対応するか   望月 喜市

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 ◆北朝鮮の捨て身の攻勢:
 北朝鮮は,7月のミサイル(テポドン)発射に続いて,10月9日核実験を行
ったと声明をだした。北朝鮮はすでに核拡散防止条約(NPT)から脱退(93/03,
03/01),05/2月には核兵器保有を宣言している。その後,ミサイル発射そして
今回の核実験と続く。これに対し,安保理では対北朝鮮への制裁決議を全会一
致で決議(11/14日)し,兵器類(核兵器,生物兵器,ミサエル関連など)贅
沢品,金融などの分野での対北封鎖を実施することになった。
 
北朝鮮はなぜこのような捨て身の強硬策を次々と打ち出してくるのか。(1)核
を人質にして,アメリカと対等な立場から交渉を進める,(2)核保有国として国
際的地歩を誇示し,自国民にその外交手腕を見せ付け,国民の不平・不満を抑
圧する。(3)核の放棄(?)と交換に金正日政権の存続保証を米国から取り付け
る,金融制裁の解除を求める,支援物資獲得を狙う,エネルギー供給の保障な
どの諸要求を高く売りつける。
 
 一方,5カ国(米・中・韓・ロ・日)の狙いは,朝鮮半島の非核化,核拡散
の防止であり,核を人質にした交渉の拒絶,無条件での6カ国協議の再開であ
る。
 この危険なチキン・ゲームは,北朝鮮の船舶臨検などの際のトラブルなど思
わぬ偶然から,戦闘行為が始まるリスクを抱えているばかりか,不安定な事態
の打開が長期化することが予想され,北朝鮮の住民の苦しみや,拉致問題解決
の遅延などを伴い決して好ましいものではない。(噂では,北朝鮮難民の脱出促
進策で北の崩壊を狙う作戦や,北の崩壊まで1年半説などが流れている)
 
 ◆交渉継続で時間稼ぎ(?)
 中国は,米・北両者の面子を損なわない形での地下交渉を精力的に展開し,
最近では6者協議再開の条件をめぐり,米・北が話合いを持つような情勢も伝
えられる一方,アレクセーエフ次官(ロシアの首席代表)は,バーンズ次官と
の会談後に「6カ国協議の再開は12月半ばまで困難」との見通しを示した。さ
らに,米国の中間選挙でのブッシュ共和党の完敗により,対話に軸足が移る公
算が高まった,少なくとも武力攻撃を受ける可能性がゼロに近いと北は判断し
ているとの観測がある。「北朝鮮にとって6カ国協議は(2年後の大統領選で民
主党が勝利するまでの)時間稼ぎの手段」(中国筋)かもしれない。そして,こ
の協議が続くうちは,核保有宣言や核実験で世界を脅す北朝鮮と共存すること
になろう。

 ◆日本の危険な対応:
 こうした情勢の中で,北朝鮮の核実験に対する日本の反応には,思慮の浅い
危険な直接反応がある。北朝鮮が核攻撃するとすれば,どこを標的とするかと
いう発想で,韓国は同胞であり対象とならない,アメリカは距離が遠く技術的
に難しい,結局,日本の米軍基地が,最も狙いやすい標的になる。したがって
これに備えて,報復核の装備をすべきだ,という議論で,簡単明快であるだけ
に一般受けする議論だ。
 
 しかしこの議論にしたがって,もし日本が核保有に踏み切ったと仮定すると
どうなるか。

☆周辺国は,日本は米国の核を離れ自主武装への傾斜だと考え,核武装に踏み
切る国が続出する可能性がある。日本が核武装すれば,世界的な核拡散防止条
約(NPT)は完全に崩壊し,もとに戻ることはありえない。20~25カ国が核兵
器保有を目指す可能性がある。
米国は,日本の核武装を日米安保条約への不信の表明と受け止めるだろう。日
本には,米国の核の傘があり,同盟国が北朝鮮の核攻撃を抑止するのに十分な
通常兵器を保有している。この核秩序を壊してはならない。
 日本は唯一の核被爆国として,非核3原則を堅持し,全世界の非核化を究極
目標して他国に働きかけてきた。核武装は,日本のこの崇高な世界に誇るべき
国際的責務の放棄につながるものだ。
 
 安部政権も非核3原則と核拡散防止条約(NPT)を堅持すると表明している。
しかし,中川昭一自民党政調会長や麻生太郎外相の一連の発言(日本の核武装
に関する協議の必要性)は,内閣の枢要な位置にある者の発言であるだけに看
過できないものがある。
 
 中曽根康弘元首相は,両氏の発言を,日本国民の過剰な核アレルギーを解消
しようという1つの努力として評価できると述べた(毎日新聞,11月11日)。
そしてなぜそうした議論が必要かについて次の様に述べている。「北朝鮮が万一,
核兵器を使えば,米国もまた使う。どこに置かれ,どのように使われ,放射能
などの影響はどうなるのか。米軍の行動を認める範囲や日本側で協力できる限
界の検討が必要だ。最悪の場合,領海や港湾に,核兵器を搭載した米国艦船や
航空機が入るという場合もあるだろう。そうなると,非核3原則のうち「持ち
込ませず」がなくなり,2原則になる。」しかしこの議論は危険だ。米国の核の
傘を利用しているとはいえ,日本が核武装しないこと(非核3原則を守ること
が)が,米国を含め世界の核秩序形成に役立っており,しかも日本の安全保障
にもなっているからである。米軍の軍事行動も,あくまでこの前提の下で行動
してもらわねばならない。

 日本国憲法の平和原則があったからこそ,イラク派兵を食い止め,自衛隊の
派遣を非戦闘行為の枠にとどめることで米国を含め国際的合意を取り付けられ
たのだ。日本は,いまこそ国際社会における非核化運動の先頭に立って独自の
外交を展開すべきである。
            (筆者は北大名誉教授,ロシア経済・日ロ関係専攻)

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