【沖縄の地鳴り】

危うい県民投票

平良 知二


 「辺野古新基地」埋め立ての賛否を問う県民投票への動きが鈍い。「『辺野古』県民投票の会」を中心とする署名活動が、期限(7月23日)まであとわずかというのに、署名は条例制定を要求する必要数の6割にとどまっている。一人の署名も集まっていない町村が10町村もある(6日時点)。
 若者主体の同会は当初、必要数(有権者の50分の1)約2万4,000筆を大幅に上回る10万筆以上を目標としていた。しかし、それどころではなくなっている。5月23日の開始から約45日、集めたのはやっと1万4,000筆である。最近は運動に勢いがついてきているといわれるものの、期間はあとわずかで、1万筆を集めるのは容易ではない。

 翁長雄志県政の与党がやっと足並み揃えて協力するようになってはいるが、遅きに失した感がある。小生の住む地域は那覇市に隣接する町で、沖縄本島ではいわば“中央部”に近い。運動の波がすぐ押し寄せてもよさそうなのに、署名簿が回って来るのはだいぶ遅かった。兄弟の一人から回ってきて、急ぎ署名し、急ぎ他に送ったのだが、これで大丈夫なのか、と相当心配になった。周辺に熱気がない。辺野古埋め立てに疑問を持ちながら「僕はやらんよ」と署名を敬遠する者もいる。

 “中央部”の雰囲気ですらこうである。山原(やんばる)の、革新勢力が強いといわれる大宜味村はまだ署名ゼロだ(6日時点)。沖縄タイムス、琉球新報2紙の署名活動に関する記事が少ないのも影響していると思われ、署名の動きは全県的には広がっていない。若者主体なので、組織的なうねりをつくる力量の問題もあるのだろう。

 いまの進捗状況を見ていると、たとえ有効数の署名が集まったとしても、そのあと県民投票実施まで大きなうねりを生み出せるものか、率直、不安が先立つ。いまさら県民投票でもあるまいという声は根強く、県民投票ではなく、翁長知事による「埋め立て承認の撤回」を求める流れになってきている。
 知事は最近も「オール沖縄」の集会に寄せて「辺野古に新基地を造らせないとの私の決意はみじんも揺らぐことはない」と強い姿勢を表明している。県民の関心は知事の承認撤回がいつになるかに集まっている。

 さらに、知事選の動きが急である。保守側は宜野湾市長の佐喜真淳氏(53)に出馬要請をした。佐喜真氏は「県政奪還は必要不可欠だ」と受諾の方向である。保守側からはあと一人名乗りをあげているが、最終的に佐喜真氏に一本化されるだろう。佐喜真氏の宜野湾は普天間基地を抱える。「普天間―辺野古」の逃げ隠れなしの、保守側の決意が読み取れる。首相官邸の押しがあったはずだ。

 一方の翁長知事は健康問題もあって、知事選への態度を明確にしていない。周辺は再出馬を当然と考えているようだが、静観が続いている。知事選は11月18日、あと4カ月だが、その前に8月半ば、国による「辺野古」埋め立ての土砂投入が始まる。翁長知事はそれをにらんでいると思われる。

 県民投票がこのような動きに埋没することなく、県民の関心を引き寄せることができるのか、これまでの経緯を見ていると否定的といわざるを得ない。中には知事選の後であっても県民投票で民意を示すことは大事だ、という声もある。しかし、土砂投入―阻止闘争、承認撤回―裁判闘争と続く大きな変動の中では、結局は11月の知事選が県民投票となるだろう。

 (元沖縄タイムス記者)

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