原油50ドル割れの「逆オイルショック」を考える

【Q&A】

原油50ドル割れの 「逆オイルショック」を考える

渋谷 祐


 米国ニューヨーク商品取引所で先物売買されるウエストテキサス・インターミディエート(WTI)原油は昨年8月の1バレル当たり105ドルの天井から急落し、年明けの5日についに50ドル割れを記録し、13日には47ドルに下落した。これは2009年4月から5年9カ月ぶりの水準。40ドル割れも現実になるかもしれない。
30年ぶりの「逆オイルショック」到来である。

 もう一度当時を振り返って歴史に学んでみたい。

 1980年代前半発生したイラン・イラク戦争をきっかけに、WTI原油価格は一桁台から急騰を続け、1985年についに史上最高値の31.75ドルを記録した。これが第2次石油ショックであった。
 ところが、プラザ合意(1985年)のドル危機や上げ過ぎの警戒感から国際原油市場は売り一色に転じ、数か月間で10ドルを切って大暴落した。当時流行った逆噴射ロケットにちなんで「逆オイルショック」と呼ばれた。

 石油輸出国機構(OPEC)の価格カルテルは一時機能不全に陥り、サウジアラビアのアハメド・ヤマニ石油相はこの失敗の責任をとって解任され、憔悴のままロンドンに逃避した。筆者は当時、石油連盟に勤務していたが、OPECウオッチャーとしてロンドン駐在が決まった頃であった。失意の日々を送っていたヤマニ元石油大臣に会ったことがある。(現在、ロンドンで隠遁して静かにエネルギー研究所を主宰している)

 「逆オイルショック」に特効薬はない。
 「市場の発汗作用」という荒療治を待つしかなく、均衡回復に半年−1年間を費やした。
 オイルマンの間では「山高ければ谷深し」というフレーズが流行した。

 ところで、これと似た現象が起きたのが2008年の「リーマンショック」(米金融破たん)である。WTI原油はマネーゲームの末、史上最高値の145.29ドルから短期間に50ドルまで大暴落した。
 これは私の記憶する限り、戦後最大の原油価格の下落幅であるが、投機ブームに沸き金融パニックを心配した米英など金融規制の網がかかり、結局破たんした。

 わずかな契約数量の取引成立でも市場全体にアナウンスするから「尻尾が犬を振り回す」と揶揄された。
 この事件はマネーゲームの大失敗であってオイル本来の問題ではないという理由から、「逆オイルショック」と呼ばれない(いささか不思議な世界である!?)。

 さて、現在サウジアラビアのヌアイミ石油大臣は発汗作用の効果が出るまで減産せずに価格下落を追認する構えだ。今回の「逆オイルショック」は株や債券などのマネーゲームとハイブリッドが特徴であるが、2つの顔を持つ。

 1つは、供給面で採掘コストの高いシェール・オイル、非効率のロシアや大水深のフロンティア開発の他、不採算の風力や太陽光など再生可能エネルギーの市場退出を迫る「ショック療法」である。

 2つは、米国・欧州・アジア市場別に決まる原油価格フォーミュラに対するストレステストを課す。(30年前、サウジは恣意的なネットバック方式を一時適用し、なんとか難局を克服した苦い経緯がある)

 つまり、今回の原油暴落は、価格水準の問題にとどまらず、価格決定のメカニズムのありかたを問うていると思われる。

 最後に、都心から電車で20分の千葉県浦安市に住む拙宅の近所のガソリンスタンドは、年末リットルあたり167円から137円に30円下げた。久々の朗報である。しかし円安ドル高が値下げ効果を相殺したためもうひとつ実感が乏しい。家庭用の電気代やガス代に反映されるのは4月になってからである。半年、1年あるいはもっと年月を経過しなければ真のストーリーはつかめないのではないかと思われる。

 (筆者は早稲田大学資源戦略研究所事務局長・主任研究員・メルマガ「新・ジオポリ」編集発行者 URL:http://eglj.tokyo

※参考資料:「オイル&マネー-----石油と金融の新たな構図」 藤澤 治・吉田 健一郎、エネルギーフォーラム社刊、2008年、定価1800円

※風刺漫画「主役交代:風力からガソリンへ」
The Washington Examiner.
Cartoon by Nate Beeler/Cagle Cartoons.
“Editorial cartoon: Oil slump”
January 6, 2015
http://www.washingtonexaminer.com/editorial-cartoon-oil-slump/article/2558270


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