【オルタ広場の視点】

参議院選挙結果① 野党敗北とれいわの健闘・1名区の女性勝利

仲井 富


① 野党共闘1人区とれいわ健闘 自民現職議員7名落選 改憲議席割れ
② 東京、大阪の大都市での野党惨敗 枝野代表や菅元首相の狭量さ
③ 新潟選挙区:打越4万票差の圧勝 鷲尾引き抜きで万全の自民敗北
④ 女性候補打越さく良の勝因はなにか 新潟市完勝と無党派層の支持
⑤「私たちのさくらちゃん」を勝利させた新潟の女たちの団結力
⑥ 秋田選挙区:女性寺田静の勝利 アリが巨象(虚像)を倒した日
⑦ 「母親目線」「生活者目線」選対本部長は石田寛・社民県連合代表
⑧ 無党派層の71.2%が寺田支持 自公維新支持者も投票
⑨ 苦節3年:選挙区をくまなく歩いた 愛媛永江孝子 8万6千票差の大勝
⑩ 最大の護憲勢力は自公明維新支持者と無党派層に存在する

◆野党共闘1人区とれいわ健闘 自民現職議員7名落選 改憲議席割れに

 第25回参院選挙は予想通り自公政権の勝利に終わった。しかし、れいわ新撰組と1名区における女性候補の健闘によって、東日本の1名区を中心に野党統一候補の女性を中心に勝利した。野党が勝った1名区では、岩手、秋田、山形、宮城、新潟、滋賀、大分と自民現職が落選した。れいわ旋風を除けば、低調な選挙だったが、48.80%の低投票率の中でも自民は単独過半数を失い、改憲3分の2を割った。

 今回の参院選挙の最大の政治的焦点は1人区の勝敗にあった。だが安倍・菅が応援に入った1人区重点区の結果は4勝9敗となった。負けが100%と読んだ沖縄には幹部は誰一人入らなかった。菅直人の自公消費税値上げ案抱きつきで、2010年参院選で大敗して以降、1名区のみで見ると、2010年、自民21、旧民主など8、2013年、自民29、旧民主など2、2016年は野党統一によって自民21、旧民主など11、と健闘した。今回2019年は、自民22、野党統一候補10となったが中味の濃い結果だ。何よりも安倍・菅が全力を集中した1人区での4勝9敗が決め手となって、自民党の単独過半数を阻止したこと、さらに改憲議席3分の2を割ったことが大きい。

 最大の金星は、菅官房長官の地元秋田市で、イージス・アショア反対の女性候補寺田静が2万票余の差で勝利したことだ。比例区票では自民党が圧倒しているにもかかわらず勝利した。過去の1人区や知事選にも表れていることだが、安倍政権は争点のはっきりした選挙には弱い。その典型が沖縄だ。野党の票のみでなく、自民、公明、維新などの与党票プラス無党派層の圧倒的な支持によって勝利するというパターンだ。3年前の野党11議席獲得も今回の10議席も同様の現象が起きている。
 2016年の参院選は自民21勝、野党11勝だったが、今回は青森、福島、山梨、三重の4県で議席を取り戻した。一方、秋田、滋賀、愛媛3県で野党統一候補に敗れた。非改選と合わせ、自民の参院議員がいない選挙区は従来の岩手、沖縄2県に、新たに宮城、山形、新潟、長野、大分の5県が加わった。

 秋田県の佐竹知事は7月29日の記者会見で、参院選秋田選挙区で初当選した無所属の寺田静氏の勝因を分析し、「自民党はイージス・アショアでマイナス要素が広がり、(老後の生活資金の)『2,000万円問題』などが複合的に作用した」と語った。知事は、「寺田さんは感じが良い。女性の優しい感じ。女性票は相当流れている」とみる一方、落選した自民党の中泉松司氏の支持が広がらなかった要因については「イージスは男性社会の象徴のようなイメージでマイナスの要素が広がっている」と論評。安倍首相をはじめ大物弁士が続々と来援したことについては、「中央から大物が入ると反感を買う」と指摘し、「私は一切、応援は呼ばない」と語った。佐竹知事はその上で、「女性票の行方とイージスがあって、自民党は守りの選挙、寺田さんは攻めの選挙となった結果だ」と総括した。(秋田魁新報 2019年7月30日)

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  首相と官房長官が公示後応援に入った1人区の勝敗 朝日新聞 2019年7月23日

◆東京、大阪の大都市での野党惨敗 枝野代表や菅元首相の狭量さ

 東京・大阪の野党の惨敗振りが続いている。東京では前回2議席だったが今回は1議席。大阪では4名区で3期連続当選ゼロ。近畿地方は兵庫、京都の複数区でゼロ。維新・公明・自民連合に席巻された。共産は京都の2名区で1議席を守ったが、大阪で現職が落選した。近畿地方の議席は野党共闘が勝利した滋賀の1名区だった。
 中国地方は広島の2名区で1名当選。四国は愛媛の1人区の勝利のみだが、四国で唯一の伊方原発立地県での完勝は意義深い。九州・沖縄地区では、福岡の3名区で1名。大分の1人区は前回約千票差というきわどい勝利だったが今回は2万票の差をつけた。沖縄の勝利は、安部・菅・山口の自公政権にノーを突きつけた。これで辺野古を争点にした国政選挙で自公維新は7連敗を続けている。

 大阪、東京を中心とする複数区惨敗の根本原因はどこにあるのか。一言で言えば枝野代表や菅元首相らの思い上がりが根本にある。もう勝負はついた国民民主は俺たちのところに来い、という態度だ。菅元首相の暴言が話題になったのは4月9日だ。
 立憲民主党最高顧問の菅直人元首相はこの日、自身のツイッターに<国民民主党は、政治理念が不明確なので解散し、参院選までに個々の議員の判断で立憲との再結集に参加するのが望ましい>と投稿した。立憲民主と国民民主が夏の参院選に向けて選挙協力を模索している最中に、表向きは「友党」である政党に元首相が公然と解散を要求した。さすがにこの発言には、国民民主だけではなく立憲民主党内からも批判が噴出した。立憲民主会派の岡田克也衆院議員は11日、菅氏の発言について「慎むべき発言」と自重を促した。

 2010年の参院選で大敗以降、参院選挙4連敗、衆議院選挙3連敗の根本原因は菅元首相の「消費税自公案抱きつき」だった。加えて立憲民主党枝野代表の懐の狭いのには驚く。本気で政権を取りに行く気なら、土下座してでも国民民主党に合流を頼むという姿勢が必要だ。参議院選挙はとっくに期日が決まっているのに、本気で野党統一に動いたとは思えない。
 おまけに静岡2人区の国民現職がいるところに候補者を立てた。比例区票欲しさだろうが度し難い。自民党を見よ。政権復帰のためには反対党の社会党国対幹部に当時の森幹事長が土下座して村山首相を担ぎ上げた。自自公政権樹立の際は、当時の野中幹事長は小沢氏に土下座した。かくして自民政権は長期安定を図った。これくらいの根性なくして野党政権などありえない。大阪4人区でゼロ議席。東京6人区で1名当選の惨状を枝野・菅氏や大阪の辻元氏らはどう対処するのか聞きたいものだ。

◆新潟選挙区:打越さく良4万票差の圧勝 鷲尾引き抜きで万全の自民敗北

 新潟県選挙区では、野党統一候補の打越さく良が521,717票を獲得し、自民の現職塚田一郎に約4万2千票差をつけて初当選した。前回の2016年参院選では、同じく野党統一の森裕子が大接戦を制して2,579票差で当選している。北海道出身の、いわばよそ者の打越に4万票の大差は予想できなかった。自民党は現職で3選を目指す塚田一郎の忖度発言で人気を落としていたが、野党切り崩しで体制を強化した。それは旧民主・民進の鷲尾英一郎の引き抜きだった。鷲尾は選挙前の3月22日、記者会見を開き以下のように述べた。
 「民主党、民進党が自壊し、共産党を含めた野党共闘路線を取る中で私自身の政治姿勢と極めて異なるものを感じた」。
 衆院新潟2区では、前回の選挙で鷲尾氏に敗れ、比例代表北陸信越ブロックで復活当選した細田健一もいる。にもかかわらず新潟2区の旧民主党・民進党の鷲尾英一郎を参院選直前に自民党入りさせた。3年前の参議院線でわずか2千数百票で野党統一候補の森裕子に敗れた轍を繰り返さない万全の体制を敷いたわけだ。

 鷲尾は新潟2区 (柏崎市など)を地盤として4回連続当選。前回の2017年総選挙で、有権者数302,713人の地域で投票率63.82%で、得票数97,808(51.6%)、自民の細田健一81,705票(43.1%)を破って当選している。いわば旧民主最強の現職議員を参院選直前に自民党は引き抜いた。昨年の新潟県知事選では、徹底した原発再稼動隠しで、からくも当選した花房知事の経験から万全の体制を組んだわけである。前回の参院選や2018年の新潟県知事補欠選挙で、競り負けている柏崎、燕、長岡などの各市と新潟市の西蒲区、南区、西区を含む新潟2区での完勝を目指した。さすが自民党と私は思った。私はこの時点で新潟県上越市の友人に電話で見通しを聞いた。彼曰く「野党は今回勝てないよ。女性といってもどこの馬の骨かわからないよそ者を持ってきて勝てるわけけがない」。

 だが打越さく良候補が圧勝した。前回の2016年参院選では野党統一候補で無所属の森裕子氏が現職の泉八一氏をわずか2,579票差で振り切った。当時、地元紙は以下のように報じた。
 ――共闘のポイントは長年独自候補擁立を続けてきた共産党。今回の比例代表でも県内で8万9千票を獲得しており、底堅い組織票がある。堅固な組織票はほぼ100%森支持に回った。投票率が60%近くに上ったことに無党派層の投票参加も森にプラスした。出口調査では森65%、泉35%と圧倒された。(新潟日報 2016・7・12「共闘戦略奏功 組織力破る」)――

◆女性候補打越さく良の勝因はなにか 新潟市完勝と無党派層の支持

 新潟日報の記事は以下のように分析している。
 ――7月21日投開票の参院選新潟選挙区で勝利した野党統一候補で無所属新人の打越さく良(ら)氏(51)は、30市町村別の得票で自民党現職の塚田一郎氏(55)と15勝15敗だった。大票田・新潟市を8行政区に分けると、この全区で勝利したため22勝15敗。塚田氏は多くの町村部で打越氏の得票を大きく上回ったが、新潟市だけでなく、長岡、上越、三条、新発田など中規模の都市でも敗れたことが響いた。

 打越氏は、本県有権者数の約3分の1を占め、無党派層の多い新潟市全体で塚田氏に2万5千票余りの差を付けた。得票率は52%を超え、塚田氏を7.7ポイントも上回った。全勝した新潟市の全8区の中でも、これまで野党系の票が多く出ていた秋葉、西蒲など五つの区で5ポイント以上リードした。
 新潟市に次いで人口の多い長岡市や上越、三条両市で打越氏が5ポイント以上の差を付けて制したことも、勝利へと押し上げた。以前から野党系が比較的強いとされる加茂、見附、小千谷、五泉各市のほか、保守層が厚い田上町、弥彦村などでも塚田氏を大きく引き離した。

 一方、塚田氏は出雲崎、津南両町、刈羽、関川両村など自民党支持層が多い町村部で10ポイント以上の差を付けたほか、聖籠、阿賀両町でも5ポイント以上リード。市部でも、県境に接する糸魚川、十日町、村上の各市や離島の佐渡市などでより多くの支持を得た。しかし、人口規模の大きい都市で打越氏に付けられた差を埋めることはできなかった。(新潟日報 2019・7・25「参院選新潟選挙区 戦いの跡」)――

◆「私たちのさくらちゃん」を勝利させた新潟の女たちの団結力

 新潟市出身の友人Fさんのからメールを見て納得するところ大だった。以下に要旨を紹介する。

 ――彼女が参院選に新潟から出馬すると知ったときは、ビックリでした。でも打越さんは、公示前から新潟でこまめに街頭活動を続けてましたし、それを支える新潟の女性たちの強力な支援が広がることを確信できました。その要因としては、ざっと思い浮かぶだけでも、以下の点があげられます。
 一度招かれたことのある新発田市の敬和学園など、女性学やジェンダー研究にも力をいれている大学があり、私の知っている女性がそこで長年教員を務め、辞めてからも、新潟の市民大学で「女性史講座」を開催し、その関係者との絆が続いていました。
 2017年の衆院選では、新潟4区(新潟市の一部、新潟県三条市など)の「女の戦い」が全国的な注目を集め、野党統一候補の菊田真紀子が自民党前職の金子恵美を2万5千票差で破って当選したこと。今年の統一地方選、新潟県議選で、新潟市江南区では、圧倒的に強い自民党の現職男性が5期目を迎え、これまで無風地帯であったのに対し、今回は立憲民主党の公募に応じた新人女性候補が12,272票vs 8,808票にまで迫ったことなど予兆はありました。

 私の地元江南区(旧亀田町)の友人の話によると、近隣の女性たちが茶飲み話に反安倍発言をするなど、概して社会的公正感や反戦意識が高く、親や夫に従わず自分の考えを持っていることがうかがわれること等々ありますが、反面、北海道の旭川出身だという打越さんが新潟から立候補、というのはあまりに唐突で、バッシング受けそうだな、という危惧もありました。
 ところが、対抗相手が「忖度発言」の塚田議員だったのに加え「新潟生まれの新潟育ち」を連呼する支援議員が、秘書へのパワハラを暴かれて行方をくらます事態となるなど、敵失のおかげもあって、特に安倍首相が応援にかけつけてからというもの、塚田支持が弱まっていったようです。新潟の友人たちに聞くと、予想以上に熱い戦いだったらしく、私の友人周辺のおばちゃんたちは「あんな男を当選させたら新潟の恥だ」と口々に言い合い、従来自民党系の人も「今度ばかりは応援はできない」と言い出していたそうです。

 常々言いたいことを言い合えるコミュニティの存在(平時は、月に1回はおいしいランチを食べる会に過ぎないのですが)、元学校教師や保育士など仕事関係、あるいは高校の同窓会などの縁で、選挙や署名などの「お願い」を気楽に呼びかけあえるネットワークの活性化、ということが大きいと思われます。その人たちの間で、見ず知らずだったはずの打越候補は、「さくらちゃん」と呼ばれるまでに身近な存在となり、結果的に「私たちのさくらちゃん」が勝った喜びはひとしおだったようです。――

 新潟の比例区票は、自民約45万(44%)、公明約8万(8%)、維新約5万(5%)で合計約58万票、野党総計では約37万票だ。約20万票の差を逆転した原動力はなにか。日本は古来「女なくては夜の明けぬ国」だということを世の政治家や男どもが忘れ去っているのではないか。

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  打越無党派票65%獲得 新潟日報2019年7月23日

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  2019年 新潟選挙区市町村別得票 新潟日報2019年7月23日

◆秋田選挙区:女性寺田静の勝利 アリが巨象(虚像)を倒した日

 秋田1人区では無所属の寺田静が、自民の現職中泉松司に約2万2千票の差をつけて完勝した。
  寺田静  無所属・新 242,286 得票率 50.46%
  中泉松司 自民・現  221,219 得票率 46.07%
  石岡隆治 諸派・新   16,683 得票率 3.47%

 比例区票で見ると以下の得票数・得票率だ。
  与党系: 自民 204,018 公明 48,784 維新 20,562         合計 273,364票。
  野党系: 立民 62,029 国民 39,645 共産 37,129 れいわ 15,282 合計 171,402票。
 自公維新の与党系だけで過半数をはるかに上回る61%を占める。野党票は合計で39%に過ぎない。(秋田魁新報 2019年7月22日)

 この虚弱な野党共闘がなぜ巨大な与党系に2万票を超える大差で勝利できたのか。安倍政権「終わりの始まり」と題する横田一氏のレポートから全体状況を知ることができる。その要旨を以下に紹介したい。

 ――イージス・アショア配備が争点となった秋田選挙区(改選1)で、野党統一候補の寺田静氏(44)の当確が出たのは21日の午後9時25分ごろ。その瞬間、選挙事務所の支持者から「よくやった」「頑張った」という歓声と大きな拍手が沸き起こった。支持者に感謝の弁を述べた寺田氏は万歳三唱の後、5歳の長男とそろって花束を受け取り、すぐさま安倍政権と対峙する姿勢をあらわにした。
 安倍首相は選挙期間中に2度も秋田入りして応援演説を行ったが、「アリが巨象を打ち倒した勝因は何ですか」「イージス・アショア配備反対の民意が示されたと思いますか」と問われると、寺田はこう答えた。
 「何事も力でねじ伏せようとする今の政治はおかしいという県民の思いが集まった結果」「イージス・アショア反対の民意が示された。配備の阻止に全力を注ぐ」。

 「一強多弱」を謳歌してきた安倍政権の「終わりの始まり」を告げる奇跡的な勝利だった。県内3小選挙区と参院選2議席をすべて自民党が独占し、700以上の企業・団体からの推薦を受け、安倍首相をはじめ秋田生まれの菅官房長官や小泉進次郎・厚生労働部会長などの大物議員が続々と応援に駆けつける総力戦を展開したのに、政治家経験ゼロの子育て中の母親に打ち負かされてしまったのだ。

 ●「母親目線」「生活者目線」選対本部長は石田寛・社民県連合代表
 本命の県議が固辞したことで候補者選考が難航する中、2カ月間をかけて寺田氏を説得して自ら選対本部長を務めた石田寛・社民県連合代表は万歳三唱後の囲み取材で、「安倍政権打倒を目指す野党選挙協力のモデルになる」と力説しつつ、アリが巨象を倒した勝因を分析した。

 「『母親目線』『生活者目線』の勝利です。演説内容への指導はまったくなく、候補者に任せて思うところを訴えてもらいました。不登校経験や弟さんの死別などの生い立ちを語りながら、イージス・アショア配備についても自分自身の息子を含めて『秋田の子どもたちにイージス・アショアのある未来を引き継がせたくない』と母親目線で訴えたことが共感を呼んで、支持拡大の原動力になりました」
 「それに比べて安倍首相の応援演説はアベノミクス自画自賛ばかりで、秋田県民の心にはほとんど届かない。『安倍政権下で農産物輸出が増えた』と成果をアピールしたが、安倍首相の訴えが響かないのです」(石田氏)。

 しかも安倍首相と菅官房長官が2度も秋田入りしたことで、イージス・アショアへの関心がかえって高まったと石田氏は指摘する。参院選が秋田配備への賛否を問う県民投票(住民投票)のような様相を呈してきたというのだ。「(参院選で)私が負けたら秋田(県民)の理解を得たといって計画が進む」と寺田氏が訴えたのはこのためだ。「しかも安倍首相は応援演説で、『秋田へのイージス・アショア配備は必要』と言い切った。中央ゴリ押しの秋田配備を食い止める『県民代表(オール秋田)候補』という期待感が寺田氏への追い風になった」。

 その分析結果は出口調査結果でも裏付けられている。寺田氏は野党支持を固めたうえに無党派層で自民党公認の中泉松司候補に大きく差をつけ、自公支持者の一部も切り崩していたのだ。【参院選2019】アリが巨象(虚像)を倒した日~『秋田モデル』が示す、安倍政権「終わりの始まり」[ジャーナリスト/横田 一]――

◆無党派層の71.2%が寺田候補支持 自公維新支持者も投票

 共同通信社が7月21日、秋田県内投票所で実施した参院選出口調査によると、本県選挙区で当選した野党統一候補で無所属新人の寺田静氏は、立民、共産、社民など野党各党の支持層をまとめ、無党派層からも厚い支持を獲得、県南部を中心に他候補を上回った。調査対象は1135人(男571人、女564人)。支持政党別で、寺田氏は立民の95.0%、共産の97.8%、社民の88.5%の支持を得た。無党派層にも浸透し71.2%を取り込んだ。
 自民現職の中泉松司氏は自民の80.8%を獲得したが、公明は52.3%と約半数。無党派層は24.6%にとどまった。(秋田さきがけ 2019年7月22日)

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  出口調査からみた県内投票行動~支持政党別の得票率 秋田さきがけ2019年7月22日

◆苦節3年:選挙区をくまなく歩いた 愛媛永江孝子 8万6千票差の大勝

 愛媛県の1人区は前回、自民候補に約8,000差で野党候補の永江孝子が敗北した。しかし今回は永江が自民党新人のらくさぶろうに約8万6千票の大差で勝利した。ここでも比例区票は、政党別得票で全20市町村でトップの座を守った。にもかかわらず永江孝子が1人区で大差をつけたのか。沖縄県の1人区や知事選では5万票から10万票の大差がつく場合が多いが、本土の1人区でこれだけの大差がつくのは珍しい。以下は南海放送解説室のデータ解説である。

 ――参議院愛媛選挙区は、無所属で野党統一候補新人の永江孝子さんと自民党新人のらくさぶろうさんが与野党一騎打ちの激戦を繰り広げました。その結果、永江さんがらくさぶろうさんに9万票近い大差をつけて初当選を果たしました。自民党は、2017年衆院選愛媛3区に続く敗戦で、県内衆参6議席のうち、2議席を明け渡すことになりました。

【2019参院選結果(投票率52.39%)】
  無・新 永江孝子   335,425票(86,809票差)
  自・新 らくさぶろう 248,616票

 3年前の参院選では以下の結果。
【2016参院選結果(投票率56.36%)】
  自・現 山本順三 326,990票(8,429票差)
  無・新 永江孝子 318,561票

 得票数を県内20市町別に見てみます。3年前の参院選では、現職が勝利した自民党の12勝8敗。しかし、今回の参院選では、3勝17敗と、3年間で勢力図が塗りかえられる結果となりました。(勝利したのは、らくさぶろうさんの出身地・大洲市と上島町、伊方町の3市町)

 ●比例票では、与党圧勝も・・・
 県内の比例代表得票数を与野党別に見てみます。

【与党】自民 241,111票 公明 89,150票   合計 330,261票
【野党】立憲 68,700票 国民 46,206票 共産 33,522票 社民 9,426票 合計 157,854票

 このように、自民党・公明党の与党が、県内で共闘した4野党に2倍以上の差をつけてます。しかし、選挙区では、この得票数が逆転していて、与党の票が野党統一候補の永江さんに流れていたことが分かります。(ニュースの深層 第21回「3勝17敗の衝撃 データで振り返る参院選・愛媛」南海放送解説室)――

◆最大の護憲勢力は自民公明維新支持者と無党派層に存在する

 南海放送の解説に基づいて、下記の朝日新聞出口調査「愛媛県 各党支持者は誰に投票したか」で推計してみると、永江圧勝の原因が明確となる。まず自民比例区票約24万票のうち約7万票が、公明の比例区票約9万票のうち約4万票、維新の比例区票約5万のうち約4万票の総計約15万票が野党統一候補の永江に流れた計算になる。野党立憲、国民、共産、社民4党の比例区票合計が約17万票で、合計約32万票の永江の総得票と一致する。

 野党共闘といっても、勝利したすべての1人区で大なり小なり自公維新の野党統一候補への支持が集まったことが野党候補の9勝4敗につながった。これが今回の参院選で自民の単独過半数を阻止し、改憲議席割れに追い込んだ。最大の要因は自、公、維新支持者と無党派層の6割以上の支持だった。憲法改正を阻止する最大の援軍は、しなびた野党だけではなく、自公維新と無党派層の中に存在することを改めて強調したい。

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  朝日新聞出口調査 朝日新聞 2019年7月24日

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  市町村別の得票 永江氏が17勝 愛媛新聞 2019年7月23日

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  各党の都道府県別比例区得票数 日経新聞 2019年7月23日

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

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