反日デモ中の中国生活・その後

■ 【北から南から】

中国・深セン便り 『反日デモ中の中国生活・その後』   佐藤 美和子

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  2ヶ月たっぷり堪能した日本生活にまだ少し未練を残しながら、つい先日中国
へ戻ってまいりました。やはり日本は良かったです。誰にとっても生まれ育った
国が一番であることをさて置いても、日本はずば抜けて治安が良く暮らしやすい
のだと、今回改めて認識しました。

 例えば買い物に出かけたときです。店の駐輪場に停めた自転車やバイクのカゴ
に、別の店で買ったものを載せたまま、店内に入っていく人を多数見かけたのに
は仰天しました。大抵の人はカゴカバーを付けてはいますが、紐を解けば一瞬で
中のものが盗んでしまえるカバーなど、日本以外の国では何の抑止力も持ちませ
ん。自転車荷物の引ったくり被害防止運動をしていても、そうやって荷物を放置
する人が一人や二人ではないという治安のよさは、驚嘆に値すると思います。

 私も自転車で出かけることが多かったのですが、まず自転車の鍵がたった一つ
であることが不安で不安で仕方ありませんでした。中国でなら、自転車自身の鍵
とは別に、チェーン鍵が必須です。そのチェーンで、地面に固定されているポー
ルや電信柱のようなものと括り付けねばならないのです。いや、電柱とつないだ
としても、盗まれる時は盗まれます。私の中国人の知人は、日本から輸送して持
ってきた電動自転車を、電柱にガッチリつないだにも関わらずものの5分で盗ま
れました。平和ボケした日本人ならともかく、地元の中国人ですら対策をしても
被害に遭うのです。
 
  お陰で私、日本で自転車を店前に停める時はいつもキョロキョロしてしまいま
した。どんなに重くても、どうしても自転車カゴに放置しておけず必ずすべての
荷物は持ち運んでしまうし、自転車の停める位置もなるべく盗まれにくいポジシ
ョンを無意識のうちに探してしまうのです。

 ウチの相方は、レストランや商店付近で車を停める時、なるべく店内のガラス
窓から見える位置に停めようとします。もし店内から見えない位置しかなければ、
食事中席を立ってでも、時々車の無事を確認しに行きます。なんせ、車を盗まれ
たり当て逃げされりした人が、友人知人の中に何人もいますから……。知らず知
らずのうちに、私もその悲しい習慣が染み付いてしまっていたみたいです。その
日本では異様に見える自分の無意識の防御心に、普段中国では、いかに周囲を疑
いつつ暮らしているかということを思い知らされました。

 中国に戻ってくる時、今回は久々に広州到着便を利用しました。深センに戻る
には、通常香港便の方が近くて便利なのですが、中国の反日デモ騒動のために集
客が見込めず、私の乗る予定だった航空会社の関空⇔香港便が長期運休してしま
ったのです。偶然それをネットニュースで知り、驚いて問い合わせたところ、返
金も他社便振り替えも一切しない、というヒドイ対応でした。

 私はその航空会社に知人が居たお陰で、他社便の片道チケットに買い換えると
遥かに損をするものの、往路分の返金を受けることができました。しかし、他の
乗客はどうしたのでしょう? こういう非常時を考えると、やはり人によって対
応を変えたりしない日系を利用すべきなのかも知れませんね。

 広州空港からは、深セン市内まで片道約3時間の空港高速バスが出ています。
市バス等とは違ってまだ清潔で乗り心地も悪くないので、それで深センに帰ろう
と思っていました。しかし、これまた広州空港に勤務する知人に止められてしま
いました。

 なんでも、ここしばらくの反日デモや日本製品不買運動のために、治安が悪く
なっているからだというのです。これって一見、空港バスの利用と何の関係もな
さそうですよね?

 広東省には、多くの日系企業が進出しています。一々報道はされなくとも、実
際に社内でデモや就業ボイコットが起きたり、生産ラインを壊された企業も幾つ
かあります。また日系企業の製品が売れなくなれば生産を縮小し、従業員を解雇
せざるを得なかった企業、また残業代や来春の昇給が見込めず離職する人も出ま
した。倒産した日式クラブやカラオケ、和食店もたくさんあります。

 元々、景気に陰りが見えて数年経つ中国で職を失うのは厳しいというのに、し
かももうすぐ何かと物入りな年末です。そのせいで、一時は鳴りを潜めていた長
距離バスでのスリ・盗難が、またぞろ復活してきているというのです。
 
  長距離バスの盗難とは、こんなカラクリです。スーツケースなどの大きな荷物
は、車体横の荷物室に預けますよね? その中に、小柄な泥棒が隠れている荷物
が紛れ込んでいるのです。バスの出発後、内側から開けられるよう細工したスー
ツケースの中から人が出てきて、到着までの時間に他の荷物の鍵を開けては金目
のものを盗み出します。盗んだ後はそれらのスーツケースをきちんと閉めて元の
状態に戻しておくため、乗客たちは帰宅後荷物を開けるまで、誰も盗難に気付き
ません。また旅程のどの時点で盗まれたのかも分からず、盗難保障も受けられず
泣き寝入りになるのだそうです。

 空港スタッフが言うのなら、その忠告に従った方が賢明なのでしょう。往復6
時間の道のりを、相方に車で迎えに来てもらいました。高速代やガソリン代を考
えると、空港バスで帰ったほうが、よっぽど安上がりなのですが、この際仕方あ
りません。

 日系企業に勤める中国人の知人は3週間ほど前、レストランで中国人に絡まれ
たそうです。反日デモが一応の収束をみせて、もうしばらく経つというのに、で
す。外食中、日本人の顧客からかかってきた電話に出ざるを得ず、日本語で会話
をしたのを聞きとがめた近くのテーブルの人がインネンをつけてきたのだとか。
「何語を話そうと、俺の勝手だろう!」と中国語で反撃したところ、そのチンピ
ラもどき、大人しい日本人に八つ当たり・鬱憤晴らしができると踏んでいたので
しょう。思いがけず反撃を受け、もごもごと謝罪しつつすごすごと引き上げて行
ったそうです。

 彼が中国人で、凄み返すことができるひとだったのでよかったのですが、どう
やらまだ我々在中邦人の暮らしは引き続き不穏な模様。色んな制約を受ける深セ
ン生活が、再びスタートしました。

 (筆者は中国・深セン在住・日本語講師)

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