図書館の究極の使命は、次の戦争を起こさせないこと

【記録から未来へ】

図書館の究極の使命は、次の戦争を起こさせないこと

谷合 佳代子


 去年(2014年)の8月16日に、わたしはフェイスブックで次のようなメッセージを書いた。

【大事なことなので大きな声で言います】
図書館の究極の使命は、次の戦争を起こさせないことです。
そのための知の世界を準備することです。
価値観は多様であり、多様であってよく、多様性を認めるべきです。
しかし、国家の正義と大義の下に、顔も知らない、個人的にはなんの恨みもない若者同士を殺し合いさせてはなりません。
図書館・博物館・文書館こそが、迂遠の道ながらそのための叡智と歴史の記憶を収集保管公開できる場所です。
MLAに働くすべてのスタッフは、正規・非正規を問わず、立場を問わず、そのことを自覚し、誇りと使命感を持ってほしい。

 この「個人的図書館使命宣言」は245人から「いいね!」をもらい、43人にシェアされた。わたしの投稿ではこれまでで最多の「いいね」と「シェア」である。大きな反響があるとは思っていなかったので驚いたが、しかしたった43人にしかシェアされなかった、とも言える。シェアされた先のコメント欄では「こういう宣言を図書館の団体が正式に出しているのか?」という疑問や、抽象的な内容なので何を言っているのかよくわからない、という意味のコメントも書かれていた。

 図書館は非正規職員の数が6割を占めるブラック産業と呼ばれている。自分の仕事に自信がもてない非正規スタッフも多くいると思うが、これはそんな彼女・彼らを励ましたいと思って書いた「宣言」だった。大事な仕事をしているという自覚をもち、その仕事にふさわしい努力をしてほしいし、自分たちの待遇を改善してほしかったら自分たちで闘うしかないということも覚悟してほしい。誰かが助けに来てくれるのを座して待っていてはダメだ。そんな激励もこっそり込めていたつもりだった。
 MLA(Museum 博物館、Library 図書館、Arcive 文書館)が戦争抑止のためにできることなどしれているし、とても地味な存在だ。しかし、大事な知のインフラを担い、知の世界を下支えしているのである。
 「図書館の究極の使命」の「図書館」を「教育(学校)」や「報道(メディア)」に置き換えても同じ。いや、教育や報道のほうがもっと直接的に戦争抑止力を持っている。ではわれわれライブラリアンの役割はなんなのだろうか。異文化や異なる立場の人への想像力は書物や博物資料から得る事ができる。MLAは単に情報を得るためだけのところではない。ことに当たって書物や過去の記録に学ぼうとする姿勢が習慣的についていれば、戦争をしようという気にならないはずだ。

 とはいえ、例えば特攻隊員の遺書が「知覧特攻平和会館」に展示されているのと、靖国神社「遊就館」に展示されているのでは、180度意味が変わってしまうように、「無垢な記録」は存在しないのかもしれない。過去の記録に向き合えばそれで戦争を抑止できるかどうかは、実は危うい。だからこそ、多くの、多面的な記録を残し続けることが大事なのだ。

 翻ってわがエル・ライブラリーはどうであろうか。明治時代以来の社会・労働運動の記録を残し、現在の労働・労務関係の図書や雑誌を収集している「大阪産業労働資料館」を、職員が身銭を切って維持運営し続けているのは、「働く人々の歴史を未来に伝える」という使命を果たすためである。受託していた大阪府の図書館を橋下徹知事(当時)につぶされ補助金を全廃されても資料を守り抜こうと思ったのは、過去の記録が「正しいもの、正義を体現するもの」だからではない。労働組合や社会運動の歴史がすべて正しいものであったとはいえまい。間違ったこともたくさんあっただろう。だからこそ、未来への教訓を残していくことが大事なのだ。戦争を防ぐことができなかっただけではなく、諸手を挙げて戦争に協力した労働組合の歴史を反省することもまたわたしたちの使命ではなかろうか。

 今の時代の感覚で歴史を容易に断罪することは戒めねばならないし、過去の過ちもまた真摯に受け止める必要があるだろう。過去の人々が何を未来に夢見て何を託そうとしたのか、それを物語るのが一次資料である。その大切な一次資料を数万点所蔵するアーカイブであるからこそ、そして今の時代の記録をもまた次世代に繋ごうとするライブラリーであるからこそ、その意義を認めた多くの人々がエル・ライブラリーにカンパを寄せ、ボランティアで運営に協力してくれているのではないか。

 現在の「権力の透明化」にもアーカイブや図書館は力を発揮する。権力者が何を言ったか為したか、何を隠し、どんなことを実行しようとしているのか。その証拠となる「記録」(文字、映像、音声など)をアーカイビングして情報発信することもまたMLAの役割である。
 エル・ライブラリーは小さな資料館に過ぎないが、全国の心ある人々に支えられ、「過去の記録を現在に生かし、今を生きる人々を支え、歴史を未来に伝える」役目をこれからも果たす。戦後70年が「戦前○年」にならないことを願って。

 (筆者はエル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)館長)


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