【オルタ広場の視点】

◆地方選挙前半戦を終えて 民主党政権10年後の地方政治   

仲井 富

①戦後最低の道府県議選投票率と無投票地区拡大は地方政治の危機
②女性総活躍の虚構 政治参加世界で165位と先進国最低
③民主党政権の背信後遺症で弱体化する二大拠点の東京大阪
④大阪維新地域政党として存続も近畿以外は道府県議当選ゼロ

◆戦後最低の投票率と無投票区拡大は地方政治の危機
 2019年地方選挙前半戦が終わった。民主党政権が圧勝した2009年から10年を経たが、地方政治の衰退がさらに進んでいることを証明した。第1の問題は低い投票率だ。総務省によると、41道府県議選の平均投票率は、過去最低だった前回2015年を0.97ポイント下回る44.08%だった。埼玉や千葉など7県では30%台と低調だった。
 11道府県知事選の平均投票率は47.72%。過去最低を記録した15年(10道県で知事選実施)に比べ0.58ポイント上がった。大阪市長選とのダブル選になった大阪府知事選(投票率49.49%)や、保守分裂の構図で争われた島根県知事選(同62.04%)などで、選挙への関心が高まったためとみられる。

 第2には無投票選挙区がさらに広がったことだ。統一地方選前半戦の41道府県議選と17政令指定市議選が3月29日、告示されたが、道府県議選では、立候補の届け出数が定数を上回らない無投票選挙区が全体の4割近くだった。無投票当選者は4人に1人を超え、いずれも過去最高を記録。立候補を届け出たうち女性の割合は12.7%で過去最高だが、依然として低水準だ。
 関東の5県議選では、計176選挙区のうち、64選挙区の計96人が無投票当選した。総定数に占める無投票当選者数の割合は24.5%。前回(2015年)の18.1%から6・4ポイント増加した。約532万人の有権者が投票する機会を失った。無投票だった64選挙区のうち、38選挙区が1人区、21選挙区が2区だった。現職、元職、新人の別では、現職が87と9割を占めた。定数が少ない一人区と二人区は現職が有利で、新人は立候補しづらいと指摘されている。(東京新聞2019年3月30日) 

画像の説明
図表1 都道府県議選道府県別無投票当選者の割合 東京新聞

画像の説明
図表2 関東地方の県議選での無投票当選率 東京新聞

◆女性総活躍の虚構 政治参加世界で165位と先進国最低
 第3は女性の進出が依然として低調だった。政治分野の男女共同参画推進法」が昨年成立したことを踏まえ、女性候補者数を増やすための取り組みが必要だとの声は相次いでいるが、実態は先進国中最下位だ。女性議員の人数と割合は、2018年度で165位。G20中最低となっている。2018年現在で国会議員では衆院の女性議員は47人で、割合は10.2%。都道府県議会では、総数2,657人中、女性議員は262人で10.1%。市区町村会議員(政令指定都市を含む)では総数30,334人に上るが、うち女性議員は3,907人で12.7%に過ぎない。世界の国会議員が参加する列国議会同盟(本部ジュネーブ)は3月5日、8日の国際女性デーを前に、2018年の各国議会の女性進出に関する報告書を発表した。1933カ国の中で日本は前年より7位下げ、165位だった。(東京新聞2019年3月6日東京 夕刊)

◆民主党政権の背信後遺症つづく二大拠点の東京・大阪 
 今回の地方選挙前半戦で明らかになったのは、旧民主党時代の2007年に415議席で野党第一党の都道府県会議員を持っていた民主党は、2017年の総務省調べでは283人と激減している。菅民主党政権の2011年地方選挙以降、大阪・東京で大敗北を喫した後遺症が続き低下傾向は止まっていない。
 辻元和美現立憲民主党の地元の大阪府議会は定数88名中、当選者は1名のみ。政令市議会の大阪市では定数定員83名中、前回2015選挙に続いて議席ゼロである。そして参院選では2013年以降連続2回当選ゼロが続いている。かつて2007年の市議選では18名が当選していたが、民主党政権下の2011年に8名に激減。以後20015年、20019年とゼロ議席が続いている。参院選でも2013年、2016年とゼロ議席が続いているが、今年の参院選でもゼロ議席は確実だ。政令都市で候補者を出して当選ゼロが続いているのも大阪市のみという惨状だ。

画像の説明
図表3 17指定市市議選 党派別当選者数 朝日新聞

画像の説明
図表4 41道府県議選・党派別当選者数 朝日新聞

 東京の民主党は2018年都議選で定員127名中当選者は5名とさらに少数派に転落した。ここは菅直人元首相の消費税値上げや辺野古容認など民主党政権への後遺症だ。2009年の都議選では、民主党は前回2005年の34議席から54議席へと躍進し第一党となった。だが過半数には及ばず、共産党、生活クラブなどの協力を得て議長などを取り、都議会の主導権を握った。しかし菅政権の消費税値上げや辺野古容認、原発事故への対応などで一気に民主党支持率が低下した。都内各地の市議選などで、民主党からみんなの党などに転身するものも現れた。
 そして最大の問題であった築地移転反対の方針を、民主党の築地対策委員長だった花輪智史都議が裏切った。世田谷区長に推すという、石原都知事と自民党の内田幹事長の条件に乗ったのだ。そして一票差で築地移転が決定した。2013年都議選では1人区で自民に全敗、15議席に転落。共産党の議席数も下回り第4党に転落した。2017年の小池ブーム都議選挙では、ついに当選者5名まで落ち込んだ。東京・大阪は戦前戦後、いわば革新の最大拠点だった。だが民主党政権と都議会民主党の背信行為が重なり、回復不可能の現状である。東京、大阪の二大政治拠点で政権を支える地方議会の戦力回復がないかぎり野党政権など遥か彼方の蜃気楼だ。
 以下の「党派別都道府県会議員数の比較 (2008年・2017年)参照

◆党派別都道府県会議員数の比較 (2008年・2017年)
 参考資料 総務省 都道府県会議員数及び所属党派別人員調等

平成20年12月 2008年         平成29年12月 2017年
自由民主党  1,309人(47.7%)   1,269人 (44.4%)
無所属      586人(21.4%)     501人  (19.2%)
民主党     415人(15.1%) 民進党  283人  (10.8%)
公明党     209人 (7.6%)      206人   (7.9%)
日本共産党   120人 (4.4%)      149人   (5.7%)
社会民主党    57人 (2.1%)       42人   (1.6%)
国民新党      1人 (0.0%)  諸派  150人  (5.7%)
    自由党    6人 (0.2%) 
女性の議員数  225人 (8.2%)      262人  (10.1%)

◆大阪維新地域政党として存続も近畿以外は道府県議当選ゼロ

 2017年総選挙は、小池希望の党をめぐる野党民進党の参加問題をめぐる大混乱で、野党の敗北は当然だったが、同時に大阪で改革政党として、自公民社民連合を敵に回して、権力を拡大してきた日本維新の全国的退潮が歴然としてきた選挙でもあった。当時、橋下徹氏は、民進党の希望合同劇を全面的に礼賛した。曰く、― 小池さんも前原さんも歴史に名を残すね。これで選挙の結果がどっちにころんでも憲法改正議論が進む。憲法改正絶対反対の民進党をたった一人の政治家が一気に改憲集団に切り替えた。こんなことは僕も含めて普通の政治家ではできないね。(橋下氏ツイッター)―    

 だが、橋下氏の小池・前原礼賛は選挙結果で吹っ飛んだ。安倍官邸と直通の関係にある橋下、松井氏らは、2016年参院選の野党共闘の成功に危機感を抱く安倍官邸と打ち合わせて、民進解党による野党分断をしかけてきたのだ。相互の利益確保のための大阪・東京の選挙区住み分けもやった。だが橋下氏らの改憲、安保法制容認の自民安倍政権べったりの政治姿勢を有権者は支持しなかった。2017総選挙でも、大阪圏を除く地域では、維新は全面的に後退した。今回の41都道府県議選,17政令都市選の結果は、2017年総選挙と同様に維新の全国的敗北を告げている。2019年4月11日朝日新聞は要旨以下のように分析している。

 ―日本維新の会は4月7日投開票の41道府県議選で、関西以外では全敗を喫した。大阪府知事選と大阪市長選では完勝した維新勢力だが、党勢の全国的な広がりを欠く現状が浮き彫りになった。党内には関西限定の「地域政党」に回帰せざるを得ないとの危機感が広がる。維新勢力は国政政党「日本維新の会」が全国的な選挙や国会活動を担い、大阪では地域政党「大阪維新の会」として活動している。日本維新が道府県議選で獲得したのは兵庫、奈良、京都、和歌山での計16議席。関西以外では1人も当選させられなかった。日本維新の幹部には関東の落選者から「まったく風が吹かなかった」との連絡があったという―

 それにつけても野党の立憲民主党と国民民主党は危機感がない。立憲が伸び国民は低下したと言うが、両党を合わせた道府県議数は、惨敗した四年前の民主党時代より低下しているのだ。特に東京都議5議席まで低落させた嘘つき民主党政権の菅元首相の発言に驚く。彼はツイッター上に次のように綴った。「統一地方選前半が終了し、参院選までに進める野党再編の道筋がはっきりしてきた。国民民主党は、政治理念が不明確なので解散し、参院選までに立憲との再結集に参加するのが望ましい」要は国民民主党に解散せよと求めたのだ。ネット上では菅元首相の"上から目線ツイート"に大ブーイングが起きている。まず自分の選挙区(武蔵野・小金井・府中)で1人でも都議を当選させてみろ、と言いたい。小金井・府中では候補者も立てられなかった元首相なのである。

 (仲井富 オルタ編集委員 世論構造研究会代表)
 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧