【コラム】
ザ・障害者(12)

堀利和の世界

堀 利和


 ニューヨークの博物館で恐竜展が開かれていた。そこで久しぶりに入った紳士が、
「ところで、この恐竜は何年前の恐竜なんですか?」と、博物館の職員に聞いた。
「はい、これは6000万年と3年です」
「6000万年と3年? どうしてそんな細かいことまでわかるんですか?」
「ええ、私がこの博物館に来てから3年経ちましたから」

 中華屋で、若い男の店員がラーメンを運んできた。
「おい、おまえ、指が汁のなかに入ってる!」
「大丈夫です。熱くありませんから」
「おい、おまえ、ゴキブリが入ってる!」
「大丈夫です。私も昨日食べましたから」

 毎日酒ばかり飲んで、働かない亭主がいた。妻は着物を縫って暮らしをたてていた。
「痛っ!」
「どうしたんだい」
「針が指にささったの」
「大丈夫か」
「あんた、私のこと、心配してくれてるんだねぇ」
「そりゃそうさ。おまえがけがしたら、明日からこうやっていられないからなあ」

「与太郎、毎日寝てばかりいるんじゃねーよ。起きて働け」
「働いたら、どうなるんだい」
「そりゃあ、働けば金を稼いで、毎日うまいものを食って、そいでもって一日寝てられる」
「じゃあ、おれ、このままでいいや」

 午後11時のプラットホームでアナウンス。
「まもなく電車が入りますので、お気をつけください」
 千鳥足の酔っ払いが
「あたりまえだろ! 飛行機が入ってくるわけねぇだろ」。

 人生の中途で失明すると、なかなか障害を受容できない。
 かなり視力を失った54歳の男性公務員が、白杖をつかないで歩き、電車に乗った。かろうじて空席を見つけ、座った。
 若い女性の膝の上。
 これは実話である。読者のおっさんも、中途失明者になりたいかな。

 歴史的経緯から、北海道は意外に共通語、特に札幌は。「・・・・じゃないかい」という以外は。
 昨年、札幌に行ったときの話だ。今は市職員の彼が、愛知工業大学で体育系の部活に入った時のこと。名古屋などは「みゃーみゃー」だけとは違い、意外にも関西弁も幾分入っている。彼が運動場を何周もまわって帰ってくると、先輩が、
「おまえ、えらいなあ」
「いえ、私、えらくありません」
「そうか、じゃあ、もう一周走ってこい」
「やっぱし、えらいなあ」
「いえ、私、えらくありません」
「そうか、もう一周走ってこい」

 障害者(精神障害者を除く)に運賃割引があることをご存知だろうか。介護付には2人で一人分。単身の場合は100キロ以上は半額となる。その上で、お話を一つ。改札口での駅員との会話。
「お客さん、それ、こどもの切符ですよ」
「てっやんだい、おれはいつも世間から半人前って言われているんだ」
 ちなみに、日本では本人と介護者が半分ずつで一人分、ドイツでは本人は一人分、介護者は無料となっている。ドイツのこうした考え方を支持。日本でもバリアフリー映画館チュプキの入場料に注目。

 今と違って、私は40年ほど前は少し見えていた。視力0.02ぐらい。その頃つくった川柳を一句。
  赤信号 弱視が見たら 赤ちょうちん

 (元参議院議員・共同連代表)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧