【運動資料】

女性・市民コミュニティバンクの活動・事業

女性・市民コミュニティバンク理事長  向田 映子


■女性・市民コミュニティバンク設立の経緯

 「市民の、市民による、市民のための『非営利・自主管理』の金融システムを立ち上げ、『思いやり・結びつき・助け合う』協同組合の相互扶助理念を実践します。そして、女性主導のアマテュアリズムに基づき、個人資源(いくばくかのお金、知恵、労力、時間)の活用をはかって、女性の地位向上や市民事業支援、環境保全や地域福祉の活動に活かし、『共有の未来』への希望を見出します。」—1998年、私たちは「女性・市民コミュニティバンク(当時の名称は「女性・市民バンク」)の設立趣意書にこう掲げました。

 当時、バブルが崩壊し、金融機関や証券会社がつぶれ、耳を疑うような金融の不祥事が相次いでいました。預貯金の一部が環境破壊や人々の生活への悪影響を与える大規模開発や空港、ダム、河口堰の建設、干潟の埋め立て等に使われていること、また、米国の戦争継続の費用や軍需産業に投融資されている現状も明らかにされはじめていました。それまで、金融のプロにまかせきりにし預貯金の使い道みちに関心をはらってこなかった市民も反省しなくてはならない、と私や周囲の人々は感じたのです。

 一方、地域で女性たちが立ち上げた保育所や仕出し事業は資金面で苦労をしていました。持ち寄った資金では足りず、金融機関に申し込んでもことごとく断わられ、疑似私募債を発行し周囲の知人たちに購入してもらう事態が起きていました。「理解してくれる金融機関が欲しい」というのが女性たちの願いでした。
そこで、このまま二つを放置しないで自分たちが理想とする金融機関をつくりたいという思いが高まり、1998年に「女性・市民バンク設立準備会」を立ち上げました。金融機関としては非営利・相互扶助の小規模の金融機関である信用組合を目指すことにし、1口10万円を出してくれる賛同者の募集、当局と折衝など、認可取得の活動を開始しました。開始して分かったのは認可取得には多くのハードルがあり、時間がかかりそうだということです。そこで、考え付いたのが、日本人が昔から行ってきた市民同士の助け合いの金融である「講」や「無尽」です。「貸金業」登録すれば融資可能ということが分かり、同年8月に登録、12月から融資を開始しました。
 信用組合設立活動はデフレの進行もあり、10年経った2009年2月に一旦活動を休止して、現在は、現代版の「講」(現在は「NPOバンク」と呼ばれている)に特化した活動・事業を行っています。

■女性・市民コミュニティバンクの概要

 女性・市民コミュニティバンクのミッションは、非営利・相互扶助、女性を中心に、透明性の高い運営を通じて目に見えるお金の流れをつくり、地域経済の循環・発展に寄与すること、です。
 融資の原資は賛同してくれる人や団体からの出資金で1口10万円。出資金は法により元本は保証しません。また、現在は配当金もありません。それでも、「自分が出すお金が地域社会の役に立つのが嬉しい」という市民や団体によって、出資金額は2014年3月末現在、1億1,410万円になっています。
 融資制度は、対象は神奈川県内の市民事業など、融資期間は最長5年、最高融資限度額は1,000万円、原則元利均等月賦返済方式で、連帯保証人は3人以上等としています。

 1998年から現在までの融資件数は167件、5億5,446万円になりました。融資先はニュースレターで紹介しています。融資先は多岐にわたりますが、それぞれにドラマがあります。高齢者のデイサービスやグループホーム、高齢者のためのレストラン、地域の誰もが集うことができる居場所事業、保育園や病後児保育、保育者の派遣事業、若者の就労支援を目的にした仕出し事業、障がい児の放課後デイサービス事業、アジアの女性たちの自立支援を目的にしたリユース・リサイクルショップ事業、安全な食材を利用したレストラン等の立上げ資金、生協の低温殺菌牛乳の運搬車両の購入資金、化学物質過敏症患者が一時避難して生活するための施設の土地購入資金等など。こんな融資制度が欲しいという出資者の要望を検討し、太陽光発電の設置費用や、教育資金の融資制度も作られました。女性・市民コミュニティバンクの融資によって事業が立ち上がり、働く場が生まれ、地域社会が元気になる、地域の人々のお金が循環しています。

 融資審査は、理事長や事務局による面談や提出された書類の点検、制度や現地の調査、ヒヤリングを経て、5人の融資審査委員会によって行っています。メンバーは、福祉や会計の専門家、元市議会議員、中間支援組織の中枢を担っている人などですが、いずれも市民事業に関わってきた「市民事業の目利き」です。審査のポイントは、地域社会への貢献、起業の意志、環境への負荷、市場調査の有無、周囲の支援者、役員の構成、正直さ、民主的な運営、資本金の構成などですが、最も重視しているのは事業の採算性・継続性です。
 これまでのところ、貸倒れも延滞も1件も発生していません。これは、テマ・ヒマをかけた審査と、借入人の女性・市民コミュニティバンクのへの深い共感によるものと考えています。

■課題

 女性・市民コミュニティバンクのような市民が資金を出し合い、非営利で地域社会や福祉、環境保全のための融資を行っているNPOバンクは、現在、全国でおおよそ20団体になりました。新規であっても、10年を経たNPOバンクでも、共通の課題は運営経費です。また、いわゆるテクニカルアシスタンス(事業活動の状態の把握、必要な相談、情報提供、助言、援助、返済能力の調査、専門家の派遣等)があまりできていないことも同様です。さらに、主に貸金業によって事業を行っているNPOバンクでは、改正貸金業法で事業所ごとに配置が義務付けられた貸金業務取扱主任者(国家資格)をNPOバンクも配置しなくてはなりません。しかし、その内容はNPOバンクには不必要と思える知識が多く求められていると感じています。また貸金業界の金融ADR(金融分野における裁判外紛争解決制度)への加入義務と毎年の高額な年会費は経費を圧迫していますし、そもそもテマ・ヒマかけて融資しているNPOバンクにとっては必要とは思われません。以上から貸金業法はNPOバンクの実態にはそぐわない、と感じています。また、生活困難者等への融資と生活再建の伴走支援を行っているNPOバンクは、近年、融資対象者が増え、融資資金は不足気味になり、他のNPOバンクから出資や融資を受けているのが現状です。より安定的、低利の資金調達が求められています。

 これらの課題の解決のためには、貸金業法ではなく、NPOバンクに相応しい法律が必要と考え、「社会的(非営利)金融事業法(仮)」をNPOバンクメンバー、学者、公認会計士、中間支援組織の関係者等で検討しました。この法の柱は二つ、NPOバンクのような社会的(非営利)金融事業者への財政・税制の支援と、仮認定を受けることで貸金業登録等をしなくても融資を行うことを可能とすることからなっています。財政支援内容としては、融資にかかる費用や運営等にかかる費用の補助、 テクニカルアシスタンスにかかる費用の補助など、税制措置としては、出資減税、寄付税制等をあげています。欧米では、CDFI(コミュニティ開発金融機関)は社会に必要な存在として、政府が助成や投資減税などさまざまな方法で支援を行い、実績をつくってきました。日本でも、お金を通じた街づくりを行っているNPOバンクへの支援の政策・制度化を期待するものです。


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