【コラム】日中の不理解に挑む(17)

子どもの貧困

棚田 由紀子


 中国といえば、大金持ちが投資目的で不動産を次々と購入する姿や、観光で大挙して来日した人々がブランド品や家電を買い漁る「爆買い」が大々的にニュースで報道されているので、中国では皆がリッチになっているような錯覚に陥る。日本で報道されているニュースにだけ接していると、それが間違った認識であることになかなか気付かない。日本からは見えにくい中国の姿を少しでも紹介したいと思っている最中、衝撃的な事件が発生した。

 日本の新聞でも報道されていたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれないが、6月9日に貴州省畢節市の茨竹村で起きた、4兄妹が農薬で服毒自殺を図って死亡するという痛ましい事件だ。2012年11月にも同じ畢節市で5人の男の子が暖を取るためにゴミ箱に火を放ち、一酸化炭素中毒で亡くなっている。どちらも、両親が都会に働きに出て農村に残っている子ども、いわゆる「留守児童」だ。

 毎月の翻訳記事を選定する際に閲覧するサイトでは、ここ半年ほど留守児童や流動児童(農村から出稼ぎで都会に出てきた両親と一緒に住む子ども)の記事が倍増している。月によっては8割〜9割がこのような児童に関する記事で埋まっていることもあった。一説によると、留守児童と流動児童は7000万人を超えているという。中国で深刻な問題になっていると感じてはいたが、自死を選ぶほど追い込まれている子どもがいるとは思ってもみなかった。

 サイトの記事によると、最低生活保障制度により幾らかの保障金や援助物資は受け取っていたようだが、両親の不仲により母親は家出、父親は出稼ぎで家には保護者が居らず、親の愛情を受けないまま15歳の長男を筆頭に子ども達だけで生活しなければならない状況が、このような事態を引き起こした、今後はこのような留守児童に対しソーシャルワーカーなどの福祉要員がメンタルケア等のサポートを行うよう法と体制を整えていく、という。2020年の全面的な小康社会(ややゆとりのある社会)の実現という目標と合わせて、是非とも整えていってほしい。これ以上、不幸な子どもを増やしてはならない。

 日本も対岸の火事ではない。「子どもの貧困対策法」ができたとはいえ「貧困」な状態に置かれた子どもは6人に1人に及んでいる。見えにくいだけで確実に存在する問題だ。子どもの貧困といえば、親が悪い、親が怠けているから、だらしないからそうなる、と思われがちだが、病気やリストラ、DV等、予期せぬ出来事がきっかけで貧困に陥る場合も多い。貧困に陥っていることを様々な理由で周りに隠している人も多く、結局誰にも気付かれない。そして、気付かれないまま貧困が連鎖していく。報道されていないだけで、実は日本でも貧困から抜け出すために近い将来死を選ぶことを胸に秘めながら生活している子どもがいるんじゃないかと、不安にさえなってしまう。少子高齢化で子どもの数が減り、子どもに関心を寄せる大人の数が減っているだけに尚更だ。

 親を選んで生まれて来られない子どもに罪はない。どのような社会体制の国家であれ、すべての市民が均しく平等な扱いを受けられる完璧なシステムの実現は不可能に近い。格差を完全になくすことはできないが、格差を広げないようにする仕組みの構築は不可能ではない。

 (筆者はCSネット事務局)

※この記事は日中市民社会ネットワーク(CSネット)メルマガ日本語版7月号から著者の許諾を得て転載したものです。


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