子供はやはり二人のほうがいい?

中国単信(4)

子供はやはり二人のほうがいい?                                       趙 方任


 中国で改革開放政策が本格的に始まったのと連動するように実施されたのが「計画生育政策」、通称「一人っ子政策」で1979年のことだった。
ところが、昨年末の2013年12月28日、全国人民代表大会常務委員会は「一人っ子政策」の緩和を打ち出し、都市部の夫婦の場合、いずれかが一人っ子であれば2人目の子どもを持つことを認めた。国の重要政策であるだけに、国内外のメディアが一斉に取り上げたのは言うまでもなく、日本でも大きく報道されていた。
一方、中国国民の反応はといえば、おしなべて冷静そのものであった。なぜなのか?
政府がここにきて緩和政策に転換したのは、今後、教育、医療、雇用などへの影響がそれほど大きくないと判断したからであるが、国民の目線で今回の「緩和」を見ると、少し様子が異なってくる。
 その一:不動産
 日本でもよく言われるが、不動産購入融資ローンは対年収比の5~8倍までが妥当と見られている。ところが中国の不動産は高騰するばかりで、融資額も上述の数字の3倍以上にもなっている。数値から言えば、中国ではすでに不動産バブル崩壊水域に達していて、事実「バブル崩壊」が始まった地域も出てきている。だが市場全体としては、依然として「好景況感」が支配している。
 なぜ中国事情は世界常識に当てはまらないのか? さまざまな要素が絡んでいるのだが、この不動産事情には「一人っ子政策」も関わっている。
①「一人っ子政策」で中国の人口は逆ピラミッド型になり、経済的に余裕のある親が新居購入を希望する若年夫婦数より2倍以上となっている。
②したがって若年夫婦が新居を購入する場合、親の経済援助は当然となっている。
③不動産関係の賃貸、貸借に関わる概念が薄弱で、法整備やシステムが整えられていない。
 このように中国不動産の「景気」を支えている要因の一つは、「親」の資金であることがわかる。しかもそう遠くない将来、「一人っ子」世代の祖父母、あるいは親世代の「死」で大量の空き部屋が発生することが予想される。その際、日本のように不動産相続での面倒な手続きや税金の問題が少ない。
 つまり「二人っ子政策」への転換は、中国不動産そのものの延命策になる可能性がある。
 その二:老後
 「一人っ子政策」は人口抑制が目的であるため、この政策実施当初は、男児こそ家系の継承者であり、家系が絶たれるという危機感から「自分の世代で家系を絶ってしまって、ご先祖さまに会わせる顔がない」と涙で顔を洗う老人(初代一人っ子の祖父母)がかなりの数に昇っていた。そのため罰金を支払っても2人目を作ったり、敢えて戸籍なしの子を作るという違反者もあとを絶たなかった。しかし、現在では「家系が絶たれる」恐れより、「個人の自由」を重んじる意識の変化によって、違反者の数は減る一方である。
 そしてもう一つの危機感が「老後への心配」であった。中国ではこれまで、老後は家族、つまり「子をしっかり育てて(やはり男児という意識が強い)老後に備える」という意識が根強かった。しかし、1992年からの社会保険制度の改革は年金保険、医療保険、失業保険、労災保険などが整備され始めてからは、特に都市部では「親は私が面倒を見る。私の老後は保険に頼る」という意識に変化し、定着し始めている。子は多ければ多いほど良いという考えは、薄弱となり、保険への関心が格段に高まってきている。
 その三:人権
 「一人っ子政策」の緩和で、強制中絶数が確実に減少して、「人権改善が期待できる」と一部の外国メディアが報道していたが、もう一つの「人権改善」も期待できるかもしれない。
 それは「一人っ子政策」への違反者には罰則が課せられるのだが、地域によって異なり、強制中絶を命ずるかと思えば、勤務先も同罪とする地域もあった。だが最も多いのは罰金で、日本円で数十万円から数百万円、なかには一千万円を超えるケースもあった。
 要するに二人目でも、三人目でも金次第というわけで、子どもの生存権を金で買うのかと、人権無視を指摘する声が強かったのだが、それが解消される糸口が見つかったと言える。
 その四:意識の変革
 「一人っ子政策」は〝小皇帝〟という言葉に象徴されるように、子どもが一人だけのために夫婦2人と祖父母4人、合わせて6人の期待が一身に注がれるようになってしまった。それは過剰愛護、溺愛となり、わがままで自己中心的な子どもが増加し、社会問題にまでなってきていた。
 自分は耐乏生活に甘んじて、子供を贅沢させる親もいれば、借金してでも子供を留学させる親もいる。自分の趣味や時間をすべて子供の習い事に注ぐ親までいて、子供こそ家庭の中心で、まさに〝小皇帝〟にほかならない。
 自分の人生を子どもに託している多くの親は、自覚のないまま、いつしか「一人っ子政策」の被害者になっていたのではないだろうか。なぜなら彼ら自身の人生を見失ってしまっていたからである。
 「一人っ子政策」の緩和は、ひょっとすると親たちが自分なりの人生を取り戻せることになるかもしれない。
 どうやら今回の「二人っ子政策」への転換は、中国庶民にとって悪い政策転換ではないが、そうかといって大歓迎というほどでもなさそうである。34年間という時間の経過は、中国人の生活や意識に大きな変化を生み出した証左だろう。今回のテーマに限って言えば、「家族」から「個人」へ、「しがらみ」から「自由」へと、その価値観の変化こそが「一人っ子政策」緩和に対する中国庶民の反応の主たる要因のように見受けられる。
 ただし、こうした中国庶民の反応で中国の来るべき社会がよいのかどうか、それは今のところ誰も答えを見いだせない。
         (筆者は大妻女子大学助教授)


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