【オルタ広場の視点】

安倍人事から「総裁4選」の可能性を読む

羽原 清雅


 安倍晋三政権は7月の参院選を受けて、9月11日に内閣、自民党の人事を決めた。
 人事は重要だが、今後の政局を考えると、安倍自民党総裁の「4選」、つまりこの政権が4選を受け入れる党則改正を果たし、1~3年程度のプラスアルファの期間を握るかどうか、という点も見逃せない。あるいは、その前に退陣する可能性も否定できない。
 9月11日の記者会見で、4選の旗を振ってきた二階幹事長は「そういう(安倍首相が)ご決意を固められた時は党をあげて支援したい」と、安倍次第との意向を示した。これまでの二階は、周囲からの4選推進の構えだったが、ご本人次第のように変化したとも受取れる。微妙である。
 安倍政権は、在任中の国政選挙を6戦全勝して、「一強政治」を進めてきた。多くの構造的な問題を露呈している小選挙区制をベースに、歴史を右寄りにカーブを切り続けているのだが、この方向がどうなるのだろうか。
 仮に3選まででの退陣、あるいは任期途中での花道引退があったとするなら、そのあとの政治の流れは変わるのか、あるいはそのまま継続されるのか。
 この参院選後の人事は意味深長である。岸信介から池田勇人へ、佐藤栄作から田中角栄へ、など人材のカラーを換えながら、保守政治は政治姿勢や政策転換などに大きな変容を見せながら、延命を果たしてきた。

 今回の人事は、首相によれば「安定と挑戦の布陣」だという。だが、表に出た人事を見る限り、主要ポストの人物を変えない「安定」がやたらに目立ち、新たな改革への着手や、改まることのない惰性政策への「挑戦」の気配は見えてこない。安倍政治の単なる「継続第一」の構えではあるまいか。
 さしたる成果のなかった桂太郎政権の在任期間を超えるほどに長期化する安倍政権だが、国民の生活や経済の行方、対外関係は決して順調ではない。弱体ぶりから抜け出す気配のない野党と、「一強」構造化した国会のもと、日本の針路はどうなるのか。
 こんどの人事から、安倍政権とその後を考えてみたい。

「お仲間」による「安定」 安倍首相は今度の人事を「安定と挑戦の布陣」と述べたが、「安定」第一、「挑戦」は口先ばかり、の印象だ。

【政権】
  留 任  麻生太郎 副総理・財務相、菅義偉 官房長官
  横滑り  河野太郎 防衛相(前外相)、茂木敏充 外相(前経済再生相)
  再起用  加藤勝信 厚労相(前党総務会長)、高市早苗 総務相(前党政調会長)
  子飼い  萩生田光一 文科相、西村康稔 経済再生相、加藤勝信、
       世耕弘成 党参院幹事長、下村博文 党選対委員長 
         <いずれも安倍政権の官房副長官出身>
       衛藤晟一 一億総活躍相、河井克行 法相、江藤拓 農水相、
       柴山昌彦(前文科相)、宮越光寛(前一億総活躍相)
         <いずれも安倍政権の内閣補佐官> 
  情 系  菅原一秀 経産相、河井克行  <ともに菅人脈>
  公明党  赤羽一嘉 国交相  <首相に近い、同期生>
  日本会議幹部  安倍晋三、麻生太郎、菅義偉、荻生田光一、衛藤晟一、下村博文、
       高市早苗、江藤拓、橋本聖子 五輪相、岩屋毅(前防衛相)、
       稲田朋美 党幹事長代行など
【自民党】
  留 任  二階俊博 幹事長、岸田文雄 政調会長
  横滑り  鈴木俊一 総務会長(前五輪相)、稲田朋美 幹事長代行(前副幹事長)、
       世耕弘成 参院幹事長(前経産相)、
       下村博文 選対委員長(改憲推進本部長)
  情 系  鈴木俊一  <麻生人脈/父善幸は池田宏池会大幹部ながら俊一は麻生派へ>

 安倍首相の言う「安定」の内実は、いろいろな考えを持つ「お友達」というよりも、思考的一致のある「仲間」によって足場を固めた政権、というべきだろう。そこに強固な「一強体制」を作り上げ、国会の論戦で正面からの発言をせずに、言葉だけで逃げる風潮を培うことになる。
 もっとも、個々の政治家の身辺調査が難しくなるなかで、若い政治家を内閣周辺に配して、その言動や能力、人柄などを見るには便利である。だが、それが「仲間」という狭い範囲からの起用となり、安倍首相のメガネにかなう人物に絞られてくるところに問題がある。議論を戦わせて、視野を広げるよりも、従順、盲従型になり、政権内部が狭隘な思考になり、しかもその仲間によるポジションの持ち回りになるところに、長期政権の退廃の素地がある。
 だが、それでも気心の知れた狭い人事を繰り返すことで、政権の「安定」を図る。
 権力維持のうえでは、うまい手法であるにしても、そのマイナス面は政策の遂行や改革、広範な長期戦略などの各面に表れ、国民の生活に響く。しかも、長期政権であるからこそ、そのマイナスのもたらす結果は大きくなる。

「挑戦」はいずこに では、もうひとつの「挑戦」という課題はどうか。
 あえていうなら、環境相起用の小泉進次郎のみだろう。父純一郎から引き継ぐとともに、本人独自の人気があり、しかも滝川クリステルとの突発結婚など、その弁舌のウマさと目立つパフォーマンスも加わって、将来の首相候補とも言われる。したがって、サプライズ人事として、騒がれるのも、わからないではない。ただ、安倍首相が小泉純一郎政権のもとで官房副長官、幹事長とピックアップされたことへの答礼、と見ることもできる。だが、首相にはなれず、幹事長に終わった河野洋平を継ぎ、個性的な河野太郎は、外相就任以前はかなり自由な発言をしていたが、入閣以来、次第に安倍カラーに染まり、日韓関係などでは歴史感覚すら消してしまった。この事例から見て、小泉人事についても軽薄に騒がず、見定めていかなければなるまい。ミーハー的に踊らないよう、また安倍政権内部からの改革努力が出てくるなら、期待をつなぎたい。

 では、ほかに「挑戦」にふさわしい人材はいるだろうか。
 公明党からも含めて初入閣13人を見て、表面的に見えていたのは橋本聖子くらい。あとは日本会議や安倍側近といった話題で知られた程度。なにが、どこが「挑戦」の要素かは見えてこない。初入閣では、各省務の勉強や国会答弁に追われ、既成の壁を破ることは容易ではない。70歳代6人のうち、麻生、菅を除くと4人が初入閣。高齢者に「挑戦」の力量がないとは思わないが、かなりの努力が必要だろう。注目しておきたい。

 また、「挑戦」の布陣とうたうものの、安倍政権は内閣人事局の強大な人事的差配のもとに、官僚群が国家的政策の立案や遂行を二の次とし、首相官邸の意向になびいていく風潮に対して、実際に挑戦するような度胸や迫力が持てるのだろうか。
 ここに、安倍政権の人材育成の取り組みには、疑問が持たれるところだ。

政権の「安定」から見えるもの 「安定」に力を入れる安倍政権だが、その前提として、揺るがない小選挙区制度と、その仕組みによる「一強」体制、少数分裂野党のもろさがある。そ
れでいて、なお「挑戦」よりも「安定」を求めている。
 安倍首相の任期は、2021年9月まで、2年近くもある。そのあと、党則改正が可能なら、さらにプラスアルファの任期延長がある。とすれば、ここまで「安定」策をとる必要があったのか。

 そこに、政権の将来の三つの見方が生まれる。
 ① 任期満了の退陣 ひとつは、在任期間(2021年9月)を全うしての退陣、という見方。このケースはごく一般的な見方で、説明するまでもあるまい。

 ② 任期満了の退陣 もうひとつは、2020年9月、東京オリンピック、パラリンピックを無事に終わらせることを花道として、突然に退陣を打ち出す可能性だ。この選択肢の見方は、自民党内では口には出しにくいが、意外に根強いのだ。
 この②の見方の背景について、整理してみよう。
 A>安倍首相が、周辺に「疲れた」と漏らしたこと。
 B>東京五輪の成功、佐藤栄作首相を超える歴代1位の在任期間、「令和」に伴う皇室のスタートなど、花道が開けること。
 C>一方でマイナス面では、オリンピック後にやってくる景気の後退が始まる、その責任をかわす好機になる。また、この年11月にトランプ米大統領の再選となれば、不況の中で軍事や貿易などで過大な要求に直面する可能性があり、この重荷を避けられること。

 ③ 4選への挑戦 安倍総裁4選を許容する二階幹事長の留任は、党則を改正して4選への道を開くための布石、とも見える。身内型の安定策の人事を示し、高齢の二階幹事長の留任を敢えて認めたのも、その一環の措置とも受け取れよう。
 この選択がひとつの可能性だ。ただ、これには党則改正が必要であるとともに、総裁任期切れとほぼ同じころに任期の終わる衆院議員の選挙を勝って実績を積んでおく必要がある。「長期に過ぎる」との批判も出て来よう。だが、オリンピック前後までの衆院解散には、政治日程が多忙で時間的に制約があって、難関も待ち受けている。

 A> 2019年は、10月1日の消費増税とその混乱や不評が待ち受ける。11月15日は皇室での大嘗祭。12月は隣時国会、翌20年1月の通常国会があり、その頃には増税後の経済統計が出て、選挙は回避したいところ。3、4月の予算成立が成ると、4月の秋篠宮の立皇嗣の礼があり、この時期には皇位継承の論議が高まっていて政治的混乱は避けたいし、習近平の訪日もあって、選挙どころではない。6月には、医療関係の社会保障改革をまとめ、骨太2020計画を打ち出す予定ながら、負担増の内容は選挙向きではない。そして7月、オリンピックの開幕を迎える。

 B> オリンピック、パラリンピックが終わると、経済の失速が懸念され、選挙どころではない。11月には米大統領選があり、トランプ再選が成るとしても、日本に対してこれまで以上に強気に迫ってくることが予想される。21年に入ると、1~4月は予算国会。7月は東京都議選だが、これに負けることは公明党とともに自民党政治に打撃となる。そして9月に安倍総裁の任期切れ、10月には衆院議員の任期切れが待ち受ける。

 C> もし4選への道を開くとすれば、20年か21年の3月の自民党大会での党則改正が必要になる。ということは、それまでに衆院選を実施して、国政選挙7戦勝利の実績を見せるか、改正後に勝利の結果を出さなければなるまい。

 D> それでは、衆院選を行うタイミングはあるか。年内なら12月から翌1月にかけて。20年になると、オリ・パラ終了までは無理で、これを済ませた9~10月か。あるいは12月~翌1月、または予算成立後の4月。もちろん、党則改正で在任期間のプラスアルファの余地を決めておかなければならない。というように、安倍4選への道は決して容易ではない。

後継と課題 ところで、いつのことになるにしても、安倍後継の人事はどうなるのだろうか。昨今浮上してきた菅義偉か。禅譲期待の岸田文雄か。あるいは、今度の人事で追放状態になった石破茂の巻返しか。あるいは、加藤勝信、茂木敏充ら、予想外の人物がありうるのか。
 官僚群に恐れを与え、力量を発揮する菅には、暗さ、陰での動き、選挙不向き、のイメージがある。宏池会の流れを組む岸田は、政策通で、人柄はいいとしても、ひ弱な印象があり、また安倍院政の傀儡になりかねない危惧もささやかれる。石破は終わった、との見方は強まるだろう。
 このような人材難のなか、今の時点では、安倍首相の引退後も、日本会議的な姿勢は変わらず、右寄り路線の継続を陰に陽に工作する可能性が高い。
 かつての、岸から池田、佐藤から田中、といった政権交代による政治のイメージチェンジは起こりそうもない。

 安倍政権下での改憲論議は、これからどうなるのか。国会での与野党協議、自民党提示の自衛隊表記などの4項目論議の継続か再協議か、国民投票に向けての改憲可否のコマーシャルの扱いなど、そう簡単には進みそうにない。安倍政権は強行するのか。あるいは、次期以降の政権にゆだねるのか。この問題は、表立って論議することになるか、くすぶるままで推移するのか、見通しは立たない。

 次の政権の登場までにはまだまだ、課題が待ち受ける。なにを、どう考えて、政治を動かすのか。野党に期待できないことで、権力者は一層の重荷を負う。
 日韓の抜き差しならない愚かな衝突、領土を手放さないロシアに接近策をとり続ける行き詰まり、米国の振りまいた「自国ファースト」の進む各国事情、日本の米国傾斜にあおりを受けかねない日中関係など、行き詰った外交の世界。
 人口減・高齢化に伴う福祉や年金対応、老朽化する鉄道、道路、橋梁、ライフラインなどの再生維持、研究費抑制による国際水準低下の学術研究面の対応、国家財政のなかで膨張する赤字政策、防衛という名目の軍事強化と予算の投入、など、長期展望を描こうとしない短視的な日本の政治をどのように転換を図っていくか。

 安倍政治の修正、そして新たな挑戦を導く政治は、現状の政情を冷静、かつ長期的に見直し、島国日本としての外交と安全保障の論議を深めることから、もう一度試みることが必要だろう。改憲すればなんとかなる、というものではない。

 (元朝日新聞政治部長)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧