庄内FEC自給ネットワーク

【社会運動】

庄内FEC自給ネットワーク

「共生経済」を地域で回す!

生産者と生活クラブの提携による新たな構想

白井 和宏

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 山形県庄内地方の生産者と生活クラブ生協との提携の歴史は長い。
 そして今、約半世紀の時間を踏まえて、次なる時代が到来している。
 それが「庄内FEC自給ネットワーク」の時代だ。
 F(食料)の領域では、地域内資源循環の試みが開始され、E(エネルギー) 分野では、太陽光発電事業が遊佐町で行われようとしている。
 さらにC(福祉)では、酒田市で計画が進む「日本型CCRC構想」がある。
 このダイナミックに展開する「地域再生」プロジェクトをレポートする。
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◆◆ 「地方消滅」の時代に生まれた「地域再生」のための新たな構想

 「庄内FEC自給ネットワーク」は、山形県庄内地方の人びとが模索する「地域づくり」と、生活クラブ生協が掲げるビジョンとが連動したことで生まれ、動き出した構想だ。庄内地方は、庄内平野を中心とした日本海沿岸の地域だ。大きな都市として酒田市と鶴岡市がある。約30万人が暮らすこの地域でも、多くの地方と同じく「人口減少」は大きな問題となっている。その状況を打開すべく、現在さまざまな分野で「地域づくり」が考えられている。

 一方、生活クラブ連合会は「第6次連合事業中期計画」(2015~19年)の中で、「FEC自給ネットワーク構想」を決定した。これは日本の生協運動の将来を見据えた大きな方針だった。生協、農協、漁協などの協同組合運動は、「共益性」を基盤にして問題を解決していく組織だ。言い換えれば、「一人の人間では不可能なことも、多くの人びとが力を出し合うことで共通の利益を実現できる」という原理に基づき、様々な事業を行ってきたのである。しかし90年代の半ば頃から、その方法論だけでは問題解決できないことも多くなってきた。その原因は何か。端的に言えば、多国籍企業によるグローバリゼーションの席巻である。

 経済評論家の内橋克人さんは、現代社会を指して、世界は二つのセクター(領域)に分かれていると指摘する。「競争セクター」と「共生セクター」だ。競争セクターの原理は、「分断・対立・競争」というグローバル経済の論理で成り立っているが、共生セクターの原理は「連帯・参加・協働」である。「2012国際協同組合年・日本実行委員会」の代表も務めた内橋さんは、「共生セクターに属する協同組合は、当然、共生経済の実現をめざすべきである」と説いた。内橋さんが描く「共生経済」とは、「F(食料)、E(エネルギー)、C(福祉)の自給圏」を人間の生存権として追求していく経済である。「FECを基幹産業として発展させ、地域社会で経済を回していくことで、競争セクターと対抗していこう」と呼びかけたのである。

 こうした思想を背景に、生活クラブが提唱したのが「FEC自給ネットワーク構想」だった。生活クラブでは、この構想を推進するため四つの主要な提携産地に「産地協議会」の設置を提案した。長野県、栃木県、宮城県、山形県である。この提案を受けた山形の庄内で、2015年5月に発足したのが「庄内協議会(現在は準備会段階)」であり、こうして「庄内FEC自給ネットワーク構想」が具体的に動き出した。

◆◆ 庄内の生産者と生活クラブとの長く豊かな提携の歴史

 生活クラブにとって庄内地方は、米、豚肉、農産物・加工品などを生産・供給する重要な食料基地だ。この地域の生産者と生活クラブとの提携の歴史は45年以上も前の1970年にさかのぼる。

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   1983年8月に行われた「生活クラブ庄内交流10周年のつどい」の様子

 1960年代末から70年代にかけて日本では、米の生産体制を大きく揺さぶる出来事が起きていた。68年、日本で初めて米の生産過剰が社会問題になったのである。一般的には生産が過剰になれば、生産者の収入は大きく減少する。そこで政府は農家から米を買い入れることで価格を支えていたが、69年、初めて減反政策を打ち出し、米作農家に作付面積の削減、すなわち生産量の減少を要求した。これに反発した庄内地域の米生産者が、70年に、直接、東京の消費者に米を売ろうと上京。しかしトラックに米を積んで、いきなり消費者に販売しようとしてもうまくはいかない。途方にくれていた生産者が出会ったのが、当時東京で活動していた生活クラブだった。
 この出会いを縁にして、生活クラブは庄内地方の「遊佐町農協」(現在の「JA庄内みどり」)と産直を開始した。この提携活動が発展し、庄内の生産者同士の結びつきも強まった。(株)平田牧場の代表取締役社長である新田嘉七さんに、お話を伺った。

 「地域の生産者同士の連携はいろいろありますが、社会的にインパクトをもった共同作業の成果の一つは、生活クラブと私たち庄内の生産者が共に育てた『こめ育ち豚』でしょう。2008年くらいからでしょうか。飼料用米で育てた、安全で安心できる豚肉として全国から熱い視線が注がれるようになりました」酒田市にある平田牧場は、現社長の新田さんの父親で現会長を務める新田嘉一さんが起こした会社だ。特徴は、豚の繁殖から肥育までの一貫経営、さらには流通・販売まで手がけているところ。現在は「平牧三元豚」などで全国的に知られた企業になっている。

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   平田牧場の代表取締役社長、新田嘉七さん(写真:魚本勝之 以下同)

 庄内で飼料用米の栽培が始まったのは90年代中頃のこと。2004年に、政府は規制緩和の一環として「食料自給特区」に遊佐町を認定、企業や法人も農業に参入することができるようになった。08年には、飼料用米の収穫量が増え、平田牧場の全農場で飼料用米が給餌されるようになった。「一番大事なのは健康な豚を育てること。危険性を指摘されるような飼料を使うわけにはいきません。そう考えて肥育を行ってきましたが、日本の畜産における課題は、飼料のほとんどを輸入に依存していることです。そこで考えたのが、顔が見える地元農家の飼料用米を使うことでした」(新田嘉七さん)これはFEC自給ネットワーク構想が提起される前の事例だが、このネットワークの目的がすでに実現されつつあると言えよう。

 庄内地方の生産者と生活クラブとの関係は45年の間に、その内容も拡大・進化してきた。「山形親生会」(親生会とは生活クラブで扱う品物を作る生産者の自主的組織。山形県内では加盟13団体)を中心とする提携生産者と生活クラブ連合会との取引高は80億円を超える。しかし生活クラブは生産者との関係性をさらに発展させようと考えている。生活クラブ連合会理事の伊藤由理子さんはこう語る。

 「私たちは、生活クラブと生産者との提携関係が新たなステージに入ったと考えています。生活クラブが誕生したのは1965年、すでに50年が過ぎました。設立当初に加入した組合員も高齢になっています。当時とは生活スタイルも時代の価値観も変化している。生産者もそうです。生活クラブと提携して、新たな消費材(生活クラブで扱う品物)を開発した人たちも引退し、次の代に交代している生産者も増えています。時代は変わり、生活クラブと生産者との関係性も、新たな時代状況や関わってきた人びとのライフステージの変化に対応した次の段階へと飛躍する必要があると思うのです。

 生活クラブは、首都圏を中心に発展してきた生協です。都市では高齢者福祉や子育て支援など様々なテーマで『地域づくり』を行ってきましたが、生産地では行ってきませんでした。もちろん、生産者が地域で実践している事業を、私たちも支援してきた例はいくつもあります。ですが、『地域づくり』のビジョンの下に、そうした事業をさらに積極的に推進することは今までありませんでした。半世紀が過ぎ、次なる時代が到来したということです」

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   生活クラブ連合会理事、伊藤由理子さん

 その新たな時代に掲げたのが、FEC自給ネットワークなのだ。多国籍企業が世界のマーケットを支配する中、地域の疲弊は進む一方だ。地方では人口減少とともに、農家の高齢化と減少が大きな問題となっている。生活クラブの主要産地である庄内地方でさえ、将来、生産・出荷量が減少しないとも限らない。地方の地域再生は、生産者・消費者、双方にとって、取り組むべき重要課題なのである。

◆◆ Food[食料]の領域─地域内資源循環の試み

 庄内でFEC自給ネットワークがどのように動きだしているのか、F(食料)の領域から見ていくことにしよう。平田牧場の新田さんは生産者同士の様々な連携を語る。

 「庄内の地域内における様々な資源循環の仕組みづくりは、歴史もあり、かなりの水準に達していると思います。例えば、飼料用米の養豚への活用にとどまらず、糞尿や農産物の廃棄物を堆肥化して農家に使ってもらう。あるいは農家が加工用米や大豆などの原料を生産して地元の加工業者に供給する。廃食油を使用したバイオディーゼル燃料の生産なども行っています。
 将来は、庄内特産の総菜や調理品を製造する事業などを地域全体で考えて、生産者が共同で参加・運営できるような方法も考えなければいけないと思っています」

 庄内地方における食料生産力は高く、国内でも優れた産地であることは一般的にも認知されている。米をはじめとして、農産物、果実類、海産物など豊富な生産力をどう生かすのかが、庄内協議会(準備会)の大きな課題だ。生産者が連携して、生産・加工・製造・販売・配食などを一元的に管轄する事業体を作り出すことも構想中だと言う。ただし気になるのは、生産者の高齢化と後継者不足の問題だ。たとえばJA庄内みどりには、現在どのくらいの組合員がいるのだろうか。遊佐営農課の課長の那須耕司さんが答えてくれた。

 「生活クラブと一緒に開発した米を作る生産者は少し前まで500人弱でしたが、ここ数年で450人を割っています。その背景には、地域全体の『人口減少』という問題があります。遊佐町の人口は、2016年7月現在で約1万5,000人ですが、このままでは2040年には7,500人程度になってしまうと予測する見方もあります」

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   JA庄内みどり遊佐営農課・課長、那須耕司さん

 ここで庄内の「人口減少」問題に触れてみる。2014年5月、「日本創成会議」(日本生産性本部が発足させた民間の会議体)が出した人口予測が話題になった。日本の自治体の半数近くにあたる896市町村が2040年には自治体機能がなくなってしまうというデータを示したのである。この予測によれば、20~39歳の女性人口が、この30年間で半数未満に減少してしまう市町村は、将来子どもが減少し、自治体としては消滅するかもしれないと指摘し、「消滅市町村」と呼んでいる。庄内地方は、酒田市、鶴岡市、庄内町、三川町、そして遊佐町の市町村から成り立っているが、すべてが「消滅市町村」になると予測されているのだ。
 JA庄内みどりでは「農業人口の減少」にどう対処しているのだろうか。那須さんは次のように語る。

 「私たちが実施している対策の一つが生産構造改革です。遊佐町では今年1月に三つの農業生産法人が生まれました。法人の規模は50人から100人くらい。協同で農業を行うことで、新たな後継者が生まれてくれればと思っています。今、農業生産法人で働いているのはほとんどが地元の農家ですが、都市から移住してくる人のことも考えています。IターンやUターンの人を応援する事業です。その一つが『チャレンジファーム』の仕組み。まずは1年間、農家で研修し、次の年から自立してもらうという支援策です」

 このように新たな農業経営の形を模索しているJA庄内みどりにとって、FEC自給ネットワークはどのような意味があるのだろうか。

 「正直な話、まだ始まったばかりです。それでも、このプロジェクトは将来、大きな意味を持つだろうと期待しています。2018年には、『農政大転換』が行われる予定です。国は、これまでのような米の生産調整から一切、手を引き、米の需給調整を市場に委ねるというのです。ですから今後は、これまで以上に消費者との提携を大切にしなければいけない。国が米の生産と価格に影響を発揮しなくなった時、FEC自給ネットワークは大きな意味を持ってくると思っています」

 国主導の生産調整がなくなり、さらにはTPP合意に基づく輸入米が増加すれば、日本の農業はいよいよ崖っぷちに立たされる。弱肉強食の市場に対抗するためには共生セクターの形成が必要であり、その具体化がFEC自給ネットワークなのである。

◆◆ Energy[エネルギー]の領域─遊佐町の太陽光発電事業

 次のE(エネルギー)の分野で、具体的に動き出しているのが、遊佐町内で進められている太陽光発電事業だ。生活クラブの伊藤さんは、その事業についてこう説明する。「そもそもは、この地域でJA全農が太陽光発電の事業化を検討したことに始まりますが、その後に縁もあって最終的に事業を具体化するにあたっては、遊佐町と長い提携関係のある生活クラブが引き継いだのです。建設場所は遊佐町の吉出地区。町役場から5キロメートル内陸側にある31ヘクタールの広大な土地に、太陽光パネルを設置し、発電所を管理運営する会社を庄内の生産者団体と生活クラブの共同出資で立ち上げようというプロジェクトです。建設費や操業開始時の運転資金などで約62億円が必要です。それでも2016年中に着工すれば、1kWh当たり36円で20年間、売電できます。稼動開始2年目から黒字化し、6年目には総資産が総負債を上回る計算です」

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   山形県遊佐町吉出地区にある太陽光発電所の予定地

 発電した電気は東北電力に売るとともに、「地域新電力」と呼ばれるエリア限定の電力小売会社を通じて「庄内協議会」(準備会)に参加している団体の事業や、福祉施設などで使用することを予定している。さらに将来は、庄内の自然環境や地域資源を生かして、小水力やバイオマスなどによって新たに再生可能ネルギーを作り出し、行政や大学機関との連携も計画している。
 ちなみに今回の太陽光発電事業は、生活クラブ総合エネルギー政策(脱原発・エネルギー自給・CO2削減を基本政策として策定された)で掲げる「つくる」、「使う」を具体化するものとして、その取り組みの意義を以下の七つの開発テーマに謳った。

①遊佐の太陽光を起点にした、庄内地域の「エネルギーの地域循環」づくりを進める。
②近い将来に、庄内エリアの再生可能エネルギーを地域住民に供給する「地域新電力」を視野に入れ、地域の他の電源との連携などの検討課題に取り組む。
③これらを「地域参加型」の取り組みとし、生産者団体や生活クラブ単協を超えて、農家個人や地元住民と生活クラブ組合員にまで直接参加(出資・融資)する層を広げて「お金の地域循環」をつくる。
 エネルギー事業を同時に、FEC自給ネットワークづくりのスタート事業に位置づけ、社会的価値をさらに高める取り組みをめざす。
④再生可能エネルギーを接着剤に、FEC構想の推進を通じて大勢の関係当事者の参加とそのネットワークを広げ、地域の活性化と持続可能な地域づくりに寄与する。
⑤庄内地域の自然資源(太陽、水、風、木等)は地域に帰属する=地域環境権[注1]という原理を電源開発・発電事業の中で具体的に表現していく。
⑥その一環として、再生可能エネルギー発電で出る剰余の一部を基金等に積み立て、地域の自治的なグループに支援する仕組み(農業、福祉、環境をテーマ)を検討する。
⑦関連する地域の行政施策(酒田市の日本版CCRC構想など:次章で紹介)と連携を図り、遊佐共同宣言[注2]との連動をさらに推進する。

 FEC自給ネットワークを強く意識した原則になっていることがわかる。年内には開始される建設予定地を案内してもらったが、実に広大な土地であることに驚いた。伊藤さんが言う。

 「これはかなり大きな投資ですが、電気は東北電力に毎日、確実に売ることができるので、着実な事業計画です。今後、考えなければならないのは、新設する電力会社に入って来るお金を地域に還元する工夫です。そのお金を有効に活用し、さらに新たな地域事業を立ち上げることで、庄内地方に循環型の経済システムが構築できればと期待しています」

[注1]再生可能エネルギー資源から生まれるエネルギーを市民共有の財産ととらえ、市民にはこれを優先的に活用して地域づくりをする権利があるという考えで、長野県飯田市が最初に提唱した。
[注2]2013年1月、遊佐町、JA庄内みどり、生活クラブの3者で締結した「地域農業と日本の食料を守り、持続可能な社会と地域を発展させる共同宣言」。

◆◆ Care[福祉]の領域─酒田市で進む「日本型CCRC構想」

 最後にC(福祉)分野での動きについて説明したい。その前提として、酒田市における人口の推移を見てみよう。酒田市の人口は1955年の12万8,273人をピークに減少している。2016年3月現在、10万6,195人。日本創成会議の推計によれば、今年、2016年あたりから急激な人口減少が進み、2040年では6万4,485人になるという。
 「人口減少」問題に酒田市がどんな対策を講じているのか。酒田市企画振興部の阿部勉さん(地方創生調整監)にお話を伺った。

 「酒田市では、2014年7月に人口減少問題対策本部を設置しました。その年の後半には、政府も、人口の維持を主眼とする『地方創生』に取り組み始めました。11月には『まち・ひと・しごと創生法』が成立し、12月末には、政府による人口減少対策の5カ年計画を示しました。これは補助金交付事業として、国が積極的に地方を支援するという方針です。酒田市でも5年間で新規の雇用を600人分作るとともに、さらに移住者として300人の方に、移り住んでいただく計画を立てました」

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   酒田市企画振興部、阿部勉さん

 新規就業者を増やすには、地域資源を生かした産業振興が必要だ。そこで酒田市としては、たとえば酒田港の貨物量を拡大させるために支援を強化していく予定だ。また移住者を増やすために、移住相談を受け付ける総合窓口を設置し、就職や住まいなどに関する問い合わせに対応している。
 移住相談員をしている企画振興部・政策推進課の加藤幸さんによれば、すでに成果が出ているとのこと。

 「2015年度の総合窓口での相談数は127件でした。ただし総合窓口だけでなく役所のいろいろな部署でも移住相談を受けているので、相談数は200件を超えていると思います。相談された方の内、19人の方が実際に移住することになりました」

 ちなみに、移住した人の多くは酒田市内の企業に就職し、農業に従事する人は少ないという。さらに酒田市は「日本版CCRC構想」を検討している。CCRCとは、「継続ケア付き定年退職者コミュニティ」を意味する英語「Continuing Care Retirement Community」の頭文字をとった言葉だ。アメリカでは、高齢者が、まだ元気なうちに、他の地域に移り住み、生涯学習や社会活動に参加できるコミュニティがある。さらに介護や医療が必要になると、医療や介護、生活支援サービスを受けられる仕組みだ。

 そうしたコミュニティを日本でも作ろうというのが「日本版CCRC構想」だ。日本創成会議でも、この日本版CCRC構想を積極的に地方で展開しようと考えており、酒田市でもそれに応えて実施を予定している。目標とする移住者300人の内、高齢者の移住を100人と想定してこの構想を検討している。
 企画調整部・政策推進課の五十嵐康達さん(地方創生推進係・調整主任)が酒田市における「日本版CCRC構想の取り組み」について解説してくれた。

 「酒田市議会では、2015年10月に策定した『酒田市まち・ひと・しごと総合戦略』の中で、この構想の実現の可能性を検討することを決定しました。大学や医療機関、多様な都市機能と雄大な自然環境等の地域資源を活用した構想の検討を進めていくこととしています。さらに2016年11月には、地方創生の実現に向けて、地元金融機関の荘内銀行と連携協定を結び、酒田市の情報発信拠点を、東京都武蔵野市吉祥寺に開設します。そこには、首都圏の人びとの移住の窓口になる情報センターのような機能を持たせたいと思っています」

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   左から企画振興部・政策推進課、加藤幸さん、企画調整部・政策推進課、五十嵐康達さん

 こうした酒田市の構想に対して、生活クラブも積極的な提携策を検討している。

 「組合員の意識調査をした結果、老後の住み替えをイメージしている人が一定数いることがわかりました。そこで、元気なうちに地方に移住し、気持ちよく働き、地域社会に貢献していく住み方を提案していこうと考えたわけです。ちょうどそこに、酒田市でも日本版CCRCを考えていることを知りました。庄内地方は生活クラブの組合員にとって、長年のお付き合いがある特別な地域です。45年の提携の歴史の中で、産地交流会などを通じて、延べ1万人もの組合員が庄内地方に来ています。日本創成会議が考えるCCRCではなく、都市と地方のコミュニティ同士の繋がりを相互に生かしあう市民版のCCRCをめざす良い機会だと考えたのです」(伊藤さん)。

 生活クラブには、「夢都里路(ゆとりろ)くらぶ」という組織もある。生活クラブに消費材を提供している提携産地や生産者の元に出向き、ボランティアで農業や漁業を応援する取り組みだ。後継者不足や人手が足りない産地に行って作業を手伝う活動や、農業を始めたい人のための就農研修などを実施。「生産への労働参画」を通じて地域社会の再生を支援している。こうした様々な活動を通して、組合員の中には庄内という地域に深い親しみをもっている人が多数存在する。庄内以外にも、日本版CCRC構想に沿って高齢者向けの介護事業を行っている地域や企業はいくつかあるが、庄内という地域との歴史を顧みると、生活クラブは特別な立場にあるといえよう。

 2016年8月から生活クラブは、移住者のコミュニティづくりをサポートする担当者を現地に派遣した。酒田で移住者が快適に暮らすためにはどのような工夫が必要なのか事前にリサーチするためである。たとえば、酒田市には東北公益文科大学という学校がある。この大学は庄内地方で唯一の4年制大学であり、地域経営(経営、政策、福祉系)を専門分野としているため、CCRCのプロジェクトと連携できそうなのだ。事前リサーチで想定しているのは、移住者が東北公益文科大学で社会人学生として勉強したり、またその反対に、自分の職歴を生かした授業を若い学生に行えるかどうかや、移住者自身に介護が必要になった場合の看護や介護のあり方の検討といったことだ。

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   酒田市にある東北公益文科大学のキャンパス

 以上、「庄内FEC自給ネットワーク」の柱となる事業を説明したが、それに加えて提携生産者の連携をさらに強化する組織の立ち上げが、庄内協議会(準備会)によって予定されている。生産者団体で働く個人が組合員となる生協、「生活協同組合庄内親生会」の設立だ。同じ地域の生産者が集まって生協を作ることは画期的な出来事だ。一般的に考えれば、マーケットが縮小しつつある今の社会では、生産者はライバル同士だとも言えよう。自社の商品を売り込むためには、他社との競争に打ち勝つ必要があるからだ。

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   生活協同組合庄内親生会

 先に書いたように、FEC自給圏構想の提唱者である内橋克人さんは、「世界は競争セクターと共生セクターに分かれている」と語った。競争セクターの中にいれば、生産者同士が、分断・対立・競争の原理で動く市場経済に巻き込まれてしまう。それを考えると、生産者同士の協同組合が設立されるということは、庄内の生産者たちが連帯・参加・協働の原理で動く共生セクターで活動していることの証しであろう。「庄内FEC自給ネットワーク」を通して、「地方消滅」の時代に抗する共生セクターが、庄内地方でさらに発展していくことを期待したい。  (構成・編集部)

 (市民セクター政策機構専務理事)

※この記事は筆者の許諾を得て季刊社会運動424号から転載したものですが
 文責はオルタ編集部にあります。
 詳しくは civi@cpri.jp http://cpri.jp/subscription/ を検索下さい。


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