■反日デモについて     

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◇張麗 娟     在日留学生   
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オルタ14号では日中韓問題の石郷岡論文について緊急アンケートを実施し、5人の方の意見を載せましたが締め切りの都合で今月号にも仲井富氏の寄稿および中国人在日留学生張麗娟さんの意見を掲載することになりました。この他にも「反日デモ」に関連して参加型システム研究所理事長久保孝雄氏から『アジア・ルネッサンス時代の日本の選択、市民の役割』という長文のメッセージをいただき、日中友好協会理事長村岡久平氏など多くの方からも電話などで御意見を頂戴しました。

加藤宣幸 今日は「オルタ」のインタービューに応じていただいてありがとうございます。「オルタ」についてはどうしてお知りになりましたか。

張麗娟  アルバイト先の社長さんが読んでいたので私も一言、意見を言いたくなったのです。

加藤  張さんはどの地方の御出身で日本では何大学に留学されていますか。

張   折江省出身です。首都大学東京(旧都立大)で法律を勉強しています。

加藤  早速ですが、ここに、「みずほ総合研究所」が作成した4月21日発行の「反日デモ」についての一覧表があります。月日・場所・人数・状況など記録されているのですが、ご覧になって印象はいかがですか。

張   その前に、日本のTVが大きく報道しているとき、中国の母に話したのですが、母はぜんぜん知らないのです。携帯やインターネットで呼びかけたからか、メデイアも伝えないので都心から離れたところの人は知らないのです。もっとも母のいる杭州市付近は松下電器関連企業なども沢山進出しているので親日的な土地柄として知られているところですが。

    この一覧表にある成都・深せん・北京・広州・海口・上海・杭州・東 莞・天津・遼寧・珠海・寧波・紹興・長沙・西安・アモイ・南寧・香港などですが、まず感じるのは比較的に経済がうまくいっている都市だという印象です。

     経済が発展すればするほど貧富の差も大きくなり不満もたまりやす いですし、発言もしたくなるのかなと思いました。

     それと、TVで見て、ユーゴの中国大使館爆撃事件(1999年5月7日 NATO軍が誤爆)のデモと比べて膨らみ方が少ないです。あの時は歩いているうちにドンドンと何万人(北京で5万人)にも増え、物凄く大きくなっていったのですが今回のデモは土日のためか物珍しがって集まった人も結構いるような気がしました。 

     今回のデモについて私の意見は、破壊行為は絶対駄目ですが、中国人が自分の意見を自由にデモで表すことができたということは言論の自由の芽が少し出てきて良いことだと思っています。いままでは申請しても許可されなかったのですから。

     警察がすぐ手を出さなかったのは天安門事件の教訓があったし、胡錦濤政権はまだ新しいから十分な力が無いからだと思います。

加藤   日本のメデイアでは「反日教育」と「国内矛盾」によってデモが始まったという説を盛んに流していますが。

張    私は小泉さんが個人で靖国に参拝するのは構わないと思っています が韓国や中国など隣人たちがこれほど反対しているのですから国をあずかる首相としては行くのをやめた方が良いと考えます。

     よく、戦後の処理でドイツと日本が比べられます。日本人はヒットラーほど東条は悪いことをしていないと言いますが、しかし中国人から見れば東条もヒットラーも同じなのです。もし、シュレーダー首相が小泉首相と同じように個人の信念だからと言ってヒットラーを祭ったところに参拝したとしたら欧州の人々はどのような反応をするでしょうか。猛烈に反発するのは明らかです。

加藤   小泉首相は国のために死んだ人を追悼し、平和を祈るために靖国神社に参拝するのだと主張しているわけですが、靖国神社は中国の人々にとっては軍国主義を象徴する場所として受け取られているのですね。

張    そうです。 靖国神社とはどういうところですかと私に聞かれれば東条英機が祭られているところですと答えますが、日中戦争で痛めつけられた中国人としては東条英機の名前はよく知っていますから、その東条英機が祭られているところに小泉首相が再三参拝するとなれば中国人だけでなくアジアの人々がどういう感情をもつか、もっと日本人は考えてもらいたいのです。

     私には若い日本人の友達がたくさんいますが、東条英機についてよく知らなかったり、日本の歴史とくに近代史についての知識がまったく弱い人が比較的多い印象があります。

     日本人は中国の歴史教育に問題があるとよく言いますが日本の歴史 教育にも課題があるのではないでしょうか。

加藤   ところで、デモのスローガンにもあった尖閣諸島などの問題についてはどうお考えですか。

張    歴史認識とは少し違い、国と国の利害があって難しい問題で、国の境界線をどこに引くかという国境画定はどこでも大変な作業なのですが、油などは双方で分け合うとか決めた比率で買い取るとかの解決法はいくらでもあると思います。

     ここで、私が日本のマスコミについて言いたいのは、こんどのデモ事件でもやられたお店の同じ写真をどこのTV局でも何回も繰り返し放映したり、なかには中国人が見ればすぐわかる広州のデモを香港のデモとして放映するなど(テレビ朝日が後で謝る)中国人にたいする反感を強めるような映像や、わざわざ無責任なコメンテーターの発言を流したりしているような感じがしました。両国関係を良くするにも 悪くするにもマスコミとくにTVの持つ影響力は大きいので注意して貰いたいです。

加藤   確かにマスコミが、ことさらナショナリズムを煽るような報道をしたり「絵になる」とばかりTVが娯楽番組でセンセーションな画像を繰 りかえし放映するのには日本人だって問題を感じています。

張    アジアカップの時も現地にいる日本人選手が「大したことは感じな い」といった発言をしていたのはチラットしか出さず、オーバーにオ ーバーに報道していたように思うのです。

     勿論、中国の報道でも「南京虐殺何十万人」といった誇張もありますが、私の言いたいのは歴史認識の問題でも今度のデモでも自分の国の立場だけ誇張して伝えるのでなく相手の国民感情にも気を配った報道をして貰いたいということです。

加藤   日本に留学している仲間の人たちの意見はどうですか。

張    皆、私と同じように暴力や破壊には当然反対ですが、デモには賛成です。いままではデモやりたくても許可されませんでしたから、デモをやって自分達の意見を表明できたこと、デモをやれるところまで経済が発展できたことに喜びを感じているのです。

     だけど、日本製品ボイコットはできないと思います。デモした人たちも使っていますし、第一品質がよくて、価格が適当であれば買うか買わないかは消費者が決めるべきものだからです。

加藤   日本側の企業も商品の不買運動については、極端にこじれて長期化すれば別でしょうが、そんなに脅威を感じていないようですね。それというのも日本からの輸出は生産財に比較して消費財の割合は低いからだと思います。むしろ怖がっているのは現地の日系工場でストライキが起きることなのです。

     なにしろ、中国の安い労働力を使って生産し、日本や米国は勿論、世 界に輸出しているからです。

張    そうだと思います。私も日本に来る前に日系企業に務めていましたので、日系企業の特徴を良く知っています。

     欧米系と違ってすぐ明日から首になるということがないなど良いところはあるのですが、欧米系はどんどん仕事を任せる、幹部にも登用するけれど、日系企業は何年務めても地位が上がらなければ給料が上がらない、中国人に幹部を任せない、などやる気のある者には不満もたまり易い企業体質があります。

     いずれにしろ安い労働力だけを狙って、次々に労働者を入れ替えてゆくというやりかたの工場が進出するのはそろそろ駄目になってきたのではないでしょうか。

     こんどの「反日デモ」を日系企業がいままでの「企業経営の現地化」のあり方について改革を進める機会にしたら良いと思いますし、それだけでなく首脳会談の実現を通して全般的な日中間での懸案事項の処理促進の契機に生かしてほしいのです。

     私は大学を卒業したら日中の交流の架け橋になりながら、ビジネスに取り組もうと決意しているのですが、今回の事件を日中双方が新しい関係を築くスタートにして貰いたいと思っています。

加藤   張さんのような若い人が前向きの契機になるようにと、とらえてくれることは明日の日中関係に明るさを差しますが、最後に一言、日本人に言いたいことがあればおっしゃってください。 

張    日中間にはいろいろ問題があっても、経済の連携はものすごく進んでいて、日中双方の利益になっています。 これからも良いパートナーとして組んでいければ素晴らしく大きな仕事ができると思っています。

     靖国神社問題なんか一番簡単で、小泉さんがあと1年だけ行かなければよいので総理を辞めたら毎日でも行って貰らってよいですよ。(笑い)

     率直に言って、日本の若い人たちが本当に歴史をあまりも知らないので驚いているのですが「人間にとって歴史は鑑」なので過ちを繰り返さないためにも歴史を学ぶ必要があると思っています。  

     そこで私は日本人の年配の方に、あなた方は歴史をよく知っているし戦争の体験もしている。この「直視した歴史」を次世代にどのように伝えて行こうとするのか、そしてその責任についてどのように感じているのかを、是非、お聞きしたいのです。

     もし、歴史が正しく伝えられないとすれば歴史を知らない世代だけになったとき、真の日中友好関係が築けるのだろうかとと危惧しているからです。

     私は戦後60年にもなるのに日中両国が真の友好・信頼関係を築き上げることが出来なかったのを悲しみ、情けないことだと思っているのです。

     今回のデモ事件を契機に、あらゆる分野で新しい日中関係が始まることを期待しています。

加藤   長い時間ありがとうございました。是非、留学が終わったら日中関係発展の仕事をビジネスにして大活躍してください。期待しています。

 (このインタービューは4月23日東京で取材し編集部の加藤宣幸が要約したもので文責は編集部にあります。)