急速に高齢化するアジア社会

■【オルタの視点】

急速に高齢化するアジア社会
― 中国と韓国に焦点をあてて ―(1)

田村 光博


 日本では、65歳以上の高齢者人口が三千万人を超え、「超高齢化社会」に突入したという。この問題は、年金問題、医療費問題と絡めて、連日のように報道されている。しかし社会の高齢化は、なにも日本だけに限った現象ではない。そこで、国連や関連専門機関などが発表した分析資料に基づいた一般報道を、電子スクラップとして集めてみた。そして、これを基に、アジアにおける「超高齢化社会」の実像を、非専門家なりに把握しようと試みた。
 そうすると、これまで予想すらしていなかった、関連するさまざまな問題が視界に入って来た。特に驚いたのは、『アジア諸国の大半は、2050年までに急速に高齢社会を迎える。』(国連人口推計)という分析である。『アジアは若いという常識は今や通用しなくなっている。』のだ。(大泉啓一郎)。特に1979年以降、<一人っ子政策>を採用してきた中国では、急激に少子高齢化が進行し、2020年代半ばには、人口問題は深刻な事態に陥ると予測されている。それでは、高齢化がもたらす「深刻な事態」とは、どのような事態を指すのだろうか? 関連書籍から得られた情報も加え、主として中国と韓国の例を考察し、今号では、先ず中国に目を向けた。

◆『エイジング(老いる)アジア』

 2011年、アジア開発銀行(ADB)は、『エイジング(老いる)アジア』と題する報告書を発表した。これまで、アジア新興国・地域は豊富な労働力に支えられ経済成長を続けてきたが、まもなく「人口のボーナス」(社会を支える豊富な労働力を保有する)期間が終了し、急激な高齢化の波がアジアを襲うと、同報告書は警告した。また、国連の人口推計によると、2050年までに大半のアジア諸国は高齢社会に突入し、とりわけ中国は、急速に超高齢社会を迎えるという。『老いゆくアジア』(大泉啓一郎)は、『急速な「社会の高齢化」という問題は、中国、韓国そして東南アジア諸国に共通する問題だ。』と指摘し、従来の繁栄の構図に対する楽観論に警告を発している。アジア各国の現状に触れる前に、まず理解の土台となる、いくつかの専門用語をチェックしてみた。

◆人口のボーナス/人口のオーナス/ルイスの転換点

<人口のボーナス> 一国の人口構成で、子供と老人が少なく、社会を支える豊富な労働力に恵まれ、生産年齢人口(the population of productive age)が多ければ、高度の経済成長が可能である。アジア諸国は、<人口ボーナス>に恵まれてきた。

<人口のオーナス> 高齢人口が急増する一方、生産年齢人口が減少し、少子化により生産年齢人口の補充ができず、財政、経済成長の重荷(onus)になる状態。

<ルイスの転換点> 農村の余剰労働力が底をつき、以後、労賃が急上昇し始める経済発展の段階」を指す。英国の開発経済学者アーサー・ルイス(Arthur Lewis)によって提唱されたため、「ルイスの転換点(Lewis turning point)」と呼ばれる。

 人口動態と経済発展の関係では、生産年齢人口(15~64歳)の人口比率が高いほど経済発展の可能性が高い。人口が過多でも過少でも経済発展の阻害要因になる。要は人口規模ではなく人口構成が重要で、生産年齢人口が増えているところが、経済も発展するとされている。『日本は既に2005年から人口減少時代に入ったが、東アジアでは、2030~35年から人口が減少する見通しにあり、人口減少の原因としては女性の労働進出、学歴社会の普及による教育費の負担増、また機械化により労働力としての子どもの必要性が薄れたこと』などが、原因として挙げられるという。(大泉啓一郎)

◆高齢化社会/高齢社会/超高齢社会

 国連は、国家あるいは地域における65歳以上の老人人口が、総人口に占める比率に応じて、比率が低い順から、高齢化社会(aging society:7~14%)→ 高齢社会(aged society:14~21%)→ 超高齢社会(super-aging society:21%超)という三段階に分類している。これとは別に、世界保健機関(WHO)は、老人を年齢ステージ別に、年長者(the elderly:60~74歳)、老年者(the aged 75歳以上)と、二段階に区分している。

◆東アジア諸国の人口ボーナスは、2015年前後に終了

 中国が1979年から国家政策として採って来た「一人っ子政策(one-child policy)は、人口抑制に大きな役割を果たしてきた。しかし、それと同時に少子高齢化が進行し、総人口に占める「15~24歳」及び「25~34歳」人口の割合が低下する一方、「45~64歳」及び「65歳以上」人口の割合は増え続けてきた。換言すれば、中国は過剰人口の抑制に成功したが、生産年齢人口(the population of productive age:15~64歳)は、徐々に減少に転じ、「人口のボーナス」から「人口のオーナス」へという、人口構成の負の移行が現実のものになりつつある。

 一般に農業国家が工業国家に発展していく過程で、農村部の労働力が都市部に流入し、経済が成長する。しかし、一定の経済成長が成し遂げられ後に、労働供給に制約が出始めると賃金の上昇が発生し、それが工業化のコストを押し上げ、生産能力拡張に限界が出てくる。この労働供給の制約が発生し始める時期が「ルイスの転換点」と呼ばれており、生産の高度化によって、生産性の全要素を高めなければ、成長率が低下すると言われている。少子高齢化が進み、労働力供給の不足が現実のものになりゆく過程は、なにも、中国だけに限ったことではない。少子高齢化社会への突入は、避けられないものだ。例えば、米国の生産年齢人口は2007年に、日本はそれに先立つ1992年ごろから、そのピークに達している。そして今、東アジアでは、韓国、台湾、中国、香港、マレーシア、シンガポールなどが、日本の後を追い、人口動態の大きな変換点に立とうとしている。

 これら東アジア諸国の「人口ボーナス」終了の予想時期を、国連の「World Population Prospects The 2004 Revision」は、中国、韓国、香港、シンガポール=2015年ごろ、ベトナム、マレーシア=2020年ごろ、インドネシア=2030年ごろ、インド=2035年ごろとしている。そしてその後、「東アジアでは2030~35年から人口が減少していく見通しにある」という。生産年齢人口(15~64歳)に恵まれ、豊富な労働力が供給され、それによって経済発展が支えられてきた時期は、まもなく終了する見通しだ。そして、『今後の中国においては、生産年齢人口比率が2010年以降下がっていくと予想されていること等から、生産性の向上が持続的な成長にとってより重要性を増すと考えられる。』(経済産業省)としている。

◆中国社会の高齢化の度合い

 中国社会における老人化率は、国連(The Vienna International Plan of Action on Ageing 1982)の段階分類に従って整理すれば、次の通りになる。
 「高齢化社会(aging society)」   (7~14%) 2001年に到達した
 「高齢社会(aged society)」     (14%~21%)2015年末に到達予測
 「超高齢社会(super-aging society)」(21%超)  2050年に到達予測

 中国では、『急速な経済成長に伴って生活環境や医療などが改善された結果、平均寿命が延びたことに加え、都市化の進行、「一人っ子政策」による出生率の低下などが、中国の急速な高齢化の背景として挙げられている』。(中国高齢者産業調査報告書2013、JETRO北京事務所)

◆急速に高齢化社会に突き進む中国社会

 現在、中国では高齢者人口が毎年860万ずつ増加しており、中国政府関係者の予測では2050年までに高齢者が総人口の3分の1を占め、4億5,000万人に達するという。また、80歳以上の高齢者と要介護高齢者が年間100万人ずつのペースで増加し、2050年には80歳以上の老人人口が1億人を超え、超高齢化社会へ突入すると予測されている。(「中国高齢者産業調査報告書(2013)」、JETRO北京事務所)

 『全国城郷失能老年人状况研究』(中国老龄科学研究中心、2011年)は、都市部と農村部を含めた要介護高齢者<65歳以上>の状況を研究した中国初の報告書である。同報告書によると、全国の要介護高齢者総数=約3,300万人(2010年末)は、わずか5年後には700万人も増加し、4,000万人余りに(2015年末)達する予測だ。さらに、2050年には、高齢者人口は4億3,000万人に達し全人口の3分の1を占め、そのうち要介護高齢者は9,500万人前後となると予想される。60歳以上人口の比率は30%以上となり、65歳以上人口の比率は25%前後となると見込みだ。

◆中所得国の罠(Middle-income trap)

 ある一国の経済成長が壁に突き当たり、(GDPで3,000~10,000ドル/人程度)、それ以上、なかなか先進国レベル(高所得国)に到達できなくなった状況を、中所得国の罠(middle-income trap)に陥ったという。これは、新興国が低賃金の労働力等を原動力として経済成長し、中所得国の仲間入りを果したが、自国の人件費の上昇や後発新興国の追い上げ、先進国の先端イノベーション(技術力等)などとの格差に遭って次第に競争力を失い、経済成長が停滞する現象を指す。

 そのような停滞を打破し、持続的な成長を成し遂げるには、産業の高度化(sophistication of industry)が不可欠だと言われている。韓国や台湾は1990年代後半にかけて、この罠に陥ったが、その後、電機やITなどを中核に産業を高度化し、高所得国入りを果たした。

 そのため、中国は今後、『従来の労働集約型産業から高付加価値産業/技術集約型産業に資源を移行する形で、産業の高度化を加速させていくものと思われる』と、経済産業省は分析する。それを裏付けるように、中国政府の楼継偉・財政相は、『労働力に牽引される経済から、もっと労働集約度が低く付加価値がより高い産業へシフトできる前に、高賃金によって製造業の利益が出なくなれば、中国は「中所得国の罠」にはまる』と、危惧した。同財政相は、『労使交渉を促す法律は「恐ろしい」と述べ、米国の自動車業界で破産が相次いだのは行き過ぎた「労組の力」のせいだ』と、非難した。(AFP, 2015/06/15)

 この罠を回避するには、そのために必要な技術の獲得や人材の育成、社会の変革(金融システムの整備や腐敗・汚職の根絶等)が必要』である。しかし、中国には非効率の国有産業が多数存在する。『先進国になるには、賃金上昇を乗り越える付加価値の高い産業が必要だ。先進国になるには、ITや薬品、自動車などのハイテク産業が育つ必要がある。育たなければ中進国のままだ。だが、中国には世界に通用するブランドがない』と、藤田勉は指摘する。核心的な技術は、外国企業に支配されている現状であり、社会の変革(金融システムの整備や腐敗・汚職の根絶等)は、それ以上に打開困難な課題だ。

◆戸籍制度改革:農村から都市への流入制限撤廃/労働力市場の効率化へ

 前述したように、『中国の人口構成が急速に変化していくに伴い、今後20年で中国の労働供給力は急速に低下するとみられる。これからは今のような低価格で世界市場に商品を供給することはできなくなるだろう。中国の人口構成が急速に変化して行くのに伴い、今後20年で中国の労働供給力は急速に低下するとみられる。これからは今のような低価格で世界市場に商品を供給することはできなくなるだろう。現在の一人っ子政策のもとでは、将来の労働力不足は明らかだ。』と、CNNは報道する。(米CNN電子版、2012/02/06)

 それでは、中国政府はこの課題に、どう対処するのであろうか。『最終的には、中国政府は戸籍制度を改革し、農村から都市への流入制限をなくし、労働力市場の効率を高める必要がある』と、同電子版は論評する。

 中国における都市部と農村部の所得格差を構造的なものにする要因として、戸籍制度の存在がある。中国は1958年以来、農村から都市への戸籍の移転を厳しく制限し、都市の出身者には「都市戸籍」を与え、農村出身者には「農村戸籍」を与え、厳格に区分管理してきた。『冷戦期に社会主義計画経済体制を採るとともに、農村の収益で都市の経済建設を推進するという重工業発展戦略を採用し、都市住民に対して優先的に食料などの生活物資を供給する政策を採ったことに起因している』。(酒本真由子、『北京の農村出身者への制約』)

 現在、「都市戸籍」の保有者はおよそ5億人、「農村戸籍」の保有者はおよそ9億人と言われている。都市化率が5割を超えた現在でも、実際に都市戸籍を持つ人は約35%にとどまる。その差の約2億人は、農民工と呼ばれる出稼ぎ農民である。(日本経済新聞)

 中国では社会保障や公共サービスは、この戸籍に基づいて提供され、「都市戸籍」の保有者には一般的に、医療や年金、生活保護などの手厚い社会保障制度が整備されている。反対に、「農村戸籍」の保有者には、農地の割り当てがあるものの、失業保険の対象にならないなど社会保障の待遇に差がある上、義務教育などの公共サービスも、十分には受けられない。ある調査によれば、都市労働者と農民の年金受給額の差は、なんと、24倍にもなるという。そのため、この格差から抜け出そうと農村から都市へと人口の流入が止まらない。「農民工」と呼ばれる人々は、都会人が敬遠する仕事を低賃金で担い、大都市の底辺を支えている。しかし、都市で長年生活していても『都市戸籍』は得られず、そのため劣悪な環境での労働を強いられている。

◆2020年までに『都市戸籍』『農村戸籍』を統一する方針

 中国国務院は2014年、「都市戸籍」と「農村戸籍」を2020年までに統一することを骨子とした戸籍制度の改革方針を打ち出した。その狙いは、『(1)公共サービスや社会保障といった社会的な権利の格差を解消することで、所得格差拡大の芽を摘むとともに、社会不満の増大を抑えようとの狙い。(2)“農民工”の都市への定住を促し、農業よりも生産性の高い工業やサービス業に従事する人を増やすことで、産業の高度化をさらに進めたいという狙いがある』と、みずほ総合研究所・三浦主任研究員は分析する。しかし、『ただ形式上、戸籍を統一するだけでは、これらの狙いを達成することは難しいと思われる。公共サービスや年金など、関連するほかの制度も地域間で分断されているためだ。戸籍の違いによる権利の格差を解消するためには、こうした他の制度についても、全国で統一していく必要がある。このことは改革案のなかでも言及されており、中国政府も十分に認識はしている。しかし、(1)公共サービスの拡充による財政負担の増加にどのように対応するか、(2)年金財源の統一にあたり、地域間の利害調整をどのように図るのか、(3)大都市に集中する人口をどのように分散させるのか、などの多岐にわたる問題に対して、具体的な道筋は、まだ十分に描けていないのが現状だ。』と、同研究員は指摘する。

 (筆者は元中国大学・日本語講師)

< 参考にした文献 >
『超長期予測 老いるアジア』小峰隆夫/日本経済研究センター編(日本経済新聞出版社)
『「老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき』大泉慶一郎(中公新書)
<中国情報リンク>
 http://www.recordchina.co.jp/
 http://searchina.ne.jp/

韓国主要新聞リンク>
 http://www.geocities.jp/pringles_cat/media/media_index.html
<用語・辞典・翻訳>
 http://translate.weblio.jp/


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