【沖縄・侃々諤々】

文太の遺言
―沖縄とアジアの市民連帯―

                     
安藤 博


 <翁長選挙戦>の口火を切った11月1日の那覇市セルラースタジアム集会に、菅原文太さんは死期の迫っていた身で、ご本人いわく「押しかけてきた」。そのときのスピーチが、図らずも遺言となりました。

 このスピーチで有名になった「弾はまだ一発残っとるがよ」の殺し文句は、映画『仁義なき戦い』(1973年公開)の終わりに広島ヤクザに扮する文太が悪玉に放った一言。それを、日本政府のカネと脅しに屈して「沖縄の人びとを裏切り、公約を反故にして辺野古を売り渡した」沖縄の悪玉、対立候補の仲井真知事に突きつけたのです。

 痛快きわまりない「一発」ですが、この一発は知事就任とともに翁長氏に跳ね返ってきます。世界一危険な軍事基地とされる普天間をどうするかです。仲井真氏は、何の当てもなく「5年後閉鎖」と言いました。翁長氏は選挙戦で「辺野古埋め立て阻止が普天間解決の早道」と。それだけでは、当てのない点で仲井真氏と変わりません。

 悪い前例があります。具体的手立てを欠いたまま「国外・県外」を謳って自民党と官僚につぶされた鳩山民主党政権です。その轍を踏むことのないよう「沖縄の自己決定権」を支える広い範囲の市民支援が必要です。

 後世に残る文太演説の真髄は、「沖縄の風土も、本土の風土も、海も山も空気も風も、すべて国家のものではありません。そこに住んでいる人たちのものです」。「そこに住む人間」の思いこそが、翁長氏の選挙スローガン「誇りある豊かさ」の根っこにあるものでしょう。

 「誇りある豊かさ」を沖縄の現実に即していえば、「日本政府のカネにつられて米軍基地の新設をさせたりはしない。基地に頼らずに地域経済を自立させる」ことです。それを「オール沖縄」の思いにして、「普天間閉鎖」につなげていかねばなりません。

 沖縄の「人間の安全保障」を侵す基地の重圧に強く関わっているのが、日本政府の「米海兵隊引き止め」である以上、日本政府を経由して「普天間閉鎖」を訴えることは無意味かもしれません。翁長氏は近々ワシントンに出向き、知事選ではっきり示された沖縄県民の「辺野古No!」を米政府関係者に直接訴えようとしています。

 こうした訴えが実を結ぶかどうかは、「米軍基地に依存しなくてもやっていける」ことが確かなものと考えられて「新基地No!」が知事選での翁長支持を超える範囲の訴えとなっていくかどうかで決まります。翁長新知事は「アジアの成長力を沖縄に結びつける」ことに沖縄経済の活路を求め、近隣アジア諸国との貿易・投資拡大を進めようとしています。

 文太の遺言はさらに、沖縄の中だけで「沖縄自立」を叫ぶのではなく、「アメリカにも、良心厚い人々はいます。中国にもいる。韓国にもいる。国が違っても、同じ人間だ。みな、手を結び合おうよ」と呼びかけています。こうした連帯が沖縄の自己決定の基盤となるよう、「沖縄」を中国、朝鮮半島などの市民ネットワークにつなげることに、努めてみようと思っています。

(あんどうひろし:<非暴力平和隊/日本>事務局長、元朝日新聞記者、76歳、市川市)


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