新しい日本の国づくり ~8・15と3・11を踏まえて~

■ 【私の視点】  新しい日本の国づくり ~8・15と3・11を踏まえて~

                        細島 泉
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3月11日の大地震と大津波そして原発事故は有史以来の大事件であり、文字通
りの国難であった。この歴史的災難に対して、日本という国、さらに日本人がい
かに取り組み、成果を上げるか、は私たちの問題であるし、全世界も注視してい
る。それにしては、司令塔であるべき政治の劣化は目を覆うばかりだ。永田町で
抗争に明け暮れる与野党議員にはこの国難打開についての自覚があるとはとても
思えない。

これから取り組む復興の仕事は単なる復旧ではなく、今回の教訓と未来への展
望を含めた新しい国造りなのである。まずは岩手、宮城、福島の3県を整備し青
森、秋田、山形の3県と調整しつつ、21世紀の新しい奥羽6県をつくりあげる構想
を明らかにすべきである。これが21世紀日本への貴重なステップになるのである。

その問題点をいくつかあげてみよう。

◇第一、まず早急に解決すべきは大量の瓦礫の整理である。各種ボランテイア、
自衛隊、警察や米軍応援隊などによって整理作業はだいぶ進んだが、まだ完了ま
でには相当の努力が必要である。この際、政府は全国規模で取り組むべき課題で
あることを強調し、ボランテイア総動員を呼びかけ、地元にも受け入れ態勢をつ
くり、作業を加速すべきである。これに関連して、自衛隊は外国および国内の災
害派遣のケースがこれから増加する可能性を考え、その装備を例えば戦車、火砲
などの武器を減らし、土木、建設関係の機材を増やすなどすべきであろう。

◇第二、復興の新しいまちづくりには、何よりも県、市町村との緊密な話し合い
が不可欠である。同時に発想の大きな転換が必要になる。特に検討して欲しいの
は、住民のライフラインとしての、電気、ガス、水道については共同溝方式の採
用に踏み切ってはどうか。電柱はなくなり、景観にもプラスである。この方式
を、大震災を出発点として、やがては日本全土に及ぼすというのも、素晴らしい
夢ではあるまいか。

◇第三、「森は海の恋人」運動を積極的に展開する。この動きは20余年前、宮城
県気仙沼市から始まった。ごく簡単に言えば、森の手当てをよくすれば、そこか
らの栄養たっぷりの水が海に流れ込み、豊かな海となって海はますます元気にな
るという話だ。
運動の指導者畠山重篤さんにそれを語って貰おう。

『私は、三陸リアス式海岸の静かな入り江で牡蠣や帆立貝の養殖をしている漁
民である。父の代から養殖漁民で私が二代目。・(中略)・私が父から引き継い
だ海は実に豊かなうみであった。牡蠣や帆立貝は種苗(稚貝)を海に入れておき
さえすれば何もしなくても大きく育ったし、海中をのぞけば、めばる、ぼら、す
ずき、うなぎ、などが群れをなしていたものだ。ところが昭和40年代から50年代
にかけて、目に見えて海の力が衰えていった。貝の育ちが悪くなり、赤潮などが
頻繁に発生するようになってきたのだ。

同業者が集まると、この仕事も俺たちの代で終わりだなあと、あきらめムード
だけが漂い、浜は活気を失っていったのである。そんな時、もう一度昔の海を取
り戻そうと一つの運動が湧き起こった。気仙沼湾に注ぐ大川上流に漁民の手で広
葉樹の植林を行い、海を元気にしようというのである。また、それをきっかけに
して、大川の上流の子たちを海に招いて体験学習をして貰う。名づけて「森は海
の恋人」運動である』(リアスの海辺から)畠山重篤、文春文庫)

山の幸と海の幸との出会い、といってよい。何ともロマンチックな元気の出る
話である。四季ゆたかに、緑はあふれ、水清らか、豊かな海、であるのが日本列
島の誇らしい姿である。この漁民たちも今回の津波で漁船やその他の生産手段を
根こそぎ奪われたが、それに屈せず、さらに運動を発展させる意気込みである。
海国日本らしく、そうした動きを全国規模で拡大するように国は積極的に支援し
て貰いたい。

◇第四、もっとも厄介なのは原子力発電への対応である。私事にわたるが、私は
すでに9年前に太陽光発電を採用し、自己負担約300万円のパネルを自宅屋根にお
き、快適な生活をしている。最近は太陽光発電を選ぼうとすれば、自己負担は約
200万円程度となったというが、なお高い。太陽光発電への政府の奨励意欲はは
なはだ弱い。

多分、長期にわたる自民党政権と東京電力とが中心に絡み合う利害関係が政・
官・財・学・業の各界およびメデイア界など広汎に深く存在し、現状をにわかに
改めにくい条件ができているのであろう。

しかし、今回の福島発電所の状況は原発への警戒心を一気に強め、改革の機運
が強まってきている。例えば、さきの地方選で選ばれた黒岩神奈川県知事など
は、同県政あげて太陽光発電への転換を強調しているなど、太陽光発電への期待
の新しい動向がいろいろ出始めている。

少なくとも原子力発電と並行して、太陽光など自然エネルギー発電の拡大発展
を促進する大きな転換期に入りつつあることは否定できない。そういう折に、菅
首相は静岡県の浜岡原発の全面的な活動停止を決断し、政治手法や首相としての
資質について激しい批判を浴びながらも、自然エネルギーを買い上げる再生エネ
ルギー特別措置法の成立に自らの進退をかけた。

新たにできる政権も今回の災害復興計画の中に太陽光や風力、バイオマスといっ
た再生可能エネルギーを基幹エネルギーとして加え省エネ社会をつくるという脱
原発の方針を反映させるべきである。 

このためには太陽光発電など自然エネルギー採用の意欲を具体的に示すため
に、復興し新設する各種公共建築物、例えば各行政機関や教育施設(公立高校・
中学・小学校など)の校舎にはできる限り太陽光パネルを設ける努力が望まし
い。そしてこの新政策はやがて日本全体に広がっていく。この状況は国民や子
供たちにも分かりやすくて、日常の和田ともなり、良い実物教育になるだろう。

◇第五、大震災とフクシマ原発、この災難は21世紀という新時代の開幕を特徴づ
ける深い意味を持っていると考える。パクス・アメリカーナ(アメリカによる世
界支配)はいま終幕に近い。パクス・チヤイナはまだ熟さず、中東、イスラム世
界での多くの混乱、変化。インド、エジプトなど諸国の動きも見逃せない。日本
はいったいどんな道を進むべきか。

私は、日本の国是は“非核・不戦・国際協調”であって欲しいと常に考えてい
る。なかでも国際協調が最も重要だと思っています。軍備拡張競争ほどこの協調
を乱すものはありません。最近の中国の露骨な拡張傾向は非常に心配ですが同時
に日米軍事同盟(安保条約)の現状もまた非常に心配です。この条約の実態を見
ても日米関係を改善する余地は大いにある。問題は、これを自覚し行動する力が
ない日本の政治にあると考える。私たちは、復興を通じて元気あふれる平和国家
を目指し、そうした姿を改めて世界に示したい。

            (元毎日新聞編集局長)

注 この原稿は「日中友好元軍人の会」機関紙[8・15](NO.498)に寄稿し
たものに加筆したものです。

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