新春はなしの屑篭

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■【横丁茶話】        
   ~新春はなしの屑篭~                西村 徹
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  昨年の暮れ近くにブルーレイDVDレコーダーを買った。2011年7月からいっせい
に地デジになってDVDも古いままでは使えないという。巷では「地デジまで後200
日」みたいな看板が買い替えを煽っている。年の暮れごろのちょっとした躁状態
もあって、ネットで衝動買いしてしまった。買ったはいいがテレビの背面を見た
ことのないものが自前で接続しなければならない破目になった。

 五里霧中の試行錯誤を重ねて、ようやく成功してハイビジョンが録画できるよ
うになった。BSも地上波もアナログでなくてデジタル録画になった。出来上がっ
てくる画面がまるでちがうではないか。テレビで直に見るよりキレイなような錯
覚におちいるほどキレイだ。おまけに二番組同時録画できる。自前接続の達成感
は尋常ではない。舞い上がるということばが一昔前に流行った。そういう気分
だ。大袈裟に言えば死ぬのが惜しくなるといってもいい気分だ。

 年末年始は特別番組満載になる。紅白とか、芸人が紋付や振袖で出てくる民放
の正月モノは見ないが、今年はイタリア統一150年というのでNHK-BSハイビジョ
ンはイタリアがいっぱいだ。正月だから日本の風景もいっぱいだ。京都の庭や路
地や寺や舞妓など、そして歌舞伎に能狂言。文楽もある。これまでに見損なった
ものもふんだんに映してくれる。

 見るに忙しいのを通り越して録画するだけでもたいへんだ。11月20日から本を
読んでいない。本どころでないのだ。この状態は一月いっぱいで切り上げようと
思うが、目下旅行中だと考えればそれはそれでよいと思っている。とにかく今は
毎朝の「てっぱん」。そして呆けたようにテレビ見ている。書くことなどあるわ
けない。

 とはいえ探せば書くタネはなくはない。本は読まなくても新聞ぐらいはざっと
見る。ラヂオもちょっと聴く。例によってことばの揚げ足取りといわれそうなこ
とを、まず書く。文化放送という局の大竹まことゴールデンラヂオという番組で
1月12日、ゲストの笑福亭笑瓶が自分で言い出したハッタイ粉の成分をデンプン
と言っていた。穀物成分は大方デンプンにちがいないが、普通デンプンなら片栗
か葛のばあいで、ハッタイ粉は大麦か裸麦と先ずはいうだろう。大竹もアナウン
サーの水谷加奈もそのあたりを知らないらしい。

 大竹も笑瓶も初老ぶってはいても戦後のこどもだから若い。ラクガンのガンは
なんだと大竹が訊いたら、笑瓶は「丸でしょう。ラクは楽でしょう」。「昔
は~」などと年寄りぶってはいたけれど。落語家なら、ただのタレントではない
のだから、ハッタイ粉はともかく落雁ぐらいは知っていてほしいものだ。

 新年になって先月の話をすると旧年の話になるけれども、年末十二月二十九日
夜ふと映ったテレビでビートたけしが司会でガチバトルとかいう番組。他人のケ
ンカはおもしろいと思う人が多いようで、それに乗じてよくある番組だが、中国
人を大勢前に並べて反対側から日本人がやっつけていた。相手がアメリカ人だっ
たらひたすら媚びへつらうところだが、相手が中国人だから日本語のハンディな
ど斟酌なしに襲い掛かっていた。

 もう終わりかけていたから詳しくはわからないが、自分は安全地帯から、リス
キイな立場に置かれて苦しい自国の弁護に終始する隣国の人々を、まるで被告に
対する検事のように高みからバッシングして溜飲を下げるという、立ち会えば恥
ずかしくなるだろう醜さだけは伝わってきた。民主党の松原仁というのが山際澄
夫と並んで肩を怒らせているのもショックだった。

 その次に死刑是非論。死刑反対は亀井静香、福島みずほ、菊田幸一。死刑支持
は三宅久之、大谷昭宏、勝谷誠彦。日本で死刑反対派は少数派。死刑支持派は圧
倒的多数派。少数派が理性的で、まさに諄々と説得的でクール。余裕のあるはず
の、つまり与党席にいるはずの多数派が、なぜこんなに攻撃的で非理性的で、声
をあらげるのだろうか。大谷昭宏は三人のうちで唯一冷静で、ただ最終段階で論
理を捨てて情念にしがみついてしまうが、三宅も勝谷も怒鳴りまくるばかり。勝
谷にいたっては亀井が勝谷を「カツタニさん」と西日本風に発音しただけで猛り
狂って金切り声を上げる始末。

 勝谷など亀井からすればサン付けで呼んでもらうだけでもありがたく思うべき
はずのチンピラ。チンピラがキャンキャンと吠えても亀井は怒りもせず、鷹揚な
もので、さすが大物。三宅はチンピラの年齢ではないがチンピラ並みに吠える。
吠えるだけでなく見境なく噛み付く。まるで狂犬病にかかった犬だ。それも高齢
を傘に着て噛む。論理もなにもない羽織ゴロの老害である。

 外野席のようなところから司会者から発言を求められて何かをちょっと質問し
た八田亜矢子は噛み付かれて「質問しただけなのに」と戸惑っていた。やはり外
野席からフランス人が「ミッテランが大統領になって死刑を廃止したとき、廃止
以前は死刑支持が60パーセントあったが、廃止以後は下がった」と、貴重な事実
を話した。三宅は「外国人はグズグズ言うな」というようなことを言った。自分
に不利な発言は威力業務妨害的に封じてしまうのだから三宅に言論人の資格はな
い。

 今日は第二次菅内閣が発足した。江田五月法務大臣が誕生した。もうこの「み
っともない」内閣に期待するものはなにもない。しかし、なにからなにまでアメ
リカ従属でも、取り調べの全面可視化ぐらいはできるだろう。これならアメリカ
はなにも文句は言わないはずだ。アメリカ自身が日本の司法を信用しなくて地位
協定の改正に同意しないのだから、司法の近代化はアメリカのいう人権尊重の趣
旨にも合致するだろう。むしろアメリカの力を借りることさえできよう。

 せめて江田五月が法務大臣になるからには、内閣は他になにもしなくても、せ
めてこれだけはぜひともやってほしいと思う。もし死刑廃止までいけば大手柄
だ。できはすまいが。(2011.1.14)

             (筆者は堺市在住・大阪女子大学名誉教授)

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