日中友好抱抱団

≪連載≫中国単信(9)

日中友好抱抱団

趙 慶春

 日本の新聞でも報道されたので、ご存じの方もいらっしゃるのではないだろうか。今年4月10日、北京大学留学中の日本人留学生一人、13日には同じく北京大学の日本人留学生六人が「日中友好抱抱団」と書いたプラカードを掲げ、北京市民に抱擁を求める活動を展開した。

 筆者はこのニュースを知ったとき「まずい」と思った。その理由は二つだった。
 一つは中国では人前での抱擁を恥だと考えるのが一般的だからである。かく言う私も、街中で抱擁を求める場面に出くわしたら、その成り行きを見てはいるものの、応じないだろう。周囲の中国人女性にも聞いてみたが、答えは同じだった。たとえば入試発表時に親子で結果を見に行き、みごと合格とわかった瞬間でも、親子でさえ抱擁はなかなかしないものである。そのような文化がないのだ。そもそも日本にも「抱擁」文化はないと考えている。

 二つめは中国の一部のネットユーザーの異常な「辛辣さ」だ。彼らは自分の「自己顕示欲」を満足させるために、他人の善意など平気で踏みにじり、自分の無知や無教養を棚に上げて、鼻高々に自慢しまくる輩が多くいるからである。
 案の定、ネット上にはたちまち次のような書き込みが現れた。
 「甘いなぁ。抱き合えば友好になるの?」
 「あんたたちが一般の日本民衆なら応じるけれど、日本政府の代表なら拒否さ」
 「裏で中国を罵って、表でニコニコして抱擁を求めるとは、なんという民族だぃ?」
 「うちの領土を返してくれるならば、抱き合ってもいいよ」
 さらには下品なコメントまで・・・。
 「AV抱抱団が来るなら大歓迎」
 「ブスは来るな、抱っこなんて気持ち悪い」

 ところがこのような書き込みを目にした数日後から、中国のメディアは次々にこのニュースを好意的に報道、転載し始めたのである。
 たとえば『中国日報』4月17日付けで「一つの抱擁は小さなことだが、日中間の温度を上昇させるのに役立つだろう」と報じたほか、「今の日中間にはこのような抱擁が最も必要だ」「このようなプラスエネルギーが欲しい」「こんな日本人を見習うべきだ」といった具合である。

 筆者は中国での好意的な反応に胸をなで下ろしたが、その一方で中国人にかいま見える反応が気になる。それは日中間の文化相違とも言える類のものかもしれない。
 今回のニュースでも日本人の勇気を多くは讃えながら、「一人の日本女性が日本を代表できるはずもなく、こんなことは意味がない」というように、中国人の効用重視論からすると、効果なしとみなす人が多くいるからである。

 でも、一個人のひたむきな行動がやがて大きな力となり、社会に貢献した事例を日本で生活している筆者はいくつも見てきている。
 福島原発事故で日本が電力不足の危機に陥ったとき、一個人、一家庭が可能な限り節電に協力し、計画停電にも誰一人文句を言わずに受け入れていた。主婦は電力消費ピーク時を避けるため、午後二、三時から夕飯の支度をしていた。企業も早出社、早帰宅でお家芸の残業も最低限に抑えた。こうした日本のあらゆる場での細かい配慮が電力不足危機を乗り越えさせたと言えるだろう。

 また個人的な体験では、来日当初、日本語能力に欠けていた筆者は、知人から無料で日本語を教えてくれる市民団体があることを知り、早速、出かけていった。先生はすべてボランティアで、年配の方が多かった。それぞれ週一、二回ほど教えに来てくださるのだが、困っている人に何か役立ちたいという気持ちに溢れていた。生徒は小学生から留学生まで、また職業もさまざまだったが、来日したばかりの小学生のために、学校まで付き添って行き、日本語のほか生活面での面倒さえ見ているようだった。

 当時、経済的にも苦しかった筆者はこの無料日本語クラスにどれだけ助けられたかわからない。そしてこうしたボランティア団体が日本各地に数多く存在していることをあとで知って、感動したことを覚えている。なんでも神奈川県だけでも43団体あるとのことで、「中学・高校生の日本語支援を考える会」のように、中国人のために『学習語彙5000語』という字典を自力で編集したところまである。
 こういう団体で学んだ中国人を始めとする外国人は、日本に根を下ろした人もいれば、帰国した人もいる。でも筆者が知る限り、誰もが日本人の暖かさを忘れず、一人の力は取るに足りないのを承知で、でも両国の友好に尽くそうとしている人が多くいる。

 中国との関係で言えば、現在、両国間には不信感が渦巻いているが、しっかりと地に足をつけて、地道に両国の友好を強めていこうとしている人びとが確実にいることを忘れてはならないだろう。
 一人の力は確かに弱い。今回の日中の友好を願っての「抱擁」も、ただの突飛な行動と無視される可能性は大いにあった。しかし、それでも自分のできうる力で迷わず行動に移した勇気は賞賛に値する。行動を起こした留学生たちの話では、より受け入れられるように5月からは合唱団と連携して、抱擁団活動を続けていくという。その手法を改善しながら、影響を拡大させていけば、きっと「成果」につながっていくにちがいない。

 さらに喜ぶべきことは、今回の活動にメディアを含めて多くの中国人が理解を示したことである。更には日中友好のために、ただ傍観し、ただ議論するだけでなく、まず実践を!という中国人も増えつつある。ネット上にも「日本特集を組む」「日本による中国への支援を逐一紹介する」「好きな日本人・日本名所のアンケートを実施する」といったサイトが次々に現れてきている。
 間違いなく日中両国の民間人は友好を望んでいる。このような「プラス」エネルギーを感じさせるニュースが増え、民間での友好が活発化すれば、民間人の手で政治を動かせる日がそう遠くなく来ると信じたい。

(写真)
 http://www.alter-magazine.jp/backno/image/125_06-3-01.jpg

 (筆者は大妻女子大学教員)


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