【オルタの視点】
<技術者の視点~エンジニーア・エッセイ・シリーズ(24)>

日本の技術革新力(5) 閑話休題

荒川 文生


◆◇ 1.江戸時代のイノベーター

 残念なことに急逝された加藤宣幸さんから「日本のイノベーション」について論じるようにとの問題提起を頂戴して始めた連載も、愈々、纏めに入る段階に至りました。

 此処で「閑話休題」、話を江戸時代に戻しましょう。
 悪名高き田村意次は実は幕政の改革に貢献した人で、出島から入る海外の情報を活用し、商業の活性化を推進した人でしたが、不幸にして後任の批判的文書が多数残されたため、その真価が後世に伝わらなかったとされています。其の時代背景の下、「異才の人」として後世に名を残したのが、「エレキテル」で有名な平賀源内です。

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  どちらが平賀源内??に見えますか。

 「電気」に関する科学的知識など、全くと言ってよいほど無かった時代に、彼は、今で言うところの「静電発電機」を複製し、多数製造して多くの実益を挙げたのです。新しい技術を活かしてゆく豊かな商才こそ、「イノベーション」に相応しいと言えましょう。

 具体的には、先ず見世物として「火花」を飛ばして人々を驚かせ、其の電磁気的効果が精神病の治療に役立つとして、武家の高官や大商人などの奥方に取り入って利益を上げたとされています。これをまねた者たちに就き、今で言う「特許権侵害」の訴えを奉行所に挙げたなどの記録も残っています。

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  「エレキテル」:平賀源内記念館所蔵

 その他にも彼は「解体新書」の挿絵の件での貢献など、その才能を如何なく発揮しましたが、その「異才」ぶりが災いして、最後は獄死する運命に見舞われます。

◆◇ 2.でんきの礎

 電気学会は、その歴史研究の一環として、電気技術発展の基礎を築いてきたものとされる「こと、ひと、モノ、場所」を顕彰する「でんきの礎」という活動をおこなっており、2018(平成30)年3月までに、73件が顕彰されています。

 その第11回に「エレキテルと平賀源内」が顕彰された訳ですが、「何をいまさら」とか、「源内は、壊れた静電発電機を複製しただけで、発明した訳ではない」などとの疑念も抱かれました。顕彰を提案した方々の想いの中には、「異才」として「出る杭は打たれる」運命甘んじた「イノベーター」の姿を、今や低迷しつつある現代日本の社会的・技術的状況の中で明らかにし、苦境に耐えて「イノベーション」に挑戦する人間の素晴らしさを、特に若者に認めて貰いたいという気持ちがありました。

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◆◇ 3.地方とひと

 これまでに顕彰された73件のなかでは、電機製品や電気設備など「もの」や「こと」が圧倒的に多く、「場所」も首都圏に集中した趣が避けられません。そこで、もっと「ひと」や「地方」に顕彰の対象を求めたいという意向も示されています。その点、「エレキテルと平賀源内」は、将に的確でありました。

 この件は「知る人ぞ知る」顕彰活動として、「平賀源内先生顕彰会」が昭和4年(1929)2月15日、源内没後150年を機に発足しました。会長は松平頼壽伯爵、副会長は林毅陸(慶応義塾長)と鎌田勝太郎(貴族院議員)、本部を東京、支部を香川・大阪・名古屋・京都・神戸と全国的に組織網を展開しました。
 昭和35年(1960)4月15日源内祭当日、志度町にて再び平賀源内先生顕彰会が発足し、昭和37年3月31日香川県教育委員会の認可を得て「財団法人平賀源内先生顕彰会」となりました。
 昭和54年(1979)3月25日「源内先生二百年祭」を挙行し、①平賀源内先生遺品館建設、②源内先生ゆかりの薬草園を設置、③慰霊祭・墓前法要・遺品特別展実施、④『平賀源内先生二百年祭誌』刊行を実行しています。平成21年(2009)3月22日には「平賀源内記念館」を香川県さぬき市志渡町に開館しています。

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  志度の平賀源内記念館(香川県さぬき市)

 こうした永年の活動が続けられるのは、多くの人々の地道なご努力によるものですが、こういった地方の活動が、今や低迷しつつある現代日本の社会的・技術的状況を打開する一つの有力な礎となります。この事をもっと多くの人々に知って戴くことが大切です。其の為には、実際にその地を訪れ、多くの人々の地道なご努力に接する事が効果的でしょう。

 幸い、「自分の発見」のために「お遍路」を辿られる方も少なくありません。今年、来年と、電気学会の部門大会や国際会議(ICEE)が、四国で開催されるようなので、こういった機会により多くの人が「平賀源内記念館」を訪れる事が期待されます。

  エレキテル神鳴りと共に今に活き  (青史)

 (地球技術研究所代表)

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