日本会議・保守論壇の亀裂広がる

【異論・同論】

辺野古工事中止と安倍政権
〜日本会議・保守論壇の亀裂広がる〜

仲井 富


◆争点の明確な県知事選挙では3連敗〜支持率低下で改憲論も封印

 内外ともに強権的な安倍カラーで日本政治を壟断しているかに見えるが、安倍政権の基盤は弱点が多い。

 一つは今回の安保法案強行によって、改憲派からも憲法違反との抗議が起こり、保守派も含めた安保法案反対闘争にひろがった。ここ二カ月間で各紙の世論調査では支持率も低下傾向で、女性の支持率が極端に低いことも注目に値する。安倍首相は3月13日の自民党大会で、国会答弁で再三意欲を示した憲法改正には一切触れず、夏の参院選に向けてアベノミクスの「成果」を強調した。これまでも選挙前には経済対策を中心に訴え、選挙後に集団的自衛権の行使容認や安全保障法制など肝いりの政策を一気に進める手法を繰り返してきた。改憲論を正面から掲げるのは不利とわかったからだ。

 二つ目には、争点が明確な一人区では負け続けていることだ。沖縄の地方区では、2007年以来辺野古反対の候補者が三連勝だ。ただ2010年辺野古反対で当選した島尻は180度転換して辺野古支持で大臣になった。2014年の滋賀県知事選、沖縄県知事選に敗北、2015年1月の佐賀県知事選挙では、農協の推す山口氏が自民支持の候補を破って知事に当選した。昨年の福島県知事選、埼玉県知事選の不戦敗け、4月の衆院京都補選など不戦敗けを選択しているのは、その弱さを菅官房長官が自覚し、政権へのダメージを最小限に抑えることに徹しているからだ。

 三つ目に、沖縄参議選対策だ。確かに宜野湾市長選挙では自公中央地方の総動員で勝利したが、あの「歯舞色丹(はぼまいしこたん」が読めなかった島尻当選のめどは立っていない。沖縄ではすでにカレンダー配布を公職選挙法違反で告発され、安保法賛成議員の落選運動第一号に指定されている。安倍政権の「辺野古訴訟取り下げ一時休戦」は、争点をぼかして「話し合い中」という一時しのぎで参院選を逃げ切りたい、ということにすぎない。全く政治に素人の沖縄出身のタレント候補を比例区で真っ先に公認したのも沖縄の参院選地方区の島尻当選を勝ち取るための戦術にすぎない。
 おまけに最大の支持基盤である日本会議が日韓慰安婦合意を受けて分裂状態になっている。安倍政権の売り物の「戦後レジームからの脱却」というスローガンが偽物であったことが、従来の支持基盤であった保守右翼陣営に広く認識された。安保法案も改憲なくしては許されないと保守本流の学者、政治家などから強く指弾された。さらにアメリカ側の強い要請によって「戦後70年談話」も長たらしく言葉は連ねたが結局は、村山談話の「お詫び」に追随した。

 極め付きは昨年12月の、これもアメリカ側の日韓協力の要請に応えて「歴史的な合意」に至った。マスコミの多くは無視したが、12月末の国会周辺は、安保法案や辺野古反対デモに変って、日韓合意を批判する右翼陣営が宣伝カーを連ねて「売国の日韓合意反対」の抗議行動を自民党本部や首相官邸に突きつけた。8月の安倍談話、12月の日韓合意は、ともに安倍支持の保守右翼陣営分裂のきっかけを作ったのである。

 桜井よし子は、強硬右派をもって任じているが、「安倍談話と日韓合意は政治的な勝利」などと「評価」して右翼論壇から厳しい批判を浴びている。『月刊日本』誌上で「櫻井よしこよ保守派を名乗る勿れ」と言う桜井批判特集まで組まれた。(『月刊日本』2月号)同誌上では以下のように言う。

——桜井よし子氏はかつて河野談話について述べた。「河野談話という日本政府の正式談話を取り消さない限り、私たちはありとあらゆる国際社会の非難を浴び続ける。正確な事実を発信してたとえ幾年かかっても河野談話を潰さなければならない。」とすれば、桜井氏は安倍首相を批判しなければ辻褄が合わないはずだ。安倍総理は河野談話継承を明言し、慰安婦問題についての政府責任を認め、昨年末には河野談話とほとんど同内容の日韓合意を発表したからである。

 ところが、桜井氏は今回の合意内容について不満を示しつつも、この合意は国際世論から評価されており外交的には大成功だったとして、安倍総理の決断を高く評価しているのである。端的に言って桜井氏の言論には一貫性がない。それにもかかわらず、桜井氏は論壇で大きな影響力を持っている。桜井氏を批判せず野放しにしてきた我々言論人の責任である。「桜井よし子大批判」を組む所以である。——

 以下は安倍及び日本会議の政策ブレーンである中西輝政京都大名誉教授と藤岡信勝拓殖大教授の、安倍談話及び日韓合意への批判である。雑誌『正論』と『WiLL』に掲載されたものだ。右翼論壇はこういう安倍批判を公然と行うと同時に櫻井よしこの日韓合意賛成も載せる。
 そういう意味ではまだ健全と言えるかもしれない。かつての安保自衛隊容認で自社さ連立政権参加の時も、民主党政権が辺野古、消費税、ダム中止などのマニフェストを次々と投げ捨てて行った時も、土井議長、村山首相、菅首相、野田首相を民主支持の左翼論壇の学者知識人で公然と批判をした者はいない。

 かくして護憲社会党は消滅、民主党も20年の歴史を終えた。当然だろう。「政権に着いただけでいい」という安易な同族意識が、無党派保守リベラルを含む3300万人余(09年総選挙選挙区得票)の支持者の離反を招いた。そのことへの痛切な総括なしの安易な「ムラ意識」が、今日の安倍政権の存在を許容しているのだ。

◆安倍談話は戦後民主主義まる出しの歴史認識〜中西輝政京都大名誉教授

 『正論』2015年11月号の対談で、21世紀懇談会の委員を務めた中西輝政京都大名誉教授が内情を暴露した。(『正論』11月号・歴史家のW巨頭対談「安倍談話懇談会」驚愕の内幕と歴史問題のこれから:伊藤隆・中西輝政)

 中西はこう述べている。「安倍に請われて委員に就任したのに、自分の意見は一顧だにされない。案文を作成したとされる北岡伸一座長代理と外務省に操られた事務局が「侵略戦争論」を主導した」と痛烈な批判を繰り広げた。中西は長年にわたり、安倍の枢要なブレーンだった。

 保守の団結を旗印として安倍が会長に就任した保守系議員の超党派議員連盟「創生『日本』」の政策立案にも深く関与した。さらに日本最大の保守系団体「日本会議」の理論的な支柱である。日本会議は神社本庁など神道系の団体や保守系の文化人、旧軍関係者らで構成する。

 中西は言う。「誇りある日本をつくるためには『戦後レジーム』から脱却しなければならない。自分たちで憲法を書いていく精神こそが明日の時代を切り開くという演説を創生『日本』の会長として訴えたのは安倍首相だった。(2010年10月4日)」。街頭演説から5年の歳月が流れ安倍首相は変質した。「戦後レジームからの脱却」というフレーズは封印され、憲法改正はお題目と化した。安倍は靖国参拝も、再登板後すぐ再開したが、オバマ政権が「失望」を表明すると参拝も凍結した。

 中西は対談の最後に以下のように述べている。「安倍談話がうたう戦後民主主義まる出しの歴史認識のままで果たして憲法改正ができるのか、という懸念がある。多少厳密にいえば、安倍談話の歴史観は、力の均衡である集団的自衛権によって日米同盟の力を高めて、その抑止力によって国民の安全とアジアの平和を守るという安保法制の考え方とは相いれません。やはり歴史問題で自らの立場を堂々と打ち出していく気概がなければ、抑止力とバランス・オブ・パワーに基づく安全保障体制は構築できません。私は先に憲法改正だと思う」。

◆「亡国の七つの大罪」アメリカに脅かされた日韓合意〜藤岡信勝拓殖大教授

 次いで安倍支持勢力が首相官邸、自民党本部までデモや抗議申し入れ行動が相次いだ昨年12月の日韓慰安婦合意に関して、安倍ブレーンの藤岡信勝拓殖大教授が「「亡国の大罪」という七つの理由」(『WiLL』2016年3月号)で厳しく批判した。冒頭、藤岡は言う。「12月28日の、従軍慰安婦問題についての合意は、私たちの祖先の名誉を深く傷つける嘘の歴史をまるで史実かのように扱ったもので、国家が絶対に認めてはいけない一線を越えた亡国の大罪である。以下、合意内容の問題点を七点にわたって論じる」としている。

 冒頭に「軍の関与」の悪意。
 「合意内容の最大の問題は、虚偽の歴史をもとに祖先の名誉を踏みにじったことである。岸田外相の発表の出だしを読んでみよう。
《慰安婦問題は軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している》
 ここで第一に問題にすべきは、「軍の関与の下に」という言葉である。わざわざこのいわくつきの表現を冒頭に持ってきたところに、この原稿を書いた人物の日本に対する底知れぬ悪意を感じる。なぜなら、「軍の関与」という表現こそ、朝日新聞が慰安婦問題を捏造するために操った言葉のトリックそのものだったからである。

 一九九二年一月十一日付の朝日新聞は、一面トップに大きなスペースを取って、慰安婦問題に火を点けるキャンペーン記事を掲載した。その見出しは「慰安所 軍関与示す資料」「防衛庁図書室に旧日本軍の通達・日誌」「〈民間任せ〉政府見解揺らぐ」などというもので、この見出しの言葉を追っていくと、軍の慰安所は民間任せだったと答弁していた政府の見解を揺るがす資料の大発見があり、それが「軍関与示す資料」だった、という筋書きになっている。

 あたかも、政府がこの事実をひた隠しにしていたかのように読者は印象操作される。朝日新聞を読んでいる人は、すでに吉田清治の慰安婦奴隷狩りの記事に接しているので、つまりは慰安婦の「強制連行」に軍が「関与」していたというイメージが読者のなかで合成される仕掛けになっているのである。

 「軍の関与」は、一九九三年の河野談話に引き継がれた。悪辣な朝日新聞の謀略用語を政府が取り入れたのである。河野談話ではこうなっている。
 「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」。ここで読者は当然、「あること」に気付く。そう、この一文は、そっくり今回の外相発表に引き継がれているではないか。今回の日韓合意とは、河野談話を踏襲し、一部再現したものなのである。しかも、その罪深さは河野談話にも劣らないほどだ。なぜなら、河野談話の頃は日本国民のほとんどが騙されていた時期である。それから二十三年が経ち、二年前には朝日新聞が虚報を認めて記事を取り消すという大事件があった。この朝日の落城をものともせず、あたかもそんなことはなかったかのようなふりをして、岸田発表は朝日の捏造の手口をそのまま踏襲したのである。

 では日本軍は実際には、慰安所の運営にどのように「関与」していたのだろうか。もとは軍の需要に発し、軍が業者に営業を許可することで慰安所の設置・経営は可能になったのだから、軍が関与しているのは当たり前のことである。軍は慰安所の営業の規則の制定、料金システムの作成、慰安婦の衛生検査などの形で関与した。しかしそのうえで、慰安所を経営するのは業者であり、軍の側の将兵は慰安所のお客の立場だったのである。したがって軍の関与とは、業者が慰安婦の女性に対する過酷な労働条件を一方的に強要することから女性を守るという意味であった。」

◇アメリカから脅されても、国家の名誉を取引材料にしてはならない
 以下は略するが、藤岡は最後に止めを刺している。
 「安倍政権は多くの国民の期待を受けて誕生した。しかし昨年七月、「明治日本の産業革命遺産」世界遺産登録では「強制労働」を認める大失態を犯した。八月の「安倍談話」では事実上、日本の侵略を認める文言を世界に発信した。私はそれでも、安倍談話を政権維持のためにやむを得ないこととして受け止めていた。十月には、「南京大虐殺」がユネスコの世界記憶遺産に登録された。そして極め付けが、今回の日韓合意である。これによって安倍政権は、日本の誇りの根幹にかかわる、国家として絶対に越えてはいけない最後の一線を越えてしまった。たとえ安全保障の問題でアメリカから脅されたとしても、国家の名誉を取引材料にしてはいけない。それは国家の自己否定になるからである。」

 (筆者はオルタ編集委員)


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