【コラム】
酔生夢死

日本語弁論大会でみた中国学生の意識

 「日本の大学に留学中、仲の良い女の子と手をつないで歩こうとしたら、手を振りほどかれました。中国では女の子同士が手をつなぐのは普通です。嫌われたのかなあとしばらく悩みましたが、思い切って聞いてみると、日本で手をつなぐのは異性の恋人同士が多いと言われ、誤解が解けました」

 黒の「リクルートスーツ」を着た中国女子大生が、身振り手振りを交え表情豊かに日本での経験を話す。マイクの調子が悪く時々音声が途切れたけれど、それにもめげず3分スピーチを終えた。10月半ばの土曜日、中国山東省日照市にある曲阜師範大学で行われた「山東省大学生日本語弁論大会」の一幕。
 この女子大生のテーマは「中日関係」。両国には文化・習慣・意識の差はあるが、誤解や違いを認め合って付き合えば「良い関係が築ける」というのが結論だった。決勝に進出したのは、山東省内15大学の31人。筆者も6名の日本の大学教員らと共に審査員を務めた。

 テーマは自由に選べるわけではない。①中日関係、②私と伝統文化、③挑戦したいこと、④面子と義理、⑤心に刻まれた風景―の5テーマのうち一つが、「くじ引き」で出場者に直前に割り振られる。だからスピーチは、即興で高度な日本語能力が試される。

 日本に関心を抱くきっかけは、アニメなど映像を通したサブカルチャーという学生が多い。中には「落語が大好き。スピーディで癒される」「将来日本に留学し、日本でプロのTVアナウンサーになる」という学生も。関西出身の男性アイドルグループ「関ジャニ∞」の熱狂的ファンという女子大生もいた。

 全員がそつなく終えたわけではない。なかなか言葉が出ずに、途中でスピーチを放棄した学生。論旨が一貫しない者や、日本語の誤用が目立つ学生も少なくなかった。突然テーマを与えられ、3分で完結するスピーチをするのは母国語だって簡単ではない。
 優勝したのは、日本のホームステイ先で、居間に「防災バッグ」が置かれ、転倒防止器具で家具が固定されているのを見て、日本では防災意識が末端まで徹底していることを知り、中国でも防災意識の向上が必要と主張した男子学生。冒頭の女子学生は2位だった。

 曲阜師範大学は1955年に設立された山東省の重点大学。名前の通り本校は孔子の故郷である山東省曲阜にある。コンテストが行われた沿海部の日照市のキャンパスは、2002年に完成した。
 大会を組織した同大の袁広偉・翻訳学院教授は「中国の大学統一入試は、選択科目で独、仏、伊などと並んで日本語でも受験できます。日本語を選ぶ高校生が増えているため、来年は高校生の日本語スピーチ大会を開きたい」と話す。「内向き」と言われ久しい日本の高校生も外国語スピーチに挑戦してみてはどうか。

画像の説明
  弁論大会の表彰式。左から順に1位~4位の学生。

 (共同通信客員論説委員)

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