日比関係に大きな変化

【北から南から】フィリピンから(2)

日比関係に大きな変化

麻生 雍一郎


 日本とフィリピンの関係が政府開発援助(ODA)をテコにした経済中心型から安全保障、防災、教育、環境などを含めた多角的、総合的な関係へと変貌してきた。2010年代になってアキノ大統領、安倍首相が政権を担当し、両首脳が頻繁に接触を重ねてきた影響も大きい。昨年だけでも東京、ミャンマーで会談、北京でも接触した。一昨年から合わせると6回も会っている。特に目立つのが政治、安全保障面での連携だ。6月、東京での首脳会談でアキノ大統領は南シナ海の情勢について詳しく説明。安倍首相は「力による威嚇は許されない」と、国際法に基づいて平和的解決をめざす、とするフィリピンの外交政策を支持した。フィリピンと米国が合意した防衛協定についても歓迎する意向を表明した。

 中国の海洋進出は一段と活発化している。フィリピン大統領府によると、南沙諸島のブルゴス、カルデロン礁では滑走路、港湾施設、大規模建造物がすでに完成したという。フィリピン外務省は今月(3月)12日「域内に緊張を生むだけでなく、自然環境に修復できない損害を与える」とし、「領有権問題は平和的な方法で解決しなければならない」と改めて中国に自制を求めた。マヌエル・ロペス駐日フィリピン大使は「中国は南シナ海の膨大な海域で領有権を主張し、いわゆる9段線の主張では海域は194万平方キロ、南シナ海の70%に及び、自らの沿岸から870海里、我が国のパラワン島の50海里内に入り込んでいる」と明らかな国連海洋法条約違反と指摘した。

 ミスチーフ礁、スカボロー礁の占拠でも交渉は進まず、この海域でフィリピン漁船は操業できずにいるという。フィリピン政府は国連海洋法条約に基づきハーグの仲裁裁判所に提訴、国際社会へもアピールしているが、中国は2国間の問題であり、国際司法の場で争うべきではないとの立場だ。ただ、安倍首相がフィリピンの立場に理解を示し、支持を表明したことは国際社会へも一定の影響力を及ぼす可能性がある。

 近海への中国の進出に関連してフィリピン国内では、かってスービック基地などに駐留していた米軍が撤退した影響が大きい、として再駐留を求める声がある。オバマ米大統領はマニラで行ったアキノ大統領との米比首脳会談でフィリピンとの防衛協定に合意した。米国の関与が米軍再駐留、基地復活にまでつながるのかどうか。ロペス駐日大使は「合同演習や米軍の一時滞在で基地の復活ではない」としながらも「(米国との防衛協定が)南シナ海の安定に役立てばいい。フィリピン軍の士気も高まっている」と語った。日本から巡視艇10隻の買い入れも決まったが、あくまで沿岸警備の一環、と説明している。

 防災、運輸・交通、環境、教育面でも日比関係に大きな変化が出て来た。セブ市のマイケル・ラマ市長は3月14日から訪日した。仙台市で開かれた国連防災世界会議に出席、ともに大きな地震に見舞われ、被害を受けた市として地震や津波の予知、発生時の対応など防災全般にわたる情報交換や協力強化を話し合った。国連防災世界会議には安倍首相も出席、日本の知見と技術を生かして災害復旧の人材育成などに協力するとして、途上国防災へ4年間で40億ドルの支援を表明した。

 安倍首相は昨年11月の日比首脳会談で運輸・交通基盤整備への200億円の円借款供与を伝えた。マニラ首都圏の交通渋滞緩和のため4か所の立体交差道路の建設、また、ミンダナオ島のカガヤン・デロ川の洪水被害の軽減へ向け堤防建設、橋梁改良、避難道のかさ上げなどへ協力する。環境面では自治体間の協力も進んでいる。セブ市はゴミ収集、分別、工場廃液の浄化などで北九州市と横浜市が大きな貢献をしている、として2月の市制施行78周年の記念式典の席上、両市への表彰を行った。

 中国、韓国では歴史認識の問題が日本との関係を冷え込ませている。太平洋戦争ではフィリピンでも多くの犠牲者を出した。その数100万から110万人にのぼると言われるが、ロペス駐日大使は「フィリピンを巻き込んだ戦争、(その象徴の)バターン半島でアキノ大統領は、フィリピンは米国と日本以上の友人を持ったことはない、と言った。我が国の経済成長、台風被害への緊急援助、JICA,自衛隊の働きなど日本と日本人がしてくれたことへ多くのフィリピン国民は感謝している」と語り、対日歴史問題が政治問題化することはない、との認識を示した。こうしたフィリピン側の親日的な対応も日比関係の輪を広げる要因になっているようだ。

 フィリピン経済が年6−7%の高成長の軌道にのったことは前回、ふれた。マニラでもセブでも町を歩けば、大きなビルに米国の金融会社の名前が刻まれ、コールセンターとして機能しているのを実感する。民間企業だけではない。米国の政府機関、内国歳入庁(IRS=国税庁)までがマニラをコールセンターとして活用している。アメリカに住み厚生年金税を納めた日本人は、以前は滞在が10年以上でないと年金受給資格が取れなかったが、いまでは短期の滞在でも、その間、厚生年金税を納めた者は年金が受給できるようになった。IRSが日本人の受給申請申し込みを審査し、支払い決定までの実務を行っているのはワシントンではない。マニラでフィリピン人のスタッフを雇用して行っているのだ。

 フィリピンの公用語は英語とタガログ語だ。国民のほとんどが英語を普通に話し、アメリカの大学に留学、大学院でMBAを取得して帰る者も多い。そうした人材を雇えば、アメリカの半分から3分の1のコストで済むという。コールセンターとしては一時、インドが注目されたが、私の耳にはフィリピン人の話す英語の方がインド人の英語よりずっと分かりやすい。発音にクセがない。

 最近、これに注目したのが日本の英語学校、英語塾だ。セブ地域だけで20校を超える学校・塾が進出し、大学生やサラリーマンが夏休みを利用できる7、8月は5000人から6000人が来ていると在フィリピン日本国大使館セブ駐在官事務所では見ている。マニラ新聞セブ支局にも時々、そうした学生がふらりと立ち寄ったりする。先週来たS君は今月、大学を卒業、楽天に就職が内定したのはいいが、「会議もコミュニケーションも英語といわれ、あわてて1か月の速習を受けにきました」という。25万円の経費がかかったが、「フィリピン人の先生と毎日7時間のマン・ツー・マン会話を続け、かなり話せるようになりました」と語っていた。
 フィリピンは今年、アジア太平洋経済閣僚会議(APEC)の議長国を務める。安倍首相はじめ麻生財務相、岸田外相、宮沢経産相ら多数の閣僚と官僚が訪れることになりそうだ。人口は1億を超え、平均年齢23歳。日本とは対蹠的なピラミッド型の人口構成で、政策よろしきを得れば、将来の長期的な発展が見込める。日本にとって今後の関係が最も期待される国の一つになろうとしている。

 (筆者は日刊マニラ新聞セブ支局長)


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