日露平和条約締結の活路―二島プラス共同利用で解決可能

【投稿】

「2島+共同利用」の意味するもの

望月 喜市


◆ 1.世界が抱える深刻な諸問題

 11月13日、厳戒態勢下のパリで「イスラム国」が6か所で同時多発テロを実行し、120人以上の死者を出す大惨事になった。20か国・地域(G20)首脳会合は15日午後、トルコ南部のアンタルヤで開幕、テロ対策について集中的議論した。米ロ首脳は35分間会談、「イスラム国」絶滅に向け、シリア情勢について意見を交換した。その他、気候変動について議論、11月末パリで開かれるCOP21の成功に向け強いメッセージを出す。その後の公式討議では世界経済問題が協議された。
 テロ現象の根は深い。ガンのように外科手術で対処するだけでなく、移転・再発防止の長期的対策も不可欠である。地球温暖化現象も地球的規模の対策なしには、人類は滅亡の危機に直面する。要するに世界的規模の危機への対処のため各国は多忙なのだ。

◆ 2.マンネリ化する北方領土対策

 一方、日ロ間の北方領土問題は、70年にわたって解決のメドは見通せないままだ。11月14日、島尻安伊子沖縄北方担当相は根室市を訪れ、「島々を見て(4島の)帰属の問題を一日も早く解決したいという思いが強くなった」と強調した。担当相が交替するたびに視察に訪れ、記者会見で早期解決に傾注すると述べ、元島民は「北方対策に力を入れて欲しい」と要望するというパターンがすっかり定着した。
 今回のG20では、日ロ両主脳の会合が約30分行われ、プーチン訪日は来年の適当な時期に実現する、プーチン氏は経済協力の拡大を希望すると述べたという。会合のたびに、北方領土問題が持ち出され、国際的に重要なテーマを話し合う時間が削減されている。

◆ 3.パノフ氏の強い提言

 こうした問題にしびれを切らしたように、パノフ元駐日大使(71歳)は、11月3日、対日交渉「意味なし」と強いメッセージを発表した。

 <【モスクワ時事】ロシアの知日派、パノフ元駐日大使(71)は11月3日、時事通信のインタビューに応じ、10月に再開した北方領土問題などをめぐる外務次官級協議について「双方が立場を主張するだけなら、続ける意味はない」と評した。また、プーチン大統領訪日の実現自体を疑問視。日ロ関係が停滞して成果が期待できないまま行われれば、「関係をかえって悪化させる」と警告した。2国間関係については、「多くの人が現在の日ロ関係をソ連崩壊後で最悪と考えている。国際問題での双方の立場は共通するどころか対立している。ウクライナでも、シリアでもだ。・・・平和条約交渉に必要なのは、友好・善隣関係。日本が(制裁など)敵視政策を取り続ける限り、交渉は非現実的だ。交渉は双方に解決策を見いだす意欲があるときに行われるが、日ロ双方ともそれがない。これは交渉と呼べない。双方が再び立場を主張するために交渉する意味はない。・・・ソ連は(1956年の日ソ共同宣言で)既に2島(返還の約束)という妥協をした。日本の不満は(本来)ないはずだ。2001年に大統領は共同宣言に基づく交渉を提案したが、日本は拒否。日本は現実的に協議する意欲がなく、妥協の用意がない。だからロシアは、問題は解決済みという立場だ。(制裁や領土問題で)日本が立場を改めない限り、ロシアは日本に何も期待しない」。>(A.パノフ氏は44年モスクワ生まれ。68年ソ連外務省入り。ソ連・ロシアきっての日本専門家、99〜03年駐日大使。06〜10年外務省外交アカデミー学長。現在はモスクワ国際関係大教授などを務める。:2015/11/04)

◆ 4.では、現在日本はどんな対ロ経済制裁を実施しているのか?

 日本の対ロ制裁過程は次の通りである(東郷和彦『危機の外交』2015年7月を参考)。

・4-1)14年3月18日、クリミア併合に対し、G7の一員として、「ビザ発給手続きの緩和協議の停止、投資や宇宙に関する3つの協定交渉の開始を凍結した(p.218)。

・4-2)14年4月29日「ロシア政府関係者ら23名への査証発給を当面停止する追加制裁を発表した」(p.222)。

・4-3)14年8月5日(14年7月17日マレーシア旅客機撃墜事件があった)「クリミア併合、ウクライナ東部の不安定化に直接関与していると政府が判断した40人、二団体の日本国内の資産凍結と、クリミア産品の輸入を制限する」(p.224)。

・4-4)14年9月24日、9月5日のウクライナの停戦合意以降、ロシアの対応は不十分として9月12日、米欧による追加制裁がおこなわれ、日本もこの流れに乗って9月24日「武器に加え軍事転用が可能な民生品の輸出を制限し、また、ロシア大手のスベルバンク等五行が日本国内で社債・株式を発行することを(禁止した)(p.229)。

◆ 5.安部晋三首相の対ロ領土交渉は成功するか

・5-1)好調だったスタートダッシュ:
 北方領土問題を解決して平和条約を結ぶことは、日露双方にとって半世紀以上に及ぶ積年の夢であり続けている。プーチン大統領もこの願望を再三再四表明している。しかし日本側に長期政権を担う政権が誕生せず、プーチン大統領にしてみれば、腰を落ち着けてじっくり交渉すべき相手かいないという悩みがあった。
 2012年12月の総選挙で自民党が勝利し、第二次安倍普三内閣が誕生した。日本にとり長期の可能性をもつ政権は久しぶりである。安倍氏は、日ロ経済協力の拡大をテコとして半世紀以上にわたる懸案の北方領土問題を解決し、自民党の支持率を引き上げるとともに、平和条約を締結した首相という名声を後世に残したいと考えている。

 その第一歩として安部氏は13年4月28日〜30日までロシアを訪問、プーチン大統領と会談し、「日ロ・パートナシップに関する共同声明」を採択した。安倍首相に同行した民間の経済訪問団は、ロシア側の関心が高い医療、省エネ、農業・食品分野などの大企業を中心に約50社、120人に及ぶ民間会社の経営トップクラスから構成された。
 「日ロ・パートナシップに関する共同声明」についてはこちら:
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000004183.pdf

 2014年2月7日、ロシアの保養地ソチで冬季オリンピックが開始された。この開会式にはG7の首脳のうちただ1人安倍首相が出席し、プーチン氏と並んで観戦、親密ぶりをアピールした(この時は、2月7日東京での「北方領土の日」に主賓として挨拶し、その日のうちに政府特別機でソチに飛ぶという早業を行った)。

・5-2)急坂を転がり落ちた対ロ外交:
 安部晋三首相は、2015年4月29日訪米先の米国上下両院議会で演説を行った。この中で安部氏は、こともあろうが、日本での国会審議を無視し、安保法制の成立を米国に対し「この夏までに成立させる」と約束した。同時に「日米防衛協力の新しいガイドライン」について日米の関係者が協議していると演説のなかで報告したのである。この姿勢は、米国への最大限の軍事協力であり政治的従属以外の何物でもない。対ロ領土交渉でもこの姿勢が貫かれている。安倍—プーチンの蜜月ぶりは、2014年2月のソチ五輪をピークにして、2015年4月の訪米を契機に(すでに始まっていた)ウクライナ騒乱の影響を受け、G7の一員としての対ロ経済制裁に参加することで、坂道を転がるように悪化していった。今やロシアをはじめ諸外国の首脳は、安保法制の下での日本を、米国の軍事的従属国と見るようになっている。

◆ 6.日本の公式立場は、4島返還要求である。

 かつては「4島一括返還」であったが、現在は「2島先行返還+残り2島継続審議」もしくは、「日本の潜在主権を認めるなら、施政権返還は後日でよい」(沖縄方式)になっているが、ロシア側は「56年日ソ共同宣言」一本で「2島返還で終わり」との態度を崩していない。

◆ 7.日本側の4島要求を支えている論拠は、サ条約で放棄した島の範囲には、「国後・択捉は入っていない」という主張である。

 というのは、1855年2月7日「日露通好条約」の<第二条で国境は択捉島と得撫(ウルップ)島の間とし、得撫島より北に連なる千島列島はロシア領とする・・・」や1875年「樺太千島交換条約」の第二条も同様に、占守(シュムシュ)島から得撫島なる千島列島を日本に譲ると書いていることを根拠に、千島列島とは、占守島から得撫島なる列島のことだから、サ条約で千島は放棄したが、千島には択捉島、国後島は入っていないのだという論理を展開している。和田氏は、綿密な文献考証を行い千島列島とは色丹島から最北端の占守(シュムシュ)島に至る島々を指すと述べ、日本政府の解釈の間違いを指摘している(外務省は和田氏の指摘に対し全く反論していな)。

注: 日本政府は非公開としているが、1946年11月作成の「千島列島・歯舞・色丹」は、1996年にオーストラリア公文書館で発見された。この資料によると、日本政府は、国後・択捉をクリール列島に含めている。1956年以降、日本政府は、北方領土はクリール列島に含まれないと説明しているが、発見された資料によれば、日本政府の説明は完全な虚偽であることが分かる。

◆ 8.平和条約締結を妨害する最大の障害は、日本側がいまだに4島返還を要求し続けている点にある。

 もし、4島要求を引き下げ、サ条約やモスクワ宣言で日本に課せられた両国間の約束の線で妥協すれば、平和条約は,明日にも締結可能であると思う。締結を妨げている日本の4島返還要求の日本側の論拠は、次の4つである。
 (1)日ソ中立条約の違反、(2)不法占拠論、(3)固有の領土と特措法改定(4)シベリア抑留。これについては、紙幅の関係で省略する。

◆ 9.領土問題はどうしたら解決出来るのだろうか。

 それは日本が4島要求の旗をおろし、「2島プラスα」を提案すれば明日にでも解決する。その提案の具体例は、次に示す「東郷・パノフ共同提案」である。これについて、朝日新聞は2013年7月19日付けで次のように報じた。

 <北方領土問題交渉に直接携わった経験を持つ日ロ両国の元外交官が、問題解決に向けた提言を共同論文で発表した。7月18日付けのロシア「独立新聞」に掲載された。歯舞、色丹2島の日本への引き渡しの準備を進める一方で、国後、択捉2島については領有権問題を当面棚上げし、両国がともに経済活動ができる特区にするとしている>。
 この論文の原文と邦訳については、以下をご覧ください。
 https://drive.google.com/file/d/0BzAwTp2o6qi8Q1B5WDZIYVBJeGM/view?usp=sharing

◆ 10.平和条約締結後の明るい展望と厳しい現実

 平和条約が締結されると、根室地域の漁獲領域が拡大するとともに、4島との自由貿易が可能になり、根室は補助金なしで経済自立化の可能性が開ける。日本の民間資本も、島へのインフラ投資、鉱物採掘への参入、島観光業の開設、共同養殖、共同漁業や共同海洋牧場の展望が広がる。地震や火山、動植物相などに関する日ロ共同研究も実現するかもしれない。正常化した隣国関係は、第三国なみの短期ビザの相互免除が行われ、観光客や商人の日ロ交流は一挙に拡大しよう。70年間取れなかったトゲも取れ、お互いに何とも言えない清々した気分に浸ることだろう。

 しかし、締結実現には厳しい現実が横たわっている。ロシアにとって北方4島の価値が日ごとに高まっている。気候温暖化により、北極圏の海底石油・ガス採掘条件が改善し、同時に北極航路の通年航行の可能性が高まる。千島列島はオホーツクから太平洋に抜ける海の交通の要衝として、経済的・軍事的価値が増大している。一方、日本の対ロ接近は米国のオバマ大統領によって強くけん制されている。しかし、ピンチこそチャンスだ。日本が対ロ経済制裁解除のイニシャチブをとれば、対ロ関係は一気に改善される。安倍内閣は対ロ関係でも改善にむけ積極的行動を見せて欲しいもの

 (筆者は北海道大学名誉教授)
 (連絡先: du7k-mczk@asahi-net.or.jp )


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧