朴槿恵大統領の誕生とこれからの韓国

■朴槿恵大統領の誕生とこれからの韓国      丸山 茂樹

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◇1.はじめに―朴槿恵時代の始まり―

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2012年12月19日の韓国大統領選挙で勝利したセヌリ党の朴槿恵女史が2013年2
月25日に大統領に就任する。その日から2018年2月までの5年間、韓国は朴槿恵時
代となる。この原稿は2月初旬に書いているので大統領就任演説を紹介すること
はできないが、これまでの選挙公約や発言から大凡の方向は明瞭だ。

本論では韓国と東アジアの今後を展望するために、最初にこの政権が誕生した
政治的・社会的な背景と韓国の野党(中道左派・左派)の状況について述べる。
そして今後の韓国を左右するだろう社会運動(労働運動、市民運動、生協運動な
ど)の動向についても私見を述べることにしたい。

本論を入る前に少し自己紹介をさせて頂きたい。私は長年、生活クラブ生協連
合会で国際担当として働いてきたが、1999年から2001年の足かけ3年、金大中大
統領の時代にソウル大学に留学する機会を得た。聖公会大学大学院では協同組合
論を講義する機会もあった。

また昨年(2012年)は農協や生協を中心に組織されている岩手、山形、青森の
各県のTPP反対運動のための調査・視察団、計4回約100名のコーディネーター
として、韓国の農協、生協、医療生協、市民団体、韓米中FTA阻止汎国民運動
本部、法律家団体などを訪問した。本論はその時に聞いた話や頂いた資料に負う
所大である。煩雑になるのでいちいち具体的なお名前や資料出典は省略するが諸
団体、諸氏に感謝申し上げたい。

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◇2.韓国の光と影・日本の論調の変化

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数年前までの日本の新聞論調を思い起こしてみよう。「韓国の『サムソン』や
『現代』などは隆々と発展しているのに、日本はパナソニック、ソニーなど代表
的な企業が青息吐息だ。早くTPPに参加して“第三の開国”をしないと立ち遅
れてしまう」という社説が多かった。

日本の韓国通やジャーナリストは、これが物事の反面に過ぎず、韓国には暗い
影の部分があることを知っていながら見過ごした。日本の民主党はこのマスコミ
論調に踊らされ、TPPや消費税の増税を推し進めて党分裂を引き起こし、参・
衆両院の選挙で惨敗を喫した。

韓国を訪問した調査・視察団は韓国の人々から異口同音に「韓米FTAはごく
一部の財閥と輸出企業を潤して庶民には苦痛をもたらす。国の主権すら危うい。
影響は農業や畜産業だけではない。皆さんは絶対に韓国の真似をしてほしくない」
という声を聴いた。

ところで2012年4月の韓国の国会議員選挙から12月の大統領選挙にかけて、こ
れまでの論調は徐々にではあるが変化したようだ。韓国の2つの大きな選挙を巡
る情勢を伝えるためには韓国の政治的・社会的・経済的な争点を報道しない訳に
はいかない。実は韓国政治の最大の争点は、日本よりも酷い格差社会化問題であ
る。隆々と発展しているのはごく一部の財閥系企業で、その恩恵は下請け企業に
も地域経済にも及んでいない。

これまで伝えなかった韓国の暗い影の部分がやっと明るみに引き出されてきた。
その内容は、非正規労働者が日本よりもはるかに多く、年金・健康保険・雇用保
険のない人々が40%に達していること。就職できない学生が留年を続け、父母の
教育費負担は今や限界を超えたこと等々。

「韓国の強さは本物か―輸出攻勢が生んだ国内経済のひずみ」(『週刊東洋経
済』2012年12月15日号)は端的な例である。ここでは<ウォン安に加え国家あげ
ての支援を受け、日本企業を蹴散らす韓国企業。だが、その政策がもたらす副作
用に韓国国民の不満は爆発寸前だ>として、以下はごく一部であるが次のような
数字を指摘している。

●自殺率は最高(OECD加盟国、以下同じ。人口10万人中、日本22.2人、韓国
33.8人)
●高齢者貧困率(65歳以上で可処分所得が中央値の半分以下。日本22%、韓国
45.1%)
●若年就業率(15~24歳の就業者数/人口。日本38.8%、韓国23.1%)
●政府の社会保障支出率(社会保障支出がGDPに占める比率。日本22.4%、韓
国9.4%)
●国民1人当たりGDP(日本3.04万ドル、韓国2.75万ドル)
●学校教育費(公的支出と私費負担の合計の対GDP比。日本5%、韓国7.5%)

これらの数字は韓国が途上国であるからではない。国家予算、政策、人材を一
部企業に集中した政策の結果である事は、政府統計でもマスコミでも検証されて
いる。

後にも述べるが、韓国の財閥の下請け、孫請け企業に対する支配と搾取は悪辣
である。自社以外の他企業との取引を禁止する契約条項、下請けには研究開発の
余地を与えず従属を強いるのは日常茶飯である。中小企業は独自技術の開発の余 裕を与えられず財閥依存が強まる仕組みだ。温厚な人柄で知られる安哲秀ソウル
大学教授でさえ著書で財閥は下請け企業をまるで動物扱いしていると皮肉を込め
て「サムソン動物園」と呼んでいる。

日本では「円高不況」とか「デフレ不況」などという怪しげな言葉が流行して
人々の頭脳に刷り込まれているが、韓国の庶民は「ウォン安不況」で苦しんでい
る。何故ならウォン安によって生活必需品であるガソリン、小麦粉など輸入品が
年々値上がりしてきたからだ。政府の「ウォン安」誘導の金融政策で喜んだのは
輸出企業だけである。日本で普通語にまでなっている「デフレ不況」という言葉
を信じる人はいない。住宅費、教育費の「インフレ」に苦しみ、「デフレ=価格
低下」を望んでやまないのが韓国人の心情である。

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◇3.朴槿恵はなぜ文在寅に勝利できたか?

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さて過去に遡ることになるが大統領選挙でセヌリ党の朴槿恵女史が勝利できた
理由は何であろうか?選挙の結果は下記の通りであった。

☆朴槿恵(セヌリ党)    1577万3218票(51.55%)
☆文在寅(民主統合党)  1468万2632票(48.02%)
☆その他の4候補の計    12万8861票( 0.41%)

与野党の差は108万票余り4%弱。もし2%の有権者が朴槿恵でなく文在寅に投
票していたら逆転しえたという接戦ではあった。左派である統合進歩党(敢えて
云えば日本の共産党に近い存在)の李正姫候補は候補者同士のテレビ討論には参
加したが、投票日の直前に<朴槿恵候補を落選させるために>立候補を辞退して
いる。左翼労働運動出身の金ソヨン、金スンジャン両氏は最後まで戦ったが得票
は零コンマ以下であった。

進歩正義党は野党候補を統一候補に推すとして最初から立候補しなかった。こ
の党は統合進歩党の中の不正行為を批判、政策でも北朝鮮の非民主的体制や核政
策への批判が不明確であるとして脱党した人々が組織した政党で、国会議員は7
名(統合進歩党に残ったのは6名)である。

選挙の前の李明博政権の評判は惨めなものであった。汚職など腐敗、輸出産業
中心の経済政策による中小企業の疲弊、大手土建業を潤すだけで効果の乏しい大
公共事業、ウォン安誘導の金融政策による庶民生活の圧迫など、積極的に評価で
きるものは殆どなかった。それにも拘わらず同じ政党であるセヌリ党の朴槿恵女
史が当選できたのは、彼女が公然と李明博政権を批判し、政権と距離を置くとい
う政治スタンスに立ったからである。

彼女は政権に対し「福祉重視に政策を転換せよ!」「国民の教育費負担を減ら
せ!」「金持ちにはもっと増税せよ!」と主張し、韓米FTAなど自由貿易促進
などの新自由主義政策への批判については「それは盧武鉉政権が推進した政策で
ある。文在寅候補は政権中枢にあってその推進役であった。野党になったからと
言って反対するのはおかしい。変節は政治不信を招くだけだ」と切り返した。

こうして与党への批判を巧みにかわして、政策的争点をぼかすことに成功した。
わが身を政権批判の圏外におき、自分は「大企業も中企業も小企業も全ての韓国人の発展を目指す」「全国民の幸福を目指す」と語り続けたのだ。

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◇4.なぜ野党統一候補の文在寅氏は敗北したか?

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敗因を野党側から見るとどうなるであろうか? 文在寅氏の総括は「自分の力 のなさ」を謝罪するのみで全く中身がない。民主統合党内の論議、統合進歩党内
の論議は「誰それに、どの派に責任がある、云々…」と言った低次元の発言が多
く、論点が錯綜していて絶望感が漂っている。今のところ明快な総括文書はまだ
表れていない。

私見であるが、議論の核心は韓国の進歩的文化人の代表格と目されている白楽
晴氏(ソウル大学名誉教授、季刊雑誌『創作と批評』の創刊者)の最近の著書
『韓国民主化2.0-2013年体制を構想する』(青柳純一訳、岩波書店、2012年6月)
で提案された構想がなぜ挫折したのか?を考えることから始めるべきであろう。

白楽晴氏は、市民派と野党候補の統一を説き、李明博政権批判に止まらず積極
的な朝鮮半島と東アジアの平和構築の政策の必要性を説いた。同氏の懸念の一部
は避けられて、無所属候補と野党の候補者統一は実現した。

一応与野党一騎打ちの争いに漕ぎ着けたのだから。しかし文在寅氏(民主統合
党)の主張は朴槿恵候補と大差がなく、実際には朴槿恵(セヌリ党)からの「貿
易自由化政策推進の過去についての批判」に正面から応えようとせず、(新自由
主義政策からの政策転換=自己批判も語ることなく)大胆な南北平和構築政策を
語ることもなかった。だから格差社会化と闘い、平和構築を願う自発的な市民政
治運動の担い手たちの出番は封じられてしまった。

文在寅氏は、白楽晴氏が批判してやまなかった「李明博批判だけに終始しては
ならない」という諫言を無視してしまった。無所属の安哲秀ソウル大学教授は候
補から降りて文在寅支持を表明したが、それは“権力闘争を嫌悪する人々の心情 ”に応えたからであった。

だが安哲秀支持層の3分の1は朴槿恵に票を投じたという出口調査がある。彼ら
の立場からすれば、相も変らぬ政党がすべてを仕切ろうとする旧弊と不誠実、最
後まで安哲秀に譲らなかったエゴに嫌気がさして政治のアウトサイドに放り出さ
れた思いなのだ。

文在寅、民主統合党、統合進歩党、進歩正義党、緑色党など野党のそれぞれに
は自己の限界と誤りを認め、新たな多数派を形成する戦略と戦術を構築する責任
がある。それは政治的民主主義が一応達成された1990年代以後の20年の韓国の政
治と社会の総括の上に如何なる未来社会を創造するか?を明確にすることに他な
らない。更にその実現のための運動論と組織論の構築と実践である。旧態依然は
許されないのである。

「パイを増やせば人々の欲求を満たすことが出来るであろう」として経済政策 において新自由主義に傾いた金大中・盧武鉉政権の限界を批判的に総括し、強欲
な財閥勢力・国際金融資本勢力・軍事的緊張を煽る右翼や軍部・マスコミ勢力を
孤立させ、彼らの経済的・政治的・社会的な影響力を弱体化・孤立化させる戦略・
戦術こそが必要である。

目下のところ追い詰められ危機的状況下にあるのは政治運動だけではない。労
働運動、農民運動などの再構築内の課題も深刻だ。多数派形成への道を切り拓く
路線の展望なくしての妄動はゆるされない。如何に正義感に燃えた激しい英雄的
な自死をも厭わぬ行動であっても社会運動家はそれへの同情や讃嘆に視野を局限
すべきではない。勝利への道を探求する責任から逃れてはならないのだ。

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◇5.社会運動内部の課題

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ではもう少し視野を広げて政治運動をも包む社会運動に目を向けてみよう。民
主化運動以後の政治と社会を考察するうえで欠かせない幾つかの既に翻訳された 書物がある。

☆川瀬俊治・文京洙編 『ろうそくデモを越えて』(東方出版、2009年10月)
☆秋葉武・他 『危機の時代の市民活動』(東方出版、2012年3月)
☆崔章集著 『民主化以後の韓国民主主義』(岩波書店、2012年1月)
☆曺喜〓(日+公)『朴正熙―動員された近代化』(彩流社、2013年2月)

これらはそれぞれに重要な文献であり、また実践の総括と検証を踏まえた言説
であるから一律に論評することは出来ない。しかし朴槿恵大統領の登場によって
打ちひしがれている韓国の政治運動、社会運動が新たな活路を切り開くうえで欠
かせない示唆を与えている。

まず『ろうそくデモを越えて』は、1990年代までの従来の“民主化運動”には
ない新しい社会運動の登場を事実の分析によって論じている。この本の主人公は
2012年10月のソウル市長選挙で保守党候補を破って当選した朴元淳氏(弁護士、
「参与連帯」元事務所長・「美しい財団」元常務理事・シンクタンク「希望製作
所」元常務理事)である。ここに示されている新しい運動の登場の意義について
は政治運動家や市民運動家たちでさえ十分に理解しているとは言えない。

次に『危機の時代の市民運動』であるが、これには「日韓“社会的企業”最前
線」という副題があり、ソウル市長となった朴元淳氏、日本の反貧困ネットワー
クの湯浅誠氏、歴史家で韓国の社会運動における社会的企業の意義と意味を論じ
た文京洙氏(立命館大学)、日韓の社会運動の架け橋の役割を果たしている桔川
純子氏(日本希望製作所副理事長)などが、社会運動が社会的目的を持った事業
活動にも進出し、市民社会におけるヘゲモニーを発揮しつつある姿をリアルに、
課題や立ちはだかる壁を含めて論じている。ここでは目下急成長を続けている生 協運動への言及はないが社会的企業と協同組合運動とNPOが新しい社会運動の
主たる担い手であることを指摘しておきたい。

『民主化以後の韓国民主主義』は、韓国が政治的に民主化を達成した以後の民
主化とは何を如何に改革することであるか?、新自由主義に敗退して政治運動が
衰退していること、保守的民主主義の限界を正視している。言葉や戦術だけのラ
ジカルではなく、従来の運動から排除されてきたオルタナティブの創造への道の
必要性を論じている。

『朴正熙―動員された近代化』の著者の曺喜〓氏(聖公会大学大学院長)は、
幾つかの世論調査機関によって「韓国の代表的進歩的知識人、社会運動の最も影 響力のある知識人」と呼ばれている論客であるが、前述の朴元淳氏(ソウル市長)
の盟友であり「参与連帯」の初代所長でもある。

韓国における近代化である「開発動員体制」には強圧と同意の組織化に成功し
た両面があり、そのヘゲモニー構成の過程を分析すると共に、「ヘゲモニーの亀
裂」過程が社会運動によってどう生じてきたかを論じ、進歩派・改革派の限界や
課題を明示してその乗り越えを迫っている。

つまり過去の分析に止まらない現在の政治と社会運動の自己改革の必然性とそ
の方向を論じている。A.グラムシの方法論でもあるヘゲモニー論、陣地戦論を
同氏流に駆使しての提言の書である。これらに加えて未だ日本では未訳の安哲秀
氏の『安哲秀の考え』、『安哲秀の挑戦』、『大統領選挙への立候補宣言』等は
政治改革と新しい文明の創造を論じており興味深い。

これらで論じられているのは、一見アカデミックに感じられるかもしれないが、
実は極めて実践的である。というのは、日本ではあまり知られていないが、韓国
の労働運動に大きな影響力を持ってきた民族民主改革を唱えるグループは、上記
の諸論に全く耳を傾けることなく、反独裁の民主化闘争の延長線上に現在の運動
を位置づけようとしてきた。

そのために言葉は革命的であり戦術は激突型であったが、変化した情勢に適応
できないまま後退と孤立を招く結果となった。右翼マスコミに「従北派(北朝
鮮労働党への追随)と呼ばれても正面から反撃すらしない。かような人々を上記
の論者は現状分析と歴史的事実の解明を通じて批判し、新しい戦略を提言してい
るのである。

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◇6.市民政治論争の意味

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では市民運動団体は彼等の過ちを免れて順風満帆なのであろうか? 実は否で
ある。曺喜〓氏や朴元淳氏が元事務所長をしていた“韓国で最も強力で影響力の
ある市民団体”と呼ばれている「参与連帯」は、今回の大統領選挙で「役員は選
挙事務所(韓国ではキャンプと呼ぶ)に出入りしてはならない」という決定をし
て役職員の手足をしばった。その理由は「市民団体は政治を監視するのが使命で あり、当事者になったらその役目を放棄することになる」というものであった。

一見もっともらしいが、朴元淳氏が事務所長として「落薦・落選運動」を展開
した頃とは大きな様変わりである。社会の中で市民が能動的に活動し、ヘゲモニ
ー闘争に参加することこそ市民団体・市民運動の根源的使命である。役員であれ
職員であれ、市民個人の手足を縛ることはあってはならないことである。市民団
体の保守化・官僚化の表れと見ないわけにはゆかない。

もう一つの出来事は、著名な詩人の金芝河氏が選挙の最中に朴槿恵候補と会談
して彼女を支持する声明を出したことへの評価である。かの偉大なる詩人は“変
節”してしまったのか? それとも元々彼の独裁政治批判・民主主義認識は“そ
の程度の水準”であったのか? この報道に接して多くの人が金大中氏の自叙伝
を思い起こしたという。金大中は朴槿恵が父の金大中弾圧に謝罪したことに触れ、
彼女に最大限の賛辞と感謝の意を呈している。

独裁への闘いは1990年代後、全く新しい段階に入ったのだ。政治的民主主義に
続く参加型の経済民主主義を実現する段階になったのである。朴元淳ソウル市長
はそれを『協同組合都市ソウル宣言』としてまとめている。

貧困もかつてのそれとは違い、グルーバル経済の中のオートメ化・大量生産・
大量消費・高齢化時代に特有の新しい貧困層増大に直面している。労働時間の大
幅短縮、人間的な尊厳のある衣食住の保障、尊厳のある仕事の保証、誰もが安心
して生きて行ける社会保障の最低基準を満たしたうえで「競争や自由」を論じる
べきである。有り余る生産力と現代技術はこの主張が何ら不当でも実現不可能で
もないことを示している。

朴槿恵は2007年の大統領選挙に立候補した際には「小さな政府、大きい市場と
いう哲学で経済を回生させる」と言って憚らなかった。小泉純一郎や竹中平蔵を
真似たかのようであった。しかし今回は主張を変えて「大企業に社会的責任を果
たさせるべき、果敢に、しかも断固として法を執行できる政府をつくる」と宣言
している。レーガンやサッチャー流儀では支持を得られぬことを学習したのであ
ろう。彼女のデマゴギーを嘲笑うだけでなくその実現を迫り、逃げを許さぬ政治
運動と社会運動の創造こそが課題なのである。

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◇7.終わりに―李明博の失敗と安倍晋三の二の舞

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最後に、李明博政権が掲げた政策が、実に安倍晋三内閣が掲げた政策に類似し
ている事を指摘しておきたい。李明博大統領は「747政策」を掲げて華々しく
登場した。日本の読者には耳慣れない言葉かもしれないが韓国では誰もが知って
いることだ。年平均7%経済成長の達成。10年以内に1人当たりの国民所得を4万
ドルにする。世界7大経済強国の仲間入りをする…これが『747』の公約であ
った。

その実現のために政府の権力をフルに活用して ①金融政策ではウォン安を推
進して輸出大国になる ②公共事業で大盤振る舞いの4大河川改修事業を実行し
て国土の強大化を図る ③自由貿易政策を更に推進して韓米FTA・韓中FTA
を締結する ④原発の推進のみならず輸出を推進する ⑤これらによって経済成
長路線を軌道に乗せて“経済大統領”としての約束を実現する…であった。

安倍晋三内閣は3段ロケット、即ち「アベノミックス」と称して ①金融緩和
によるデフレの解消 ②公共事業による景気テコ入れと強靭なる国土づくり ③
成長戦略による経済活性化で仕事を増やし国民の所得を増大させると云う。なん
と『747』に似ていることか。李明博の政策と瓜二つと言っても過言ではない。
円高から円安になっても喜ぶのは輸出産業であって苦しむのは庶民である。

公共事業へのテコ入れはゼネコンを喜ばせ自民党の政治基盤を太らせるが国民
には増税が迫ってくる。成長戦略は必ずしも雇用の増大や所得のアップに繋がる
保証はなく多国籍企業のみが果実を手に入れる。即ち李明博大統領の哀れな末路 の轍を歩もうとしているに過ぎない。マスコミは追従報道を慎むべきだ。

ともあれ東アジア情勢は中国の習近平、韓国の朴槿恵、日本の安倍晋三という 保守派が政治権力の牛耳を執る時代を迎えた。これからの4~5年間の困難な情勢
の下、東アジアの市民社会はもっと互いを知り合い、連帯して反撃の道を探らね
ばならない。

(筆者は日本協同組合総合研究所<略称JC総研>、参加型システム研究所・客員研究員)

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