杉花粉症対策の抜本対策

■ 杉花粉症対策の抜本対策             力石 定一

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◆◆(1)選手交替


  スギ人工林において、急傾斜面、屋根筋、水辺のような地盤の弱い箇所では、
スギが浅根性であるため、暴風にたたかれた際に崖崩れを起こす危険がある。こ
のような危険箇所に関しては、普通の間伐をおこなうにとどめ、樹間に常緑広葉
樹のポット苗を捕植し、人工林の枝打ちをおこなう。自然植生である常緑広葉樹
は「隠樹」なので、樹間で我慢強く成長を遂げてゆく。

 次第に成長のスピードをあげ、人工林の樹高を追い抜き、やがて上を覆うよう
になると年間一メートル程度のスピードで伸びる。陽樹の人工林は、枯れて選手
交替となる。このようにして崖崩れをおこさないように注意しながら、任務の引
継ぎがおこなわれることが大事である。人工林を強間伐して自然植生のポット苗
に替えるというような、断絶的な一足飛びは、崖崩れの危険があるから避けるこ
とである。


◆◆(2)間伐実施率100%を達成するための戦略


◆花粉症対策としての効用

 吉野川ビジョン21委員会では、可動堰計画の代替案として、間伐と混合林化に
よる森林保水力の強化策を提示し、治水効果に関して費用便益の分析を行った。
 
  しかしながら、間伐による森林保水力強化計画のメリットは治水以外にも多岐
に渡る。他方の可動堰計画の場合、治水以外の側面では、吉野川の水質悪化など
デメリットばかりが多い。これは今後の課題となろうが、森林保水力強化計画と
可動堰計画の治水以外のメリットとデメリットを一つ一つ検討して、より総合的
な見地から費用便益分析をする必要があろう。

 それによって、公的介入による強間伐と混合林化計画に関して、広範な納税者
の合意を得ることが可能になるであろう。例えば、間伐の治水以外の効用として
非常に大きなものは、花粉症対策としての効用である。

 日本のスギ人工林は役1,000万haあるが、周知のように、安い北方形の外材に
対抗できなくて採算にあわず、間伐などの手入れはされないで放置される傾向が
著しい。公的見地から補助金を投入しても、間伐実施率は50%程度という状況で
ある。これでは保水力の増加も望めず、水害を防げないことを指摘し、実施率を
100%に引き上げる公的介入が必要であると、私たちは主張してきた。
 
  水害問題に加え、間伐実施率が低いことにより、花粉症の被害が拡大している
という大問題がある。煙霧のような花粉が湧き起こり、風に舞って数百キロメー
トルのかなたにまで飛んでいき、二月から五月初旬にかけて、日本の総人口の大
きな割合をスギ花粉症に悩ませる。これによる生産性の低下と医療費負担という
社会的費用は膨大なものになるであろう。

 藤原一檜・横浜国立大学教授は、「スギは生態的環境の厳しさに対し、つよい
種族保存本能から大量の花粉を飛散させる反応をおこす」と指摘している。林野
庁は、この説を裏付けるデータを持ち合わせていないのだそうである。私は、篤
林家として知られる栃木県の山県氏、和歌山県の脇村氏、静岡県掛川市の榛村氏
に問い合わせてみたが、スギ林がよく手入れされ、間伐実施率が高ければ花粉の
異常な飛散はないと口を揃えていた。

 東大の物療内科の村中正治のネズミを用いた実験によると、ディーゼル車の排
気ガスの中に含まれているDEPという物質によってアレルギー症を発病する。こ
のアレルギー症をもった人はディーゼル車の多いエリアに居住しているが、この
人々がスギ花粉に接するとスギ花粉症を発病するという。この人口は大都市では
数十%に達している。
  吉野川発の、間伐実施率100%の要求は、スギの種族保存本能による異常な花粉
の発散を沈静化させることでもあり、全国の膨大なスギ花粉症患者への共闘の呼
びかけでもある。


◆公的介入をいかに行うべきか


  最後に間伐実施率100%を実現するための公的介入を如何に行うべきかについて
具体的な戦略を考えてみる。

 ※篤林家の育成した良質な建材に対する需要は、香り高い日本の木造建築作品
を創造しようとする建築家と大工さんからのものである。また、これを大切に思
う市民の根強い選好である。それが輸入建材に対する製品差別化戦略を成り立た
せることに確信をもつことである。

 ※公的建築物はコンクリートの外装をとるとしても、内装は日本人の心と健康
にマッチした良質な国産材を、できるだけ多く用いることである。
  ※個人住宅は、日本の風土、心と健康にマッチした木造建築を促進するが、弱
点である「耐火性」をカバーするために、コミュニティの外周と内部の要所にシ
イ、タブ、カシなどの延焼防止林を配置することを都市計画で義務付けることで
ある。

 ※大手住宅メーカーは、外在を用いた積木細工のような木造家屋をつくり、基
本的に日本の住宅建築文化を破壊する活動をおこなっている。街づくり条例で規
制できるようにする必要がある。
  ※間伐材の山の下までの運搬費用は地方自治体が負担する。間伐材を山の中に
放置すると洪水の際に流木となって河川に流れ込んで被害を拡大し、治水上好ま
しくない。公共事業として、間伐材の運搬にも予算を付けていくべきであろう。
  ※山から降ろしてきた間伐材は、最近各地に俳出している木工作品製作業者な
ど、間伐材利用に意欲的な業者に対して市場価格で売却する。著名な木工作家を
誘致するなどの政策を推進すべきであろう。

 ※可能な限り建築・木工などの用途で使用しても、さらに大量の間伐材が余る
ことになるだろう。建築などに適さない間伐材はバイオマス・エネルギーとして
活用すべきである。

①木質ペレット工場を行政支援のもとにつくり、間伐材をペレットに加工して
学校など公共施設における暖房に活用する。②自治体が経営する間伐材発電所を
建築し発電を行う。その他、間伐材のエネルギー利用のフロンティアは広がって
いる。これはCo2を削減するための具体的な戦略としての位置づけで取り組むべ
きであろう。まずは公的需要によって、間伐材のエネルギー利用を進めていけば、
それが起爆剤となって、民間にも波及していくだろう。自然エネルギー利用を
推進するビジョンを行政が示していけば、民間の側もこの分野への投資意欲が自
らと湧いてくるはずである。


◆◆(3)内水被害の防止策の検討


  吉野川流域には、地図と別表のように本流に雨水を選ぶ沢山の短い交流があっ
て、この交流が、例年のごとく内水被害をおこす。たまには、床上浸水となる場
合もある。本流が決壊するのと違って、一日で水を引くからたいしたことはない
と、人々は年中行事のごとく受け取っているようである。石積みをして床を高く
している人は、道路の水が引くのを待つだけだといった具合だ。しかし、商業地
域は、道路周辺に発展するものだから、一過性の小災害と考えて済ますのもどう
かと思う。

 内水被害の原因を考える場合に注意せねばならないのは、徳島県吉野川流域の
これらの支流の後背地が、現存植生図でみると、見事にアカマツ群集にとり囲ま
れている点である。天然のアカマツ林1万208ha、人口のマツ林9,110haで、あわ
せて1万9,318ha、約2万haの大面積を占めている。アカマツは、花崗岩の露出し
たやせた土地に生えるのが特徴である。マツ食い虫にやられても、またマツがあ
らわれる。やせ土にはマツしか生育できないのだ。
 
  ここの降雨は、地下浸透しないで固い岩に当たって、そのまま川に向って地表
流出する。傾斜角が急なので、豪雨の場合、忽ち小河川の収容量をこえて溢れる
ことになる。ポンプで吉野川本流に汲み出そうと試みるが、溢水量の大きさとス
ピードに到底追い付かないパフォーマンスだけということだろう。

 以下、内水被害を防止するために試みるべき方策について検討する。

①牛の飼料イネ作付けによる水田の遊水池機能の回復
  第一に、水田の待つ遊水池機能を強化することが、何よりの基本であろう。
  吉野川流域の水田面積のうち徳島県内のものは別表のように1万3,104haある。
この水田の畔の高さが、もし政府の規格の通りに30cmあるとすれば、3,931万2,0
00?(131,040,000㎡×0.3)の遊水池能力をもつわけである。
 
  過去、減反や転作のために畑にかえられたりした結果、30cmの畦の高さや遊水
池機能の損失に関するデータは待ち合わせていなかった。 1980年代、日本全国
で水田は300万haあったが、今や195万haにまで減少している。この間に35%も減
少したのである。1980年代、志村博康・東大教授は、「全国の水田の洪水調節能
力は81億トンあると推定され、日本全国にある洪水調節用ダムの能力が25億トン
である。水田を3割減反して畑に変えると、日本の洪水調節用ダムの能力を全部
停止することになるのと同じことなので、いたるところで河川が氾濫を起こし、
これに対して土木予算で対応しなければならなくなる」と警鐘を鳴らしていた。
 
  実際に、当時と比べて30%以上の水田が減少し、その一方、莫大な洪水調節用
の土木予算が投じられることになった。 今や、その予算を、畦の修復など水田
の遊水池機能を復旧するための、生態回復型土木公共事業に用いるべきではない
だろうか。減反を止め、畦を補修し、30cmの高さを確保するという公共授業を起
こし、内水被害に備えるべきである。しかしながらコメ余りの状況において、い
かに減反面積を減らせるのかが頭の痛い問題となっている。

 ここで、減反面積を減らすために有効な戦略として注目すべきは、政府が食料
自給率向上のため、水田における牛の飼料イネの作付けを奨励している点にあ
る。人間の食べるコメが余っているというのであれば、牛の飼料イネを作付け
し、国産牛の振興につなげるべきということである。市民の側も、この政府の動
きを大いに利用して、反減反の運動を起こすべきであろう。

 米国のBSE問題の発生と、その後の米政府のきわけて不誠実な対応により、輸
入牛肉に対する不安はかつてないほどに広がっている。今こそ、このプロジェク
トを振興する絶好の機会であろう。

 徳島県としても、飼料イネの作付面積を増やし、減反面積を縮小していくべき
だろう。これは治水対策であると同時に、安全・安心な国産牛への需要の高まり
に応える形で、「徳島牛肉」をブランド化していくチャンスでもある。

 また、飼料米からは工業用アルコール、牛糞からはメタンガスを採取してバイ
オマス・エネルギー資源の活用にも道を開き、循環型社会の形成に寄与する。牛
糞からメタンをとった後には、有機肥料として有効な成分が残るので、これを水
田に還元して有機米のブランド化につなげる。これは有機農業振興策であると同
時に、家畜糞尿のタレ流しによる吉野川の水質悪化を抑制するプロジェクトでも
ある。

 このような水田・畜産の循環型経営の振興は、都市部の知的な働き手にとって
も魅力的な就業のフロンティアとなるに違いない。さらに、このような形で水田
を維持しておけば、いざ世界的な食糧危機の直面した際、いつでも食用米の作付
けに転換して対応できることになる。治水、BSE対策、バイオマス・エネルギー
振興、有機米振興、吉野川の水質浄化、食料安全保障、雇用対策など、一石何長
もの効果を持つプロジェクトである。

②内水被害防止のための常緑広葉樹による予防線の構築 2万haのアカマツ林のな
かに、このような自然林地区を防波堤状態に横につないで築いてゆき、内水被害
の予防線とするのである。予防線、アカマツ林の中高線と低高線と二本とする。
面積は2万haの約2割として、4,000ha程度になる。


◆落葉広葉樹林への対応


  今一つ検討せねばならないのは、徳島県の森林統計によれば、吉野川流域には
天然のクヌギとその他の落葉広葉樹林の面積が5万8,716haあり、人口のクヌギそ
の他の落葉広葉樹林の面積も2525haある。合わせると落葉広葉樹林は6万1,241ha
ある。クヌギのような落葉広葉樹の二次林を、治水の見地からみるとどうであろ
うか。

 スギ、ヒノキの針葉樹の根が浅根性で小さく、風水害に弱く倒木し易いことは
よく知られている。これに対してタヌギ、コナラの根は浅根性ではあるが、横に
張り出して、倒れるのを防ぐ力が強いという特徴がある。葉に関しては、スギ、
ヒノキにはリグニンという物質が含まれていて、土壌動物によってよく分解され
るので、スポンジ効果のある肥沃な表土を作り出す。
 
  しかし、落葉広葉樹と常緑広葉樹とを比べると大きな違いがある。クヌギ、コ
ナラの根の横張りは大きいが浅根性である。それに対し、シラカシ、タブは、深
根性で直根は地中5mにも達する。降雨は、葉から直根にそって地下水近くまで下
りてゆき、地下水の毛細管現象と、連携作用をしている。クヌギ、コナラは浅根
性なので、このような降雨を深い根で地下に導く力はもたないものと思われる。
  クヌギ、コナラの葉は薄手なので豪雨に叩かれると抵抗力を発揮できない。

 シラカシ、タブは分厚く、弾力性をもっているので豪雨に対しても傘の役割を
続け、表土を雨水による浸蝕からまもる。クヌギ、コナラの葉は、抵抗力が弱い
ので降雨の土壌浸蝕をさまたげる力が不足している。そこで落葉広葉樹では、豪
雨の際、表土の混じった泥水を下流におし流してしまうことになるのである。
 
  落葉広葉樹は、表土のスポンジ効果を通じて、地下浸透の機能をもっているこ
とは確かなのだが、豪雨のときにスポンジそのものが流されてしまうという弱点
をもっている事を見落としてはならない。(もちろん失われた表土は新しい落葉
によって再生されるから浸蝕されっぱなしになるわけではないが)。

 この点、常緑広葉樹は頑健である。したがって、徳島のような豪雨地帯では、
クヌギ二次林地帯のなかに、常緑広葉樹群落を混在させる工夫をする必要があ
る。アカマツ林の場合と同じように、中高線と低高線と二本の線に沿って常緑広
葉樹林の予防線を築くべきである。面積は、6万haの2割として、1万2,000ha程度
になる。

 以上のような内水被害の予防ラインができれば、毎年の内水被害をもって「吉
野川の治水計画全体が間違っているからだ」といった類のデマゴギーを封じるこ
とができるだろう。
  (このデゴマギーは可動堰論にかつてしばしば利用された)。


◆必要な経費


  内水被害の予防線構築のために必要な予算であるが、常緑広葉樹のポット苗を
補植するための人件費と材料費が必要となる他、ほとんどが民有林であるので、
借地料など山主への補償金が必要となる。
 
  アカマツ林2万haの10分の2に当たる4,000ha、クヌギ林6万1,241haの10分の2に
当たる1万2,000ha、合わせて1万6,000haが、四条の予防線構築のための面積にな
る。  現在、人工林の分収育林契約は20万/haぐらいであるが、常緑広葉樹の
補植作業に要する労働力は、スギ人工林の10分の1程度であろうから、2万/ha程
度を投入すればよいだろう。よって、ポット苗の補植用に2万×1万6,000ha=3億
2,000万円を一回だけ投入すれば、後は自然に放置すればよいので、終りである。
 
  借地料など山主への補償金額は、内水被害がなくなることによる公共的利益と
の関係を考慮して、山主と公共当局の交渉によって決まることになろう。 次
に、徳島県内における吉野川の流域を全て間伐するために必要な予算を試算して
おこう。県の森林資源現況表の平成15年版によると、人工林の間伐対象面積
は、25年生から40年生まででその総面積は34,723ha、間伐実施率は50%ほどであ
るから、間伐必要面積は、34,723haの50%で、17,361haである。
 
  間伐必要人員は、農水省によれば1ha当たり45人目であるから、一年間250日の
労働で、5年計画で間伐を実施すると間伐必要人員:
17,361(ha)×45(人)/250(日)/5(年)=625(人)
  急傾斜地やその他の崖崩れの恐れのある地域の人工林は、シラカシ、タブなど
のポット苗を植えて補強する。また間伐材を地上まで運搬する作業などに必要な
人員を考慮して、625人の1.5倍の人員が必要になるものと考え、合計937人を雇
用する。日当を1万3,000円とする。5年間で必要な総人件費は、937(人)×250(日/
年)×13,000(円)×5(年)=152億2,625(万円)
 
  また人件費の他、資材費が必要になる。総予算に占める人件費が7割で、資材
費には3割をあてるものとすると、資材費も含めた総予算は、
  153億2,625(万円)×(10/7)=217億5,178(万円)
  間伐対象は、樹木の成長につれて変わっていくので、このような予算は継続し
て建てていかねばならない。


◆◆(4)合併浄化槽による吉野川の水質改善プロジェクト


  最後に、吉野川の水質は良くない。これを改善する決め手はこうだ。
  公共下水道のない地域で家を新築・改築した場合には、合併処理浄化槽の設置
が法的に義務づけられており、国は補償金を5人槽で35万4,000円まで出している。
徳島県においては、県の条例で旧策の家の便所すべてを合併浄化槽することと
し、国と同じく、35万4,000円まで補助金を出すことにするのだ。補助金の総額
は210億(35万4,000円×6万世帯)あれば可能である。一年間に約40億を5年かけて
支出すればよい。現在の徳島県は、公共下水道普及率が31.9%、合併浄化槽の普
及率が18.5%dで合わせても55.4%の下水道普及率であるが、これが一挙に100%に
なるのである。

 この公共事業によって、徳島県内から吉野川に流入する家庭汚水はなくなる。
徳島の土建業界にとっても、可動堰計画を上回る経済効果をもたらすであろう。
また、徳島を突破口として、香川、高知、愛媛、の流域三県の県会にも同調を呼
びかけるのである。

 可動堰反対からはじまった吉野川森林保水力の強化運動は、吉野川を清流にす
る運動まで発展しなければ本物とはいえないだろう。

    (筆者は法政大学名誉教授)

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