東大教授の品質

■ 【横丁茶話】   ~東大教授の品質~   西村 徹

───────────────────────────────────

  ユニクロで傘を買った。960円だった。その後ダイエーで、ほとんどそっくり
の傘が480円で売っていた。違うところといえばバンドの留めがスナップかマジ
ックテープかというだけで、どちらも中国製だった。まさかユニクロのブランド
料ということもあるまいから、どこかきっと品質に違いがあるのだろうが、長く
使った上でないと、今のところ、素人の私にはわからない。

 原発もおなじで、あれだけ毎日のようにテレビや新聞でクリーンだ、クリーン
だと、安全神話を吹き込まれていたのだから、日本の原発がどんなに優秀か、あ
るいは劣悪か、素人にはわからなかった。そしてやすやすと洗脳されてしまった。
フクシマ原発の事故があって2週間もたって後の3月26日になっても「朝まで生テ
レビ」という番組で司会者の田原総一郎はもちろんのこと、出席者は一人を除い
てみな推進派。言うことはみな、それはそれはおめでたいかぎりだった。

 原子力の専門家は東工大の御用学者が一人だけだから、そうなって当然かもし
れない。はっきりと、しかし弱々しく脱原発は荻原博子氏一人だった。推進か反
対かは別として宋文州氏の「壊れることを前提に造るべきだ」とする発言が光っ
ていた。「想定外」はいいわけにならないことを指摘した推進派はこの人だけだ
った。

 私自身、放射線治療のお世話になって2年無事に経過の身でもあるので、放射
線すなわち悪というのには多少の抵抗がある。人間の制御力をどうしても信じた
い気分は残る。しかも高線量ピンポイントのほうが低線量広範囲より安全度は高
いようなことを聞きかじっているからなおさらである。もちろん平均寿命を過ぎ
た老人の場合と妊婦や子供ではまるきり事情は変わるだろうし、本来、確立され
た医療用放射線と核をエネルギーに使って吐き出す放射線の害毒を一緒くたにす
るのは筋違いなのだが、モノは使いようということを人はつい忘れてしまう。

 二酸化炭素にしても地球温暖化の元凶だから減らさないといけないという説と、
二酸化炭素はむしろ植物の光合成に有用な物質で二酸化炭素有害説は原発推進派
の陰謀だとする説があるが、同じ原発には反対の人でも意見は分かれるらしい。
簡単にどちらかに片付けられないことだろう。いろんな議論が聞きたいものだ。

 原発についてもいろんな議論が聞きたいものだ。事故のひどさが3から7のチェ
ルノブィリ級に格上げされてから、メルトダウンは初日から起こっていたとか、
さらにメルトスルーまで行ってしまったとか東電がようやく白状しはじめてから
というもの、世は挙げて原発反対を少なくとも装うようになっている。原発の提
灯持ちをしていた人のなかには、勝間和代氏のように、いち早く転向表明した人
もいる。小泉純一郎氏も小泉進一郎氏も原発反対と言っているそうだ。2006年8
月わざわざカザフスタンへウランを買いに行ったのは小泉純一郎氏だったはずだ
が。みんなの党も今は反対になっているそうだ。    

 民主党も仙石氏が先頭に立って原発を売りにいった。渡辺コーモンはフクシマ
原発の地主だ。6月14日には東電の賠償支援法案が閣議で可決されて東電株はス
トップ高になった。政権与党が推進でないはずはなかろう。誰もはっきり言わな
いだけだ。急に黙ってしまわないで反対派と対等に、推進派も発言を続けるべき
だ。反対派の意見しか聞けないのはおもしろくない。加納時男元東京電力副社長
・元参議院議員(自民党)もホームページを閉鎖したりしないで、また朝日新聞
で「河野太郎は社民党に行け」をもっと言ってほしいものだ。その点は中曽根ダ
イクンイに見習うべきだ。

 田岡俊次という軍事評論家がいる。現実主義者だ。ハナシはおもしろくて、な
かなか聞かせる。朝日ニュースターのパックインジャーナルという番組を愛川欽
也が司会しているが、ほとんど田岡俊次専用番組のようなもので、たいてい出ず
っぱりだ。原発については積極派で、文明にリスクは不可避だとし、「近代の戦
争はエネルギーの奪い合いが原因で起こった。第一次大戦は石炭の、第二次大戦
は石油の奪い合いで何千万という人が死んだ」と言っていた。

 後藤政志とか小出裕章とか、原子力の専門家であって原発に反対の人が原発事
故の技術的な解説のために客演したときも、田岡氏は、頬をひきつらせて、くり
返し自説を唱えていた。私も「なるほど」と思った。しかし小出氏によるとウラ
ンは地下資源として石油よりはるかに乏しいという。だとすると石油争奪戦より
苛烈なウラン争奪の戦争になるはずで、そこはどうなるか田岡氏に聞きたい。と
ころがこのところ欽也の番組に出なくなった。転向するならするでよい。悪びれ
ずに出て忌憚ないところをしゃべってほしいものだ。

 寺島実郎という人は鳩山由紀夫氏のブレーンであった。今もそうかもしれない。
まだ三月だったか四月になっていたか、炉心損傷程度しかマスコミが報じていな
い段階だったと思う。この人は「合理主義者、近代主義者」としてベストミック
スで行くべきだと言っていた。つまり電気事業連合会会長・八木誠関西電力社長
とまったく同意見である。せっかく世界に冠たる水準にある日本の原子力技術を
維持するためにも全廃すべきでないという。でないと外交的立場が弱くなるとい
う。札幌の高校生だった頃、東大の原子核工学に進学する生徒たちは錚々たる秀
才ばかりだったとも言った。この人の意見はその後どうなったであろうか。

 その選り抜きの秀才の秀才ぶりを如実に示す一例に出会った。
  2005年、クリスマスの日に佐賀県では「玄海3号機プルサーマル計画の安全性」
と題する公開討論会が開催された。そのなかで東大工学部大学院の大橋弘忠教授
が京大原子炉実験所の小出裕章助手をほとんど嘲罵する場面をYou-Tube上で見た。
その一部を書き起こしてみる。

(引用開始)事故のときどうなるかは想定したシナリオに全部依存します。全部
壊れて、全部出て、全部が環境に放出されるとなればどんな結果でも出せます。
それは大隕石が落ちてきたらどうなるかという、起きもしない確率についてやっ
ているわけですね。皆さんは事故が起きたら大変だと思っているかもしれません
が、専門家になればなるほど、そんな核容器が壊れるなんて思えないんですね。
どういう現象で、なにがなったらどうなるんだと。

 「いや、それは」反対派の方は、「わからないしょう」と。水蒸気爆発が起こ
るはずがないと専門家はみんな言ってる。ボクもそう思うんですけど。「じゃあ、
なんで起きないんだ」と。そんな理屈になっていっちゃうわけです。ですから今、
安全審査でやっているのは技術的に考えられるかぎり、ですね、ここがこうなっ
て、こうなって、ここが壊れてプルトニウムが出てきて、ここで止められて、そ
れでもなおかつ、という仮定を設けたうえで、さらにそれよりも過大な放射能が
放出された場合の前提を置いて計算をしているわけです。

 ここがいちばん難しいところですけれども、われわれはそういうのはよくわか
ります。被害範囲を想定するために、こういうことが起きると想定をして解析を
するわけです。ところが一般の方は、どうしても、「いや、そういうことは起き
るんだ」と、また反対の方が「ほら見ろ、そういうことが起きるから、そういう
風に想定するんだ」という風に、逆方向にとられるからおそらく議論が噛み合わ
ないんだと思います。(引用終わり)

 これをゆっくり解析するつもりでいた。その支離滅裂ぶりを明らかにしようと
思って書き起こした。しかしYou-Tubeは消された。そのかわりその後、佐賀県の
当の公開討論会そのものをhttp://saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/ですべ
て見ることができることを知った。一部二部あわせて三時間半におよぶビデオを
見ることができる。そのうえ苦労して書き起こさなくても、すべて文字化もされ
ている。それを見ればもはや脇から口を挟む必要はなさそうである。原子力安全
白書(2000年度)にも記されているように「多くの原子力関係者が『原子力は絶
対に安全』などという考えを実際には有していないにもかかわらず」「絶対的安
全への願望」ゆえに、格納容器が壊れるような事故は「想定不適当事故」として
最初から無視していただけだったことがわかる。前例のないことは存在しないこ
とになる官僚の論理である。東大教授の秀才とはじつはとんだ醜才だった。

 元・原子力安全委員会委員長代理として99年JCOの臨界事故の処理に当たった
住田健二氏は、どこかのテレビで、当時の東電の技術者は優秀だったとし、その
後の原発技術者の劣化を匂わせていたが、東電社員から東大教授に出向した大橋
という技術者を見ると頷ける。(2011年6月15日)

                (筆者は堺市在住・大阪女子大学名誉教授)

                                                    目次へ