【コラム】フォーカス:インド・南アジア(8)

東芝は、原発輸出から撤退せよ! インドへの原発輸出反対!

福永 正明


◆ 1.東芝とインド

(1)東芝の原子力事業の破綻
 最新報道によれば、東芝は新たな原発建設の受注を取りやめ、新規の受注はやめる方針を固めた。東芝を揺るがす経営問題の起点は、2006年10月のウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WH)の77%の株式買取による買収(6,467億円)であった。東芝はWH買収後にさらに株式買取を行い、現在は87%の株式を保有する。

 昨年末発覚した子会社WHによる米原発事業での巨額損失は、アメリカ大手エンジニアリング会社のCB&Iから、2015年12月31日にCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)の株式100%を取得し買収完了したことが起因となる。

 WHが受注したジョージア州のジョージア電力のボーグル原子力発電所と、サウスカロライナ州のサウスカロライナ・エレクトリック&ガス(SCE&G)社のVCサマー原子力発電所の原発計4基について、原発建設工事のコンソーシアム・パートナーであった。しかし、多くの原発建設で工期が遅れるのと同様に、これら原発4基の建設も3年遅延した。これに対して発注元の電力会社から損害賠償請求があり、損失をどちらが負担するかについて訴訟合戦となった。

 昨年末まで東芝は、WHを「経営順調」と主張し続けてきたが、その中心人物はWHのCEOのダニー・ロデリック氏であった。すなわち2016年6月22日の株主総会後、綱川智社長による新経営体制は、エネルギー部門(カンパニー)である「エネルギーシステムソリューション社」を「コア事業」に位置付け、ロデリック氏をエネルギー部門担当に就任させた。驚くべきことに、同年7月7日開催の「カンパニー別のIR説明会」においてロデリック氏は、「WHは、2015年度に過去最高益を更新した」と強調した。さらに同氏は、今後15年間で64基の新規原発建設の受注、アメリカにおける老朽化原発総計100基うち50基の受注見込みなどの発言を続けていた。

 しかし東芝は、WHによる「S&W買収により工事遅延に関する問題解決」との提案を受け入れ、2015年12月に実質額200億円にて買収していた。S&Wが巨額の工事損失損を抱えることは明らかにされず、アメリカ会計制度が「買収完了から1年以内に資産洗い直し」を定めることから2016年12月に発覚した。

 東芝の孫会社であるS&Wによる工事損失額の全貌は精査中であるが、7,000億円前後に拡大するとされる。2月14日の「第3四半期」発表時に報告予定であったが、緊急記者会見が開催されたが「決算発表」は1ヵ月延期され、事業立て直しプラン、ロデリック氏の解任を含む役員責任処分などが発表された。

(2)東芝子会社WHとインド
 2008年以後にインド原発市場の開放後、WHがインド原子力発電公社(NPCIL)と合意した原発建設計画は、インド西部のグジャラート州のミッティー・ビルディー地域におけるAP1000型原子炉6基の建設であった。2013年9月に建設基本契約が締結され、3期分割建設計画では、商業稼働は第1期2019-20年、第2期2021-22年、第3期2023年-24年とされた。

 グジャラート州の前州首相は、中央政府のモディー現首相であり、日系企業の進出も多く、日本製新幹線導入の計画もある。同発電所総敷地は777ヘクタール、そのうち603ヘクタールが農地であり、農民による猛烈な反対運動が展開された。このため土地買収は進まず、停滞した。2016年5月NPCILは、WHによるAP1000原発の計画地をアンドーラ・プラデーシュ州(Andhra Pradesh)のコバーダ地域(Kovvada)に変更することを発表、さらに同年6月にインド政府はコバーダ原発の「最終契約」を2017年6月までに締結すると公表した。

 しかしWHは、現在もコバーダ原発後にミッティー・ビルディー地域におけるAP1000型6基建設としており、インド政府も連邦議会下院にて「計画破棄ではない」と回答しており、「凍結」である。

◆ 2.日立・GEによるコバーダ原発計画の破綻

 コバーダ地域では、日立とアメリカのGEの合弁会社「日立GEニュークリア・エナジー株式会社(GEH)」が、6基の革新型単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)を建設する「基本環境アセスメント」を2012年6月に終了、2015年初に商業稼働予定であった。
 だが、GEHとインド原子力発電公社(NPCIL)は、建設本契約が締結できなかった。インドには、原発事故発生時に原発メーカーにも事故賠償責任を求められるとする「2010年インド原賠法」があり、外国企業進出の妨げとなっていた。そしてGEHは、2015年9月、「インド原賠法」が世界水準程度にまで修正されない限り、インドでの原発建設投資を停止すると発表した。これに対してインド政府核エネルギー省(Department of Atomic Energy:DAE)は、2016年6月にGEHによるESBWR建設不許可を表明した。GEHによるコバーダ原発建設計画は、消滅した。

◆ 3.WHがコバーダAP1000(加圧水型原子炉)原発建設へ

 インド政府は「インド原賠法」を骨抜きして「原子力損害補完的補償条約」(CSC)に加盟して準備を整えた。そして、印米首脳の交渉を経て、2016年7月にコバーダ原発計画としてWHのAP1000型原子炉6基建設を決めた 。AP1000は、2ループの加圧水型原子炉であり、電気出力1154MWeを予定する。

 さらに印米政府は、WHとNPCILが2017年6月までに「6基の原発建設契約の締結」の努力継続を確認した。原発工事の着工は2018年、そして2025年に商業稼働する計画であった。
 東芝のWH、日立のGEH、さらに三菱重工とフランスの合弁会社アレバ社などが、インドでの原発建設の「本契約」に至ることもできなかった理由は、「日印原子力協力協定」交渉の遅延であった。原子炉圧力容器の国際市場シェアの8割を日本の日本製鋼所が占めており、各社はインドでの新規原発建設にこの資機材を必要としていた。しかし、日印間で原子力協定がないため、資材確保ができず進行させることができなかった。そこで国際原子力産業は、日印両政府に強く協定締結を求め続けてきた。

 2016年11月11日署名した「日印原子力協力協定」は、これら各社がインド市場へ進出することを可能とした。またそれは、インドの人びとと大地に、日本製の資機材による原発が建設されるということも意味する。日印協定は、「インドに原発も核兵器も増産」させることは明らかである。唯一の戦争被爆国として広島市、長崎市を先頭に核兵器廃絶へ向けて努力してきた日本外交は、安倍政権による「金もうけ原発輸出促進」により大転換となる。また、世界の核兵器禁止へ向けた人びとの意見を無視し、東電福島第一原発事故を引き起こした責任すら放棄するのが、この協定である。

 コバーダ原発計画地の住民たちは「日本は原発を売るな!」と叫び、建設反対運動が続いている。昨年末から報じられた東芝原発部門の打撃は、人びとを一層奮い立たせている。

 本年1月18日には全インドから多くの人びとが集い、反対集会が開催された。デリーから参加のスンダーラム・クマール氏らが発言した。インドでの有力英字紙『THE HINDU(ザ・ヒンドゥー紙)』の1月19日付け記事は、「コバーダ原発への反対気運が高まる」と報じている。東芝の経営問題についてインド現地紙は、政府高官のコメントとして、「東芝がつぶれるはずがない。日本政府が救済するだろう」と述べたとの記事を掲載した。

<まとめ>

 東芝は、2000年代中期に「原発」を企業経営の柱として定めてWHを買収、「原発金もうけ」の規模拡大を画策した。そして、東電福島第一原発事故の責任も負わず、海外への売り込みを推進してきた。さらには不正会計処理問題が明らかになると、「原発輸出」での会社建て直しを進めてきた。東芝による原発輸出強行は、その非倫理性を象徴してきた。まさに、このような反社会的経営活動が、通用するはずもない。

 日印協定署名は、こうした東芝の原発ビジネスの破綻の発覚のわずか一カ月前のことであった。官民一体による原発輸出推進は、不透明なハイリスクビジネスであり、輸出先国の民意にも敵対する。日本には東電福島第一原発事故からすれば原発輸出の資格はなく、原発を商品として扱うこと自体が社会規範に反する。

 2017年2月14日、東芝が実施予定だった決算発表会が急遽延期となり、社長の綱川智氏らが記者会見を開いた。その際、インドでの原発事業については、「それからインドのAP1000でございますが、6台の見込みがございますが、これも土木建築のリスクを負担いたしません。それでとれれば受注するということで進めてまいります。」と述べた。依然として、原発輸出の夢から脱することができていない。
 だが、今後の東芝は、債務超過による経営破綻へと進むことは明らかであり、原発輸出から撤退する道しか残されていない。

 東芝は原発輸出をやめろ!
 日印原子力協力協定の国会承認反対!

●日印原子力協定国会承認反対キャンペーン
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 (岐阜女子大学南アジア研究センター センター長補佐・客員教授)


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