松下圭一さんの謦咳に接して

【追悼】松下圭一氏を悼む

松下圭一さんの謦咳に接して
こよなく自治体を愛し、市民自治の地域づくりを目指した松下さん

山田 高


松下圭一さんにはじめてお目にかかったのは、1960年代の後半です。当時私は地方から上京して大学に進学したばかりであり、議員会館の江田三郎さんの事務所で政治家見習いの書生のような扱いを受けて過ごしていました。松下さんは江田さんのブレーンの集まりに出席されるメンバーの一人で議員会館にも時々訪ねて来られ、その時に秘書の方に紹介してもらいました。  
当時松下さんは著名な革新系の政治学者として月刊の総合雑誌や週刊誌に署名入りの記事を書かれたり、単行本も数々出版されていました。新しい社会事象や経済社会の変化に対応する政策課題の設定、政策立案にあたって、新しい概念、用語、切り口を創出、駆使され、ジャーナリスティックな鋭い切れ味とセンスともにその主張や提案内容に新鮮な感動を覚えたものです。書店に入ると必ず松下さんの論文の出ている雑誌や著書を探し、買い求めることが習慣となり、松下理論を自分なりに勉強していました。やがて松下さんとも親しく話をさせて頂くようになりました。松下さんの紹介で「国民自治年鑑」(社会党機関紙局)の編集や都政調査会のアルバイトをしたこともあります。

 大学を卒業する頃は松下さんの理論や主張に刺激、影響を受けて、都市問題や自治体問題に理論的に関われるような仕事に就きたいと思い、民間の調査研究機関の株式会社社会調査研究所(現、株式会社インテージ)に就職しました。そこでは中央官庁や自治体、外郭団体等の公的セクターを顧客とする社会公共分野の調査研究の受託業務を長らく担当していました。

 その後、松下さんは国政レベルの政治課題への論評から、草の根の自治体というフィールドで展開される市民自治の実現に理論的実践的に深く関わられるようになりました。松下さんには、施策が実際に展開されている現場に立脚し、そこで施策に携わっている職員やスタッフ、研究者の方たちと議論を重ねて理論構築をされるという現場主義の絶対的な強味がありました。また、自治体の行政施策の前提となっている憲法理論や法律論を市民自治の実現推進の観点から大胆に見直し、これまでタブーとなって超えられなかった議論の枠組みや壁を取り払うという先駆的な取り組みをされ、自治体改革は社会変革の一つの流れとして大いに進展しました。

 私は民間の調査研究機関で働くようになってから、松下さんの知恵をお借りしたい、また当社との事業の接点があるのではないかと思い、何度かコンタクトを取り、お目にかかりました。基本姿勢のところで松下さんに何度も跳ね返されたような記憶があります。

1)自治体改革を進めるためにも国(中央官庁)の審議会や委員会になぜ参加しないのですか。
 「国は自治体を下部機関としてとらえているところがあり、自治体を対等の関係とみなしていないので、そういう場に出て議論しても意味がないよ。」

2)武蔵野市の「地域生活環境指標」に関連して。当社で開発していたコンピュータマッピングを活用して、地域データ、地理データ、地図データをデータベース化すれば、各種データの重ね合わせ、利用圏域や誘致圏域などの勢力圏の任意の設定、時系列変化などを機械的に出力できるし、紙ベースのデータ保存よりもデータ管理が容易であることを提案。
 「そういう作業を外部に委託してしまうと、自治体職員にはデータの意味が蓄積されない。自治体職員が自分の地域のデータを集めて、自ら問題意識を持って編集し、指標化することに意味があるんだよ。君の提案の意味は分かるが、外部に委託するような話じゃないね。」

3)自治体の計画策定業務の外部委託について
 「都市型社会の自治体には、大学の教員をはじめ有識者市民、専門家市民がたくさん在住している。高い委託料を払って外部機関に委託して計画を作ってもらう必要は無い。外部委託しても結局自治体職員が委託先の会社にデータを提供し、レクチャーしなければならない。有識者市民や専門家市民は自分の自治体のことだから現状と課題をよく分かったうえで計画づくりができる。お金をかけなくても有識者市民、専門家市民に協力してもらって職員参加や市民参加、市民委員会方式で十分対応できるんだよ。
 自治体はどこも財政難でお金がないのだから、自治体相手にお金を儲けようという考えだけはやめてくれよ。」

 厳しいこともべらんめぇ口調でいつも親しみを込めて話しかけてくれた松下さんのことを今懐かしく思い起こしています。
 2007年10月、「江田三郎さんの生誕100年、没後40年」の記念イベントに合わせて記念本(「政治家の人間力 江田三郎への手紙」)を刊行しました。編集メンバーは松下さんにヒアリングをさせて頂くとともに執筆をお願いしました。久し振りにじっくり1960年代後半の江田ブレーンの頃の懐かしい話を聞く機会となりました。この時が松下さんにお目にかかった最後の日となりました。記念本には私も執筆させていただき良き思い出となりました。長きにわたってご厚誼を頂き本当にありがとうございました。

 (江田ファミリーの会幹事)


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