【沖縄の地鳴り】

正念場・試される沖縄の「民意」

大山 哲


 沖縄は、この1年間、米海兵隊辺野古新基地建設をめぐる抗争で揺れ、米軍によるさまざまな事件、事件に明け暮れた。米軍は悉く「安全対策と綱紀粛正に万全を期す」と、決まり文句を発する。日本政府は、米軍に寄り添い、性懲りもなく、口裏を合わせるだけ。耳にたこができるほど聞かされ続けた県民は、こんな空約束をだれも信用はしない。舌の根も乾かぬうちに、際限なく事件・事故は起きているからだ。

 案の定、年明け早々の1月7日、米海兵隊普天間基地所属のUHIYヘリコプター1機が、うるま市与那城の伊計島の海岸に不時着した。民家から僅か50メートルの近距離で、あわやの大惨事になるところだった。同島には昨年1月にもAHI攻撃ヘリコプターが、農道に不時着している。これからも、いつ、どこで米軍の事件・事故が続発するかわからない。不慮の事態を想像すると、不安と恐怖で背筋が寒くなる。

 こんな状況下で、沖縄は4年ぶりの「選挙イヤー」(統一地方選挙)を迎えた。17市町村の首長、30市町村の議会議員選挙が目白押し。県民の政治選択と民意を集約する天王山は、12月9日の県知事選挙である。知事選の行方を占う前哨戦として、もっとも注目されるのが、目前に迫った名護市長選挙(2月4日)だ。「辺野古に新基地は絶対に造らせない」と、翁長知事と呼応、連携して、政府権力に対峙する稲嶺進市長の3期当選がかかる。政府のアメとムチの戦略に抗し、翁長県政が辺野古新基地反対を貫いている根底には、基地の地元の名護市政の支え、その絶大な存在感がある。曲がりなりにも「オール沖縄」が機能する潤滑油でもある。

 4年前の県知事選はじめ衆院選、参院選、名護市長選など各種選挙で「辺野古反対」を掲げる陣営がほとんど勝利し、世論調査にも反映され、確固たる民意が形成された。この県民の意思を無視し、法治国家、国の専権事項などを理由に「国政には従え」と、新基地工事を強行している。これに立ちはだかる名護市長は、目の上のたんこぶで、政府・自民党ぐるみで市政奪還を至上命令とした。閣僚や政府高官らが、あわただしく現地入り、反稲嶺のテコ入れをしている。ついには公明党県本部の抱き込みにも成功。巧妙に辺野古を争点から外して、攻略の構えだ。圧倒的な民意をバックに、現職優位の皮算用だったが、俄かにオール沖縄陣営に危機感が走った。もし名護市で敗れたら、締めくくりの県知事選にも影響が大きい、と引き締めにやっきである。

 翁長知事は年頭の所信表明で、改めて辺野古新基地埋め立て工事の「撤回は必ずやる」と強調した。しかし、実施のタイミングを計りかね、未だに時期を明かしていない。翁長知事を支える「オール沖縄」や支持団体の中から「なぜ早く撤回しないか」「時機を逸した」など、憤り交じりの苦言や批判がくすぶっている。とりわけ、辺野古ゲート前に座り込み、海上カヌー隊で行動する抗議団は連日、大型トラックや海上搬送で大量の砂利が運び込まれるのを目撃。進められる護岸工事に「もう手遅れでは」との焦りと危機感が充満している。これに対して、翁長知事は「国の工事は、この3年半で全体の4%しか達成されていない」「今は踏ん張る時期」と、撤回にはまだ選択肢は残されている、との認識を表明。さらに「県民が不屈の闘志で力を合わせれば、阻止は可能」と自信をのぞかせる。

 辺野古の海面埋め立ては、約160ヘクタールの面積に2,060立方メートルの土砂が投入されるが、東京ドーム16.6杯分に相当する。完成までに5年以上を要する大工事。護岸工事のあと、今年8月ごろには、本格的な土砂の埋め立てが開始される予定。国と県の攻防の分岐点になる気配だ。翁長知事は就任以来、事あるたびに「あらゆる手段を講じて阻止する」と言明。これまで大小さまざまな手段で政府に抵抗してきた。ただ、頼みの裁判闘争では、最高裁判決で敗訴し、窮地に立たされた。今後、知事権限で取り得る手段は、最終的に「埋め立て承認の撤回しかない」との一点で、翁長陣営は共通認識に立っている。内部に時期をめぐる不協和音を抱えつつも、その方向に進んでいる、との見方なのだ。

 「あらゆる手段」の方策の一環とも取れるが、県政周辺で、俄かにふたつの案件が浮上している。ひとつは、膠着状態の続く辺野古問題を打開するため、県独自の代替案の検討に入った、というのだ。これまで翁長知事は「辺野古が嫌なら代替案を出せ、というのは理不尽だ。日本の政治の堕落」とまで極言し、政府に反発してきた。ここにきて、代替案提示に舵を切るのは、多分反対だけでは、目前の工事が止められない、との危機感がある。県外、国外の候補地を具体的に指定して提案することで、辺野古建設の断念を迫る狙いのようだ。
 「辺野古が唯一」に固執する日米政府の方針を変更させるには、あまりにもハードルが高い。また、県外、国外の対象候補地との交渉も当然、難航が予想される。翁長陣営の内部からも代替案の内容に異論や警戒心が出そうで、一筋縄ではいきそうにない。まぎれもなく県政の試金石だが、国内外には一石を投ずることにはなろう。

 一方、県議会与党サイドで、県知事選と同日に、辺野古新基地の是非を問う「県民投票」を実施しようとの案が検討されている。翁長知事の再選と県民投票による「民意」を確実なものにし、それを後ろ盾に、埋め立て承認撤回を実現するのが狙いだ。県民投票の評価をめぐっては、基地反対派にも賛否両論がある。とりわけ、反対論者は ①県民投票には法的拘束力がない ②撤回を先延ばしにすると工事は後戻りできない段階に達する――と主張する。県民投票よりも一日も早い「撤回」を、ということである。

 期日が迫るに従い、論議は白熱化しそうな雲行きだ。撤回、県民投票、のいずれにせよ、詰まるところ、理不尽な国の強権発動への異議申し立てであり、民意の発露であるはずだ。
 「選挙イヤー」は、沖縄の民意が試される正念場となった。

 (元沖縄タイムス編集局長)

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