歴史資料「同志社労働者ミッション」

■歴史資料;

□同志社労働者ミッション設立宣言書

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以下は、1927(昭和2)年に同志社大学教授・中島重とその門下の田原和郎 を中心に創設された、同志社労働者ミッションの設立宣言書と規約です。

昭和恐慌によって人々が困窮するなか、もともと社会問題に対する関心が高 かった同志社大学ではキリスト教の信仰と社会的な実践を結びつけようという 運動が起こり、同志社労働者ミッションが創設されました。 同志社労働者ミッションからは、後に多くの人材が生まれ、都市労働者・農村 ・消費組合の中へ飛び込み、各地で様々な事業を展開していきました。 同志社労働者ミッションの存在は、戦前のキリスト教と社会運動の結びつきを 考える上で非常に重要な存在です。 なお、1929(昭和4)年に中島教授は同志社大学を追われ、翌年、関西学院大 学に移ったため、同志社労働者ミッションは日本労働者ミッションへと名を変 え、さらにその精神は「社会的基督教全国連盟」の結成へと受け継がれま した。

同志社労働者ミッション設立宣言書

甚だしき不安の雲が全日本を覆っている。経済的には行きづまり切っている。 失業せる筋肉労働者及び知識階級は二十万人以上に達しなお日一日と増してい く。企業家は無政府的産業状態が愈々無政府的になるにつれて続々と倒れる。 銀行が崩れる。貧しき預金者が理由もなく強奪される。不安が加われば加わる 程、貧乏人が困窮すればする程裕福なる人々は人間的良心を閉め出して眼と耳 を悲惨からそむけてしまう。人心は病的になっている。犯罪が、殺人が増え る。やけ酒があおられる。その証拠に過去八ヶ年間に人口が一割しか増加して いないのに、日本酒と麦酒の消費高は十五割も増えている。精神病者が増え る。自殺者が増える。余りに虐げられたるもの、低劣なる同情によって唾棄す べき遊郭と姦通が黙認されているのではなかろうか。狂っている。日本はたし かに狂気している。

 現代社会の組織は巨大なる資本主義経済組織の上にたてられている。それは かつて人類の文化をいちじるしく促進せしめたものであるが、今や進んで止ま ない人類の文化を反って阻害する桎梏となりつつある。其処からあらゆる社会 問題が生ずる。爛熟せる資本主義は黒雲となって、人類が仰いでむべき神の光 を遮断している。日本は今、暗澹たる荒天のただなかにある。

 社会を指導するべき思想界は混乱をきわめている。一方には無能なる保守主 義が無理無休に大衆を鎮圧せんとしている。他方には極端なる過激主義者が労 働階級を煽りだてている。浅薄なる唯物論的社会主義者等は人類文化の真意を 理解せずして一時的なる興奮と危険なる社会改造の運動に無産者をかりたてて いる。人々は帰趣するところを知らずして狼狽している。宛もそれは火事場に 於ける失神せる群衆である。日本よ何処へ行くか。

 イエスの宗教は単なる個人の救の宗教ではない。自我完成への瞑想宗教では ない。それはあくまでも実践的な、倫理的社会的なる宗教である。社会的生活 のうちに神を生かし、吾等全体が神にまで達せんとする宗教である。それは神 の国運動である。地上に神の聖旨にしたがえる人の社会を建設する事をのぞい て外にない。若し我々がイエスの友であり兄弟であり、イエスに従って神の国 運動をなすべきものであることを自覚するものならば今、日本のこの状態を座 視し得るであろうか。

 神を否定する唯物主義は社会を岐路に導かんとして滔々と述べ伝えられてい る。暴力が謳歌されている。甚だしき無道徳、否不道徳が崇拝されようとして いる。もし吾等がそれらを黙視するならば、不信と暴力と不道徳をイエスの友 が是認することである。吾等は最早黙視するを得ない。  吾等は唯物主義を信じない。暴力を否定する。そして神を信じ、愛の法則の みが、活動が社会を真に正しい路に改造していくべきものなることを信ずる。

 日本に於いて、かつてイエスの福音はその当時の新興階級であり、社会改造 の最大の要素である民衆、商工階級に伝えられる事によって日本を導いた。か くてすばらしい資本主義文明たる明治文化が建設された。

 然し時代は異なっている。資本主義が発達するにつれて、其の必然の結果と して、さきの新興の商工階級は支配階級となり生活の目的と自由を失える夥し い大衆が労働階級として現われた。茲に一切の資本主義の欠陥が存し、種々な る社会問題が生じた。かくて最早社会はその弊害に耐え得ない。改造を要す る。失われたる人間生活の目的と自由の回復の為に、被われたる神の光を再び 拝せんために社会は改造を要する。而して来るべき改造の力となり要素たるべ き労働大衆を除いて社会の改造は不可能である。  今こそあらゆる種類の労働大衆にイエスの福音を伝道すべき時である。

 階級意識ではなく、全体意識を、人類愛の精神を、イエスの愛を覚醒せしめ る時である。かくて我等は愛の法則による社会改造の事業に、神の国運動に協 力前進すべき時である。  日本はかかる神の国運動によりてのみ再生し得ることを信じ、吾等基督者の 現代に於ける使命がここに存することを確信するものである。

 『同志社労働者ミッション』はかかる吾人の使命感によって茲に設立される。

 昭和二年十二月九日 同志社労働者ミッション規約

【一・名称】 本団体は同志社労働者ミッション(The Doshisha Christian Mission)と称 す。
【二・目的】すべての労働者(都市、農村、漁村、鉱山等の区別を問わず)に イエスの福音を宣伝し、神の御旨にかなえる新社会の実現を期す。
【三・事務所】 事務所は同志社構内に置く。
【四・事業】 左の事業をおこなう 。
一、伝道 二、教育 三、隣保 四、互助 (但し当分の内は左の事項に止まる。
一、本ミッションの目的遂行の準備として研究、報告、講演会等を通じて基督者の覚醒を促す。
二、賀川豊彦氏主導の労働者伝道に資金を供給することによってその伝道に協力す)  
【五、会員および賛助員】   会員はイエスの弟子にして本ミッションの目的、事業に賛成し定額の会費   を醵出する者、賛助員はこの目的、事業に賛成し定額の会費を毎月醵出する者  
【六、会費】 会費は一口以上たること、一ヶ月三十銭をもって一口とな す。  
【七、入会の手続】  会員たらんとするものは会員一名の紹介により幹事   及び委員の承認を経るを要す。賛助員たらんとする者は幹事の承認を経る   を要す。  
【八、役員】  本ミッションは左の役員を置く   幹事は一切の事務を掌るものとす   委員は幹事を助けて一切の事務をなすものとす   幹事長は幹事の互選によって選挙す   委員は幹事長より委任す   任期は各一ヶ年とす
【九、総会】 定期総会は毎年一回一月におこなう  (仮名遣いや漢字を現在の用法に改めてあります)