【旅と人と】

母と息子のインド・ブータン「コア」な旅(17)

坪野 和子


◆回想の続きとつい先ほど

 さきほど、来日中のチベット人転生上師の講演を聴きに行きました。母語チベット語ではなく中国語ベースでの講演でした。この転生上師は中国人にとても人気があり、会場に集まった聴衆の半数くらいが中国人もしくは台湾人でした。

 中国人のチベット仏教信者の存在は日本ではあまり知られていません。共産主義の中国人 vs 仏教徒チベットと思い込んでいる単純な対立構造ばかり強調する日本人がいますが、元明清朝時代からのチベット仏教を信仰していた中国人がいて、その子孫たちもまた、共産主義の強制が緩くなったころから先祖の宗教を回帰してきたのでした。

 また、「お金がすべてではない、幸福はどこか別の精神的なものがある」と考えた中国人がチベット仏教の新たな信者となっていきました。
 このチベット人転生上師は、中国語で平易にチベット仏教…というよりも上座部(小乗)仏教から脈脈と流れる基礎的な仏教精神を説いているので、チベット人たちが日常的に身につけている当然の仏教精神を、清い心を持った初心者に対して入口を示すことが本懐のようでした。
 これは日本で講演する意味として、宗教に対して迷走している日本人にも向けていました。

 さて、回想の続き。宗派を超えた預かり弟子として師匠の部屋で生活していた可愛いタグルン・マトル・リンポチェ。
 この子が上師としてのお披露目が催された。なんと…施主(スポンサー)にびっくり!! 3年前、ダライ・ラマ法王の大きな法要「カーラチャクラ」のとき、ホームステイ、いやテントステイしたご家庭のお父さん、ヨンテン・サンポおじさんだった!!
 なんというご縁!! 彼のテントに泊まってチベット人の生活の「普通」をしることができた。彼の子どもたちにチベット語を鍛えられた。お客様扱いでなく親戚のひとりとして一緒に生活したような日々だった。

 彼の弟がいて、子どもたちにとっての叔父さんは伝統的な物語を話してくれた。
 表向き一妻二夫であったが、弟はネパール人の雇い人と同性愛の関係にあり、実質一夫一婦の家庭。チベット人の多様な婚姻関係は、日本を出るまで一婦多夫がポピュラーだと思っていたが、デリーで一夫多妻の家庭と出逢い、一夫一婦もあり、あ…河口慧海先生が「兄弟で妻を共有」という男性視点での表現をされていたためだったのだと思った。

 ヨンテンおじさんの家庭にステイしたことで学んだことが多かった。
 思い出しているうちに現実に戻った。このお披露目の日、おじさんは施主としてエラそうではなく、照れながらの喜びを全身で感じていた。
 日本に戻って、この可愛い転生上師に日本製の子どもが好きそうな文房具を送ったりした。
 …そして数年前、フェイスブックで彼を見つけた。
 何と!! 台湾在住で、中国語も上手だった。
 チベット仏教の若手宗教者会議にも出席していた。

 彼と「友達」になっているが、いまだ彼は私を覚えていない。思い出していない。
 当時の写真を集めてみた。今度台湾に行ったときのためにネット経由で送るつもりだ。紙焼きやスライドを起こすのに、時代の流れを感じているが。
 …と、前置き的な話しのつもりだったが、ブータン領に入って感じたチベットとブータンの違いと共通点、「チベット仏教と中国人」いろいろと考えさせられることがあった。
 さらに…日本人…けっこう恥ずかしい思いをした…現地語が、中国語がわからなかったらスルーしていたことが…。
 今回はここで止める。
 次回は旅行記の続きに戻ります。

 (筆者は高校時間講師)


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