【オルタの視点】

民進党代表選挙は「再生」につなげられるか

羽原 清雅


 民進党の新代表を決める9月15日の選挙は、蓮舫氏を選んだ。滞りなければ3年間の任期を果たし、うち2年間、あるいは安倍氏が居残れば、さらにこの政権に対決していくことになる。重い責務である。蓮舫民進党はどのように進むのか、その力量に期待と懸念が錯綜している。
 民進党がとりわけ責任を問われるのは、一強多弱の雄だからではなく、現行小選挙区制度のもとで、2大政党による政権交代を担う一方の旗頭であるからだ。それに自民党ほどではないにしても、得票数に比例しない多めの議席の配分を受けており、「政権交代」を視野に置かなければならない立場にある。
 ただ、各種選挙の結果や世論調査を見れば、民進党は必ずしも期待されていない。そうした課題の多い民進党をどのように再生・浮上させていくのだろうか。

◆ <自民党政治をどう考えるか> ◆

 代表選挙を見ていて、意外だったのは3候補者のいずれもが、自民党政治にどのように対決し、どのように迫るか、をほとんど語らなかった点である。
 小選挙区選挙の導入に賛同した政党の流れにある以上、またこの選挙制度の矛盾を直そうとしない以上、建前にすぎないにしても、民進党は「政権交代のための2大政党」の一方であることの自覚がなければおかしい。政党の代表たらんとする者は、おのれの政権なら成すであろう指針を示すだけでなく、対決する現政権の問題点を突き、とって代わるべき道を示すべきだった。
 なぜ、そうではなかったか。それは、政権への道が遠いことを認識し、自民党政治を倒そうとの気迫が乏しく、またそうした準備がなされていないことを物語っている。蓮舫、前原誠司、玉木雄一郎3氏はともに「党を変えたい」といい、民進党の存在意義にも触れていたが、具体性がなかった。そのあたりに、蓮舫民進党の懸念がある。

◆ <いくつかの課題> ◆

 まず改憲問題。3人とも、岡田代表時代の「安倍政権での改憲論議には応じない」姿勢は継承せず、国会の憲法審査会での論議には応じる、との意向を述べた。少なくとも、「護憲」の立場ではない。前原氏は9条改定に乗り気、蓮舫氏は地方自治の改定の必要をにおわせた。
 だが、憲法論議の多様な状況の中で、個別に思い思いの見解を述べる前に、代表をめざす以上、まずは今後の党内意見の調整をどうするか、について語るべきだった。
 どの政党も、概して対立する党内論議を国民にさらしたがらず、多様な考え方がある中で、結論を一本化する努力に欠けがちで、この点は民進党も同様だ。しかし、内実の見えないままに党方針が決定されるかの一枚岩的な共産党、公明党は別として、あるいは異論があるかないかわからないままの自民党内は別として、やはり政党は論議の過程を見せたほうがいい。

 不満だとすぐに反主流に転じたり、群れて離党したりせず、侃々諤々の論議を公開し、党外に結論に至るプロセスを示すことで国民の理解を得るような仕組みをつくろうと努めるべきではないか。もちろん、そのためには対決や混乱を楽しむかの如きメディアの報道スタイルから、多様な論議を通じて結論が出されることを認め、その内容と状況をクールに伝える報道の姿勢に切り替わることも大切だ。とりわけ憲法論議は上滑りすることなく、あるべき将来の日本像を念頭に置いた論議が必要だろう。
 自民党は野党時代に、改定憲法の草案を発表した。かなり多くの問題を含むもので、今後の改憲論議を難しいものにしかねない要素がある。野党の気楽さが、思いのままの草案をまとめたのだろうか。野党も、政権の座に就けば、あらためて無責任を問われることになる。野党としての民進党も、この教訓を汲まなければならない。

 経済問題は、アベノミクス批判では一応の一致を見た。岡田前代表は、経済成長よりも国民への分配を重視した。蓮舫、前原両氏も建前として「分配」重視を説いた。維新グループには、安倍政権に同調するかのように、分配の前にまず経済成長がなければ、と主張するように、対立する意見があるが、経済格差が広がり、貧困層の増加といった世相からすれば、まずは「分配」重視が望ましいのではないか。
 党としてのしっかりした論拠を示して、アベノミクスに対抗すべきだ。

 では、岡田氏の「野党共闘」路線はどうか。前原氏は「政権を担うには、外交、安全保障、内政での基本的な考え方の一致が必要」といい、民共共闘には慎重だった。蓮舫氏は「共産との政権は目ざさないが、連携の基本的枠組みは維持」と述べた。
 政党は政権をともにする以上、基本的な問題での一致がなければならない。
 中曽根元首相は、自民党が下野したとき、秘書だった与謝野馨氏に「なにがなんでも時の政権を倒す。政策もなにもない。とにかく倒すのが野党の仕事」といったという。こうした政界の現実からすれば、野党共闘は必然、ということになる。1人区の衆院選を考えれば、現実的にならざるを得ないのかもしれないが、難しいところだ。民進党も、選挙まじかになれば、主張通りにはいかないのではないか。

◆ <党内結束が急務> ◆

 後述するが、民進党はもともと民主党時代から寄り合い所帯。政策目標の一致でできた政党ではない。あえていえば、自民党に行き損ねた者も含めての「反自民」勢力であり、政治家になるための「足場」としての政党であり、あるいは「寄らば大樹」に取りすがった集団である。
 したがって、政策や主張がさまざまのために統一性が取りにくく、執行部内でも意思統一が難航しがちで、議論の分かれる大問題での結論は極めてまとまりにくい。結党以来、その体質は変えられることなく続けられてきた。

 世論の半分は反対と言われる原発問題は、電力労組出身などの議員の存在で「反対」とは言いきれない。憲法問題も、自民党以上に保守的で「日本会議」所属の議員から、護憲第一とする議員まで、まとまりがつかない状態だ。特定秘密保護法や集団的自衛権などはなんとか反対にまとまったが、全党一丸といった強靭さはない。
 要は、自民党が招いてくれるなら、転身したいといった議員らもいるので、執行部の足場自体も危うく、党内の結束はなかなか難しい。口先の言葉はとにかく、政党を背負ってものを言うには、政党人として一人ひとりの決意、覚悟、誠実が求められよう。これが育たないと、党代表とはいえ、蓮舫氏も容易に党内をまとめることはできないだろう。
 現状のままで政権を握ることは難しく、まず党内収斂の構築に時間をかけなければなるまい。党としての見解や政策の一致に至るには、まず政党人としての訓練が求められる。これが蓮舫執行部の大きな仕事だといえよう。

◆ <政党としての成熟> ◆

 民進党が単なる野党なら、そう厳しく論評することはない。しかし、現行の選挙制度では、政権交代の任を負うべき2大政党のひとつなのだ。世論が民進党に不満を持ち、支持が伸びない理由は、先に3代の短期政権が期待の荷を背負いきれなかった失望感と、その後も立ち直りの努力が見えないことでの離反から、と言って差し支えないだろう。
 党名を変えるだけで、有権者は納得するとでも思うのだろうか。
 安倍政権の志向する政治に疑問を呈する有権者は決して少なくない。だが、受け皿たる民進党が長らく同じような体たらくのままに推移しているから、投票率の低下や政治無関心層の増大、あるいは小党の乱立や大義なき離合集散などの現象を生むのではないか。少なくとも、それくらいの自覚と自己反省を持ってもらいたい。

 蓮舫氏は「批判から提案、批判から創造」という。
 その言や良し、である。野党というものは、権力に対する批判、隠されたことの暴露と摘発、誤りへのブレーキ、といった機能を持つべきだ。同時に、具体的な対立軸の明示、政権側の施策への批判と対案つくり、新たな改革、中長期の具体的な展望と指針や施策の提示、なども求められて、そうした積み上げの魅力が選挙での期待の表明になる。
 だが、前原氏の繰り返す「戦犯」という思いは、出直し期待を呼び起こそうとの用語なのだろうが、有権者はそう甘いものではないのではないか。つい「靖国の戦犯」を思い、兵士と同列でいいのか、またぞろ岸首相的に再起するのか、などと考える。「戦犯」は民主党政権の悪夢を思い起こさせ、まだ体質は変わっておらず、現状認識の甘さを感じさせるのだ。

 2大政党制という政治的作為は、多様な価値観が生まれ、社会的格差が拡大するなかで、二者択一を迫るものであり、また日本のような島国のまとまりやすい民族の間では、さらに単純な選択を求めることになり、望ましい制度とは言えない。
 民主党政権は、官僚排除といった観念的なロマンを求めようとして失敗、また自民党の長期政権の残滓を一気に排除しようとして挫折した。その挑戦と経験はいい。しかし、次第に対立軸を示すよりも、現実に残された自民党スタイルの政策、手法などに引き付けられて、「2大政党の対決」よりも、ごく似通った政党のありように染まっていった。現実、そして継続性、慣習などを簡単に覆したり、否定したりすることはできないものだが、初心を忘れて追随型に堕していくような様相を強めた。
 寄り合い所帯なので、強力な方向性が取れず、ズルズルと旧来の保守型手法になじんでいく印象が強まり、新天地を開くといった気迫が見られなくなった。改革、変革の期待もしぼんでいった。議員の小型化もあっただろう。要は、対立軸の一方の担い手、としての魅力を失っていったのだ。これも蓮舫代表の課題のひとつである。

◆ <歴史的背景> ◆

 前身の民主党が生まれたのは1998年4月。18年の歴史がある。
 その直前、羽田孜氏の太陽党、鹿野道彦氏の国民の声、細川護熙氏のフロム・ファイブがまとまって政友党ができ、その政友党、鳩山由紀夫(元新党さきがけ)、菅直人(元社民党右派)両氏による民主党、旧民社党系の新党友愛などが合流して「民主党」が結成された。旧民政党は保守中道で岡田克也氏ら、旧民主党は中道左派で枝野幸男氏らがいた。2003年、鳩山氏の強い意向で小沢一郎氏の自由党を吸収合併したことで、党内に大きな波乱を招いた。だが、小沢グループは2011、2年に集団離党する。そして、2016年には橋下徹氏から分かれた維新グループを受け入れた。
 このように独自性の強い顔ぶれなど多様であると同時に、保守、革新など政党の出自も違ったので、混迷は避けられず、政権の座に就いたり、選挙で激減したり、不安定な状況が続いた。
 こうした党の性格上、「純化」はむりで、やはり折り合いの付け方に工夫と努力が必要だ。かつて社会党は純化を求める若手集団を擁して大混乱を招き、それが解党にもつながる事態になったが、党内結束のマナーが身につかない限り、政権復帰の道は遠いだろう。

 蓮舫氏は民進党第2代の党首だが、民主党時代からすると第12代にあたる。(1)菅(2)鳩山(3)菅(4)岡田(5)前原(6)小沢(7)鳩山(8)菅(9)野田佳彦<3代首相>(10)海江田万里(12)岡田、と18年間の7氏、延べ11氏なので、平均20ヵ月の命運だった。前原氏の7ヵ月が最短、鳩山氏の4年余が最長、菅、小沢氏が3年余だった。
 党名変更後の党情の変化の有無が蓮舫氏の肩にかかっている。

 民主党が重視した当初の政策を見ると、行政改革・地方分権・政権交代の3点。また、その後に「官僚依存の利権政治との決別」「地域主権社会の実現」などがうたわれ、さらに「自立した個人が共生する社会」「コンクリートから人へ」「新しい公共」などがアピールされた。その発想はいいとして、どのように具体化されただろうか。
 あえなく消えた「マニフェスト」も、心はあったが、実が伴わなかったといえよう。

◆ <蓮舫新代表の課題> ◆

 歯切れのいい蓮舫代表だが、おのれを推している前代表をユーモアも感じさせない「つまらない男」と表現したことは、人間として愕然とさせる発言だった。相手を尊敬しない政治家、そしてリーダーは成功しない。甘えるべきではない。おごるべきでもない。

 それはそれとして、課題としてすでに挙げた「党内結束」「政権交代政党の責務」そして「当面する課題」のほかに、3点だけ触れておきたい。

 ひとつは、政党としての組織の構築、である。民主党は概して「風」待ち、ムード依存の傾向にあった。地方組織を支えるはずの地方議員、あるいは地方専従党員は国会勢力よりもはるかに微弱だ。選挙用ではなく、地方でのアピールを果し、政党としての存在感を示す対応策とともに、なんらかの財政力を築くべきだろう。選挙時になると動くマシーンではなく、日常の活動を支える組織である。それは、自民党的な個人後援会型のものでもいい。
 政権を獲得できるだけの力量をアピールし得る足場を強め、選挙時以外でも関心の持たれる党組織がなければ、2大政党に責務は果たせまい。極めて困難な作業になるが、蓮舫時代に手を付けたほうがいい。

 そのことに関連するのだが、第2は「連合」への依存の問題である。
 社会、社民党が総評などの労組に依拠した結果、「連合」組織に代わると、党の溶解につながることになったのはよく知られるところだが、民進党はこの組織との関係をどのように考えるか、である。
 選挙時に動き、その組織に乗せてもらってもいい。政策面での連帯もいい。その必要性は理解できよう。
 ただ、「連合」依存は、例えば原発に対する姿勢を歪める結果を招いてもいる。関係労組への遠慮だろうが、世論の不安の声を吸収できていない。また、非正規労働に従事する多数の人々を支援し、待遇見直しを求めるなどの対政府交渉の動きが鈍いなどの批判がある。大手企業中心の組織で、中小、零細企業などにまで手が届かない現実に、民進党はどのように働きかけるのか。選挙支援と引き換えに、口をつぐむのか。
 政策的には利害の一致も多いはずで、その連携のあり方も蓮舫時代に前進させて、貧困問題などの底上げに力を投入すべきだろう。

 第3に、安倍政権の分析を強め、その不安定感、将来の社会に及ぼしかねない政策的リスクなどの問題点を、広く考えていけるような冷静なプロパガンダを試みてはどうか。安倍政治に恩恵を感じる人々の一方で、当面の貧困にあえぐ階層や、教育や軍事、年金、隣国関係など中長期的に影響を受ける懸念を抱く人たちも少なくない。
 政党利益のためばかりでなく、しっかりと問題の所在をつかみ、過去現在未来の流れの中で考えられるような視点での発信はできないものか。そのための、民進党批判もありうるようなブレーンシステムを擁してはどうか。時代の変化が大きく、将来に禍根を残しかねない課題も多く、そんな機能を抱えるくらいの政治的投資も期待したいところだ。
              ・・・・・・・・
 民進党は前途多難だ。自民党政権にとって代わることも容易ではあるまい。
 そうした前段階として、まずは党内のありように工夫を凝らし、多くの党員、議員の意識を高める努力を、蓮舫新代表に期待したい。いや、期待せざるを得ないのだ。

 (オルタ編集委員、元朝日新聞政治部長)


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