水田畜産について

■ 【提言】

   水田畜産について                    力石 定一
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 国土計画で、どうしても重視しなければならないのは、日本の水田の問題であ
る。世界が食糧危機に直面したとき、水田という安定した食糧供給装置を維持し
ていることがどれほ大切かということを忘れた議論は困る。

 また水田は、重要な遊水地機能を果たしているのであって、減反と称してこれ
を畑にかえると水害を起こすことになる。1980年代に志村博康東大教授は、「全
国の水田の洪水調節能力は81億トンあると推定され、日本全国にある洪水調節用
ダムの能力が25億トンであるから水田を3割減反して畑に変えると、日本の洪水
調節用のダムの能力を全部停止するのと同じことで、いたるところで、河川が氾
濫を起こし、これにたいして土木予算で対応しなければならなくなる」と述べて
いた。

 1980年代に水田は300万ヘクタールあった。今や195万ヘクタールに減少してい
る。30%減少していた。この間に、実際莫大な洪水調節用の土木予算が投入され
てきたわけである。
 
  山林の保水力の低下が呼び起こす土木予算と同じ問題である。食糧自給力を守
ることと合わせて、水田のこれ以上の崩壊を食い止める方途を考えなければなら
ない。私は「食用米が過剰になった部分は餌米づくりに転換するとよい」という
説に賛成である。アルボリオJ-10という、菅原友太宇都宮大学名誉教授がイタリ
アのアルボリオという品種を改良して作り出した品種が注目されている。

 これは生育が旺盛で、草丈が高く、普通米の2倍の藁が取れる。実がなる前に青
刈りをして、粗飼料を牛に食べさせる。株を残しておいて、株立ちしてきたもの
の実を取るのである。この草も粗飼料として牛に食べさせる。モンスーン地帯に
ある日本では餌米の成長は非常に良くて1ヘクタール当たり草の量は、欧米の乾
燥地帯の牧草の30倍とれる。

 1ヘクタールで30ヘクタールの大牧草地を持っているのと同じである。
餌米の実は、普通の米の粒の1.5倍ぐらい大きい。これをそのまま牛に食べさせ
るのではなく、まず醸造してアルコールをとる。このアルコールはまずくて飲め
ない。ガソリンに混ぜてガソホールにする。石油を使ってガソホール用のアルコ
ールを醸造するのでは何をやっているかわからないから、石油を使わないで醸造
する方法、つまり焚火で蒸煮し醸造するのである。(サントリーがこの酵母を見
つけたそうである)できたアルコールから水分を分離しないと燃料にできない。

 その時に石油を使ったのでは意味がないので、新素材の膜を通して水分とアル
コールを分離し純度の高いアルコールにする。また醸造過程で炭酸ガスが出る。
これは燃焼させて出る炭酸ガスと違って集めて固形化してドライアイスにする。
こうして、餌米の実の澱粉からアルコールを取った後の酒粕を牛に食べさせるの
である。
 
  この時にアルコールをとっても飼料効果は減らない。むしろ生で食わすよりも、
酒粕の方が飼料効果は増加する。なぜなら醸造過程で蛋白質が増殖されるからで
ある。

 牛は、こうやって餌米の粗飼料と酒粕で肥育をする。この牛は一日に30kgの
糞尿をする。 これをためて、メタン発生装置でメタンガスをとる。冬は寒いか
らメタンで暖めてやると、暖めるのに使ったのより多くのメタンが取れる。農家
の自家消費以上のガスが取れるから、このメタンはパイプラインで都市ガス会社
に売る。都市ガス会社は天然ガスと混ぜて配給する。
 
  また、メタンをとった後の肥料こそが有機肥料として有効なのであり、これを
土壌に還元する。重要な点は、この過程の中に適度な牛の放牧を織り込んでやる
ことである。平地の水田畜産と中山間地農家の協力の在り方が工夫される必要が
ある。今一つはこの牛の肥育は鹿児島の草原で思いっきり放牧して丈夫に育てら
れた育成牛を用いるべきではないかと思う。

 このような畜産農家は、エネルギーや飼料や肥料をほとんど買わず、輸入肉に
も対抗できる収益率の高い経営を展開し、大都市の知的な働き手の新しいフロン
テイアが地方にあることを知らせることになるだろうと思う。
  このような形で水田を維持しておけば、世界的な食糧危機に直面したときに、
いつでも食用米に作付を転換して対応することができるのである。最近、中国や
朝鮮からの藁の輸入が原因といわれる口蹄疫が問題になって入るが、畜産におけ
る有機農業の原則からの逸脱現象の一つであろうと思う。

 (筆者は1926年生まれ、社会工学を研究。法政大学名誉教授。『都市環境の条件』 など著書多数。)

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