沖縄の海兵隊はグアムへ行く 吉田健正著

■書評

『米軍グアム統合計画――沖縄の海兵隊はグアムへ行く』

             吉田健正著 (高文研刊・定価1200円)
                                  清川紘ニ
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  目下、日米両政府間の大きな懸案となっている普天間基地移設問題について、
本書は米側の資料である『環境影響評価案(環境アセスメント)』をもとに、米
軍グアム統合マスタープランの実態に着目することを執拗に訴えている。
 
米国の環境法では、大規模工事に対して「環境への影響を予測し、評価し、そ
の内容を公表して意見を求め、それを取り入れる」ことが定められている。著者
が着目する『環境影響評価案』は「グアム統合マスタープラン」(2008年4月)
を実行するために2009年11月に作成されたもので、要旨が1巻、本論が9巻、計
10巻約8000ページからなる膨大なものである。
 
そのなかで、普天間基地移設と関連するのは、第2巻「在沖海兵隊のグアム移
転に伴う施設・インフラ整備、グアムでの訓練・作戦活動」と第3巻「グアムに
おける海兵隊施設・インフラ整備とテニアンでの訓練・作戦活動について」であ
ろう。第2巻第2章には、「(グアムの)アンダーソン空軍基地は適合性と基準
のすべてを満たしている唯一の選択肢であり、沖縄から移転することになってい
る航空機を受け入れるだけの十分なスペースをもっている」という記述もある。
 
このことは、伊波洋一宜野湾市長が「米海兵隊のグアム移転は日本政府が要望
したからではない。米側は海兵隊がグアムにいた方が迅速に有事に対応できる戦
力を維持できるとしている、沖縄の常駐部隊は全部グアムに行く流れだ」(朝日
新聞2009年12月11日)と述べたことと符合する。
 
つまり、『環境影響評価案』が示しているのは、国防総省はグアムを含むマリ
アナ諸島全域を沖縄に代わる広大な軍事拠点とし、沖縄の海兵隊の適切な移転先
をグアムとすることによって、グアムが西太平洋地域における海軍の拠点、安全
保障のハブとするということである。言い換えれば、普天間海軍航空基地の役割
も、グアムのアンダーセン空軍基地のロースラング地区に移っていくということ
であろう。

 著者はすでに昨年12月、沖縄タイムスでの4回連載コラム「グアム移転計画の
真実――米報告書を読み解く」(12月15~18日)で、米軍のグアム統合計画によ
って「沖縄の海兵隊はグアムへ行く」と述べている。その見出しと内容は次の通
りである。

 (1)普天間ヘリ移設を明記――あらゆる訓練と施設想定
  (2)「司令部のみ」との誤謬――地上・航空などの移設明記
  (3)日本のみ恒久配備了承――安保堅持のための費用負担
  (4)空母寄港港湾建設を計画――沖縄の役割大きく減少か   

 また、本年2月にも同新聞に3回連載コラム「動きがだしたグアム移転」(2
月16~18日)を書き、次のような見出しのもとに、グアム移転が執行段階に入っ
ている現実にも注意を喚起している。
  上「3億ドル承認入札完了」
  中「基準満たす『放置』空港」
  下「執行段階に入っている基地建設 住民に賛否」

 このような米側の確実な資料にもとづく実態報告を、日本のどの政治家もメディ
アも着目していないことに、まず驚かざるを得ない。

 本書『米軍グアム統合計画――沖縄の海兵隊はグアムへ行く」は、上記の2本
の新聞コラムの内容を、さらに第一次資料である『環境影響評価案』に基づいて
詳細に跡づけ、その全貌を明らかにしたものである。序とそれにつづく5章のな
かで、普天間基地移設にかかわる主要な部分は、第II章「SAGO合意」から「
米軍再編ロードマップ」と第III章「在沖海兵隊グアム移転の経過」、第IV章「海
兵隊移転を含んだグアム軍事拠点構想」である。第IV章「米軍の軍事拠点・グア
ム」、第V章「グアム住民はとう見ているか」では、移転先グアムの様子を伝え
ている。

 また、本書の特色のひとつは、小見出しが分かりやすく多用され、メモやQ&
A等が活用されていることである。それによって、一般の読者にも非常に読みや
すい記述となっている。例を挙げれば、第III章「在沖海兵隊グアム移転への経過」
では、次のような小見出しやメモが並んでいる。

 「統合グアム計画室が作成した『環境影響評価案』」「日本以外の東アジア同
盟国は新基地受け入れに難色」「"最善の選択"はグアムだった」「『グアム統合
軍事開発計画』(二〇〇六)に示された再編構想」「普天間の航空戦闘部隊はア
ンダーソン空軍基地へ!」(以上小見出し)
  「なぜナグアムか?――海軍統合計画室のQ&A」「環境影響評価と基地建設」
(以上メモ)

 2009年10月に来日したゲーツ米国防長官は、「普天間基地の県内移設がなけれ
ば、在沖海兵隊のグアム移転はありえない」と述べたが、それとは裏腹に、すで
にグアム移転は実施に向けてスタートしているのである。

 本書は、普天間問題が移設先問題ととりちがえられ、自ら袋小路に入ってしま
っている日本の現状を目前にして、「日本国民を置き去りにして進行していく様
をみかねて」「沖縄の普天間基地移設問題に深く関わる重大な事実を一日も早く
伝えたいという思いにせかされて」、膨大な資料に単身で立ち向かい、「急ぎと
りまとめられた」ものだという。

 グアムを拠点とする一大軍事基地計画の実態を「一次資料から読み取る」こと
の必要性を痛感させられる、まさにタイムリーな必読の書と言わなければならな
い。

 同じ著者による前著、「軍事植民地・沖縄――日本本土との温度差の正体」(
高文研)も戦後沖縄の米軍基地の歴史と現状について述べた良書であり、併読さ
れることをおすすめしたい。

(沖縄の「基地と行政」を考える大学人の会、法政大学沖縄文化研究所)

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