【コラム】技術者の視点

洞窟に眠る夢

荒川 文生


 もはや半年前となって仕舞いましたが、今年5月に北欧フィンランドに在る放射性廃棄物処分場(オンカロ)を視察する機会に恵まれました。氷と雪に閉ざされた長い冬から解放されて、森の国フィンランドは爽やかに香り立つような緑に包まれ、豊かな自然と共にありました。チェルノヴィルや福島では、幾重にも包まれて「安全」と言われた核燃料が原子力発電所から周辺の海や大地に拡散し、人々から住むべき家や食すべき魚貝を奪い去りました。フィンランドではこのような事が起こらないように、使用済み核燃料や発電所から出る放射性廃棄物を地下450mの硬い岩盤の中に廃棄処分しようとしているのです。果たしてフィンランドは、この豊かな自然を破壊しないで済むのでしょうか?

 オンカロとは、「洞窟」と言う意味ですが、これは下の写真の上部に見えるオルキルオト発電所の敷地地下に下図のようなトンネルを掘削し、そこで使用済み燃料など放射性廃棄物を処分するものです。その容量は、オルキルオト発電所(現在2基が稼働し、3号機の計画は凍結状態)から出るものに限られ、外部からの搬入は考慮されて居ません。ここには、「持ち出さず、持ち込ませず。」の原則が在ります。つまり、「核武装はしないし、させない。」という訳です。

画像の説明

 フィンランドは、日本と同じく狭い国土の上に、長い歴史と伝統を豊かに抱いて居ります。かつて、スウェーデンやロシア、そしてヒットラーの圧政に耐え、第二次世界大戦の「敗戦国」の位置に甘んじながら、健全なる行政や教育の面で高い国際的地位を確保して居ります。そして何よりも「自主独立」の気概に燃え、報道の自由では世界の1・2を競って居ります。日本として学びかつ協力する事が極めて多く、かつ有意義な国であると、今回のオンカロ視察で実感致しました。

 民主主義の何たるかを見失っている日本の現状を観るにつけ、萎えた気力を「交響詩 フィンランディア」を聴くたびに回復し、癒されて居ります。

  オンカロの地底に潜む春の夢  (青史)

 (地球技術研究所代表)


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