【コラム】
ザ・障害者(23)

津久井やまゆり園事件、そして施設か地域か

堀 利和

 津久井やまゆり園事件を考え続ける会が、1月27日に相模原市で開催した対話集会を紹介する。3つの資料として、1つは対話集会のよびかけ案内、2つめは会の会員でもある成田・神奈川新聞記者が報道した記事の概要(著作権法から記事そのもののここへの掲載は不可)、そして3つめに参加者の感想アンケートの一部。
 このような対話集会は私にとっても初めての経験。おそらく施設派と地域自立派の関係者にとっても、一堂に会したこのような対話集会は初めての試みであるといえる。その意味でも大変興味深い。

◆ 1.対話集会のよびかけ案内

 津久井やまゆり園事件を考え続ける・対話集会
 「父達は語る~なぜ 親・家族は施設を望むのか 或いは望まないのか?~そこには何が?」

 2019年1月27日(日)
 会場:ソレイユさがみ ミーティングルーム1
 主催:津久井やまゆり園事件を考え続ける会

はじめに  堀 利和氏(共同連代表、『季刊福祉労働』編集長)
発言者   神戸金史氏(TKB毎日放送記者、2018年日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞受賞)
      大月和真氏(津久井やまゆり園家族会・会長)
      尾野剛志氏(津久井やまゆり園家族会・前会長)
コーディネーター  岡部耕典氏(早稲田大学教授)
全体進行  杉浦 幹(勇気野菜プロジェクト)

2016年7月26日に事件が発生して以来、それは私たちに暗い影を落としてきました。それをどう受け止めたらよいか、未だに答えを見いだせていません。「考え続ける会」としても、これまで何度か講演やシンポジウムを開催してきました。
事件から2年半、今回は、親・家族が「なぜ」施設を望むのか、望まないのか、それを真正面から対話してみたいと思います。参加者の皆さんの中にも施設のあり方についてそれぞれの賛否の意見はあるかと思いますが、それを巡って二項対立に陥らないためにも、その正否を問うことを目的とするのではなく、WHY?「なぜ?」に耳を傾け、考える対話の場としたいと思います。

◆ 2.会の会員でもある成田・神奈川新聞記者が報道した記事の概要

 障害者生活どう支援 相模原「やまゆり園」家族ら集会
 事件から2年半 住まいへの思いは   (神奈川新聞1月28日 成田洋樹)

 同園の現在地での再建を求めてきた尾野さんは、都内の支援団体との出会いから、息子のアパートでの自立生活を模索している現状を説明。「施設よりも自由な暮らしができるのは確か。最終的に判断するのは息子だが、数年後に実現させたい」と語った。一方、入所施設の必要性をこれまで訴えてきた大月さんは「社会にはさまざまな障害者がいるので、施設もGHも1人暮らしもそれぞれ必要。どんな場でも適切な支援を受けられるべき」と訴えた。自閉症の息子(25)が地域で支援を受けながら自立生活をしている岡部さんは「当事者や家族が入所施設をなぜ選ばざるを得なかったのか。施設以外の選択肢を示せてこなかった社会の責任だ」と強調。息子の将来についてGHでの生活を視野に入れている神戸さんは「地域社会で顔見知りの人間関係をつくることこそ、障害者の生活を支えることにつながるのではないか」と述べた。(参加者200名)

◆ 3.参加者の感想アンケートの一部

①<しょうがい当事者> やまゆり園のご家族の生の声がきけたことがよかったです。知的障害の人の選択肢には、シセツ、グループホームしかないことにいきどおりを感じています。一人でくらす、けっこん、友だちとくらすことを選択肢とする社会にしなくてはいけないとおもっています。がんばりましょう。

② 母親は多分障がい者の最後の行き場を自分が元気なうちにさがしていきたいのだと思います。それが保障されるのなら、在宅でもグループホームでも施設でも本人が楽しんでいける所ならよいのです。グループホームだけが地域ということではないと思います。在宅でヘルパーを使って暮らしていくことも地域で暮らしていくことです。高齢者が特養の入所待ちのように障がい者にも施設が必要だと思います。

③<元施設職員> とてもとても おもしろかった。次回ぜったいに会を開いて下さい。☆平野さん(津久井やまゆり園元家族会)が発言した「虐待」を追及してほしい。家族で知らない人がいる?実体が、家族会会長(2名)となぜこんなに違って語られてるのか? びっくりしました。まずは救うことから大事です。

④ それぞれの立場・考えを出し合ってもらったのはよかった。ただいろんな選択肢があるということで済ませてしまうのではなく、なぜ殺傷事件がおこったのか、そのこととどのように暮らしていくのかを関連づけて考えていけたらと思います。教育のことも絡めていけたらと思います。小さい時から一緒に育つことは重要だと思うが、意外と話題にならないのは何故でしょう?

⑤<学生> 高校1年です。障がい者の居場所に関するお話、とても興味深かったです。考えは違っても、このように対話する集会は素晴らしいと思います。
自分も彼らの居場所を考えてみたいと思います。

⑥<学生> 簡単に「地域!地域!」と言うことの危けんがあると感じた。私は、メディアへの就職を目ざしている学生であるが、なぜ、やまゆり園の家族が施設と、求めるのかを報じねばならないと感じた。

⑦<番外:堀 利和> 選択・選択肢とは、AからEまでの全てを選択できる状況の中でEを選んだ時に初めて「選択」と言える。しかしEしかない、AからDに拒絶された状態の際にはEを選択したとは言えない。選択させられた、すなわち強制されたということであって、それは選択幻想にすぎない。矛盾には本質的矛盾と副次的矛盾がある。この場合、本質的矛盾は施設否定。しかしそこに現に施設があり、したがって否定すべき施設だからと言って、それが非人間的人権侵害にあったなら、それを改善するのは当然。これを副次的矛盾という。ここに対話が成立する。社会的コミュニケーションである。

 (元参議院議員・共同連代表)

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