海底の物語

日中間の不理解に挑む(7)

海底の物語

                               朱 輝


 次の童話は日本の小学生の教科書から引用したものです。

 海は広くて果てがありません。真っ青な海の深いところに、無数の水中生物が暮らしています。クラゲ、タツノオトシゴ、クジラ、イルカと数えきれない生物がいます。海は深くて測ることができません。大魚は小魚を食べ、小魚は小エビを食べます。果てしない海の中には楽しいことがいっぱいありますが、危険もいっぱいです。あちこちに、食うか食われるかの危険がひそんでいます。
 この広大な海の中で、ある小魚の群れが暮らしていました……童話はここからスタートします。

 赤い小魚は海の深いところで暮らしています。彼らは体が痩せていて細く、泳ぎも遅いです。彼らは群れになって自由に泳ぎ回り、食べ物を探しながら、敵を避けています。強敵がたくさんいる海の中で、彼らはとても攻撃されやすく、自分で自分を守る力もありませんでした。

 ある時、からだ全体が真っ赤な小魚達が泳いてきました。一匹のイタチザメが、後ろから彼らをつけていました。赤い小魚は危険を察知して、一生懸命逃げていきます。突然、小魚達の前からもう一匹のサメが現れました。大きく開けた口は渦を巻き、周りの物を飲み込むように近づいてきます。可哀そうな赤い小魚は散り散りになって、命からがら逃げました。危険が去って、もう一度集まった時、たくさんの仲間はもう永遠に帰ってきませんでした。
 赤い小魚たちは、とても悲しくなりました。

 その時、一匹の黒い小魚が泳いできました。赤い小魚達に「皆、もう泣かないで、何か方法を考えようよ」と言いました。
 赤い小魚は「方法なんか、ないよ。サメは凶暴だし、大きいし」
 黒い小魚は「怖がらないで。力を合わせるんだ。私の言うことを聞いて」
 黒い小魚は、巨大な赤い小魚の群れの周りをぐるりと回りました。彼は回りながら、「いいかい、自分の泳ぐ位置を決めて、皆が一緒に泳ごう。一匹の大きな魚に見えるようにね」と話しました。黒い小魚は、魚の群れの中に入って、止まりました。「私はここ。大きな魚の目になるよ」

 彼の話を理解した赤い小魚は、全員が動き始めました。あっという間に、一匹の黒い目を持つ赤い大魚が現れました。それはとても大きくて、全身が赤い光で輝いています。海の中には、今までなかった魚です。その黒い目もとてもきれいです。黒い小魚は「さあ、出発だ! 食べ物が一番たくさんあるところへ行こう」と言いました。

 赤い大魚は静かに海底に沿って進んでいきます。遠いところにイタチザメがいましたが、怖がって、どこかへ行ってしまいました。クジラもびっくりして、向きを変えて遠くへ逃げました。

 それから——童話の最後はこうです。——それから、赤い小魚達は、海の中で楽しくすごしました…。

 1999年、私は一時期、日本で複雑な気持ちを持って暮らしていました。私は息子を連れて来ましたが、息子は中国の小学校の教科書を持って来ました。息子は日本の学校に入りました。前述の通り、この童話は日本の小学校の教科書からのもので、私はその作者ではありません。中国の一人の読者として、この童話を読み終わって、大いに驚きました。私は中国語を愛しているので、日本では息子が持ってきた中国の教科書も私の読書の対象となりました。しかし、正直にいうと、私はこの教科書やこの童話が好きです。この童話はとても内容が豊かです。悲しみや苦しみがあり、団結した時の力も見られます。リーダーと集団の関係も描かれています。もっともっとたくさんの事柄が描かれているかもしれません。はっとするような、尊敬される民族性は、このようにして育まれたのでしょう。
(校正:棚田由紀子・中国人作家 朱 輝さん寄稿のエッセイをお届けします。)

※この記事はCSネットの承諾を得てCSネット40号から転載したものです


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