【オルタのこだま】

■王教授の研究文に感銘する            今井 正敏

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 今年の日本と中国は温家宝首相の来日を皮切りに、日中国交正常化35周年、
日中戦争、南京事件などから70周年といった周年があいつぎ、中国側も「歴史
的に敏感な年」(李肇星外相)と捉えているから、マスコミでの日中関係の記
事が例年より多くなるように思う。それを先取りするかのように「オルタ」3
9号には中国関係記事が3本載った。
 そして、前号につづき洛陽外国語学院大学王鉄橋教授の『花から中国と日本の
文化を見る』も掲載され、まさに文字どうり春にふさわしかった。
 王教授は論考の冒頭で「和歌(古今和歌集・905年)の中の五本の指に入って
いる花は
花(特定の対象のない花)、桜、梅の花、女郎花、菊の花の五種である。唐詩の中
ではあれほど多かった桃の花も、和歌の中にはどこにもない。特に説明したいの
は和歌の中の特定対象のない花はほとんど桜の花を指している。」と述べられ例証
として二首の和歌をあげられている。
 つづいて「桜は日本では群芳に追いかけられない『鶏群に一鶴』のような地位
を占めている」と書かれ、その根拠になる出典に《般若盛百首》を示している。
この《般若盛百首》は一部の学者や研究者以外に一般の人には殆ど知られていな
いと思われるので、王教授の学識の深さ、旺盛な研究心に敬服した。
 ついで王教授は「『桜の花の歌』の中で、「桜は散る」というような和歌は半分
以上も占めていて圧倒的に優勢であるが、桜の盛りを賛美する和歌は13%しかな
い。これを通して日本人の考えの特徴および美学意識をうかがうことができる。」
と述べ、桜を通しての「日本人論」にも触れられている。
 そして、「桃の花と同じく日本文化の中で特別な意味を持っている桜にも十分な
単語群がある。」として桜前線、桜吹雪、桜狩・・・・・など21もの単語を列挙
しておられる。
 日本人でも、これだけの数はなかなか上げ難い。ただ「夜桜お七」の歌で知ら
れる「夜桜」が見えなかったので、王先生も日本の演歌にはご縁がないのかと思
った。
 王教授は、中国では上品な花として扱われている梨の花は日本では詩歌では使
われていない理由、花と雪に比喩するときの中国と日本の違い、日本の「花」の
王者は最初から桜だったのではなく中世以前は「百花の頭」に梅の花があげられ
ていたことを指摘され、ここにも王教授の日本文化に対する幅広い研究がうかが
えた。

さらに王教授は唐詩、《万葉集》《古今和歌集》《古今著聞集》《草木六部耕
植法》《大和本草》さらに本居宜長の《玉勝間》まであげられて花から見た日
本と中国の文化比較を明快に論じておられ研究の厚みに驚いた。
 中国の「風花雪月」と日本という最後の項目では「雪月花」という唐詩の中の
言葉は、平安時代(西暦794年~1192年)の日本の文化人に受け入れられ、室
町時代、江戸時代には完全に日本文化の中に浸透していました。中国と日本文化
のこのような親縁な関係は両国文化の間に多くの共通した源があることを表して
いると同時に、中国と日本の共通で大切な文化遺産になることと思います」と述
べられている。

 時あたかも、今年は「日中文化・スポーツ交流年」。王鉄橋教授の『花から中国
と日本の文化を見る』は交流年のテーマにピッタリであった。
 これからも王教授が研究に精進され、日本と中国の共通した文化の発展に寄与
されることを期待したい。
                       (筆者は日青協本部役員)

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